『婚約破棄はおいくら?』 ──婚約破棄はまず、精算からお願いしてもいいですか?

夢窓(ゆめまど)

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新たな結婚申し込み

(国外からの縁談)

──数日後。
キャスリンの屋敷の応接間。執事ジェームスが、厚い羊皮紙の封筒を数通抱えて現れた。



ジェームス
「お嬢様。国外の大公閣下、隣国の王弟殿下、さらには帝国の若き侯爵から──正式な縁談のお申し込みが届いております」

机の上に積み上げられる、煌びやかな紋章入りの書状。
どれもが一国の未来を左右するほどの家柄ばかりだ。




「まあ……すごいわね。やはりキャスリンは引く手あまた」


「さすが姉上! 王家なんか相手にしなくても、未来は明るいじゃないか!」



キャスリンは扇子を開き、静かにため息をついた。

キャスリン
「ふぅ……ですが、もうこりごりですわね。
国のためだとか、王家の面子だとか、そういうものに振り回されるのは。
──本と紅茶さえあれば、私は十分に幸せなのですから」



ジェームスは思わず微笑む。
だが、その目は鋭く光っていた。

ジェームス
「とはいえ、お嬢様。縁談の山を無視すれば、今度は“どの国がキャスリンを得るのか”で外交問題に発展するやもしれません」

キャスリン
「……そういう厄介事ばかりが増えていくのですね」

彼女は肩をすくめ、扇子で頬を隠しながら、皮肉めいた笑みを浮かべた。



(静かな日常と予兆)

──午後の柔らかな陽射しが差し込むサロン。
キャスリンは愛用の椅子に腰を下ろし、分厚い書物を開いていた。
テーブルには香り高いアールグレイと、母手製のジャムをのせたスコーン。



キャスリン(心の声)
「やっと……静かに本と紅茶に戻れるわね。
婚約破棄だの、請求だの、国外縁談だの……騒がしいのはもう十分」

ページをめくる音と、カップを置く小さな音だけがサロンに響く。
彼女は穏やかに微笑み、しばし現実を忘れるように紅茶をすする。



そこへ、執事ジェームスが控えめに扉を叩いた。

ジェームス
「お嬢様……お静かなところ、失礼いたします」

キャスリン
「なにかしら? 今度はどこの国からの縁談ですの?」

ジェームス
「いえ、それとは別件にございます。
──王城のほうで、また妙な動きが」



キャスリンは本を閉じ、目を細めた。

キャスリン
「……波乱は、やはり向こうからやってくるのね」

扇子を軽く鳴らし、笑みを浮かべる。

キャスリン
「まあいいわ。嵐が来ようと、紅茶の香りは私を裏切らない。
さあ、次はどんな茶番かしら──?」



(外交使節団の来訪)

──キャスリン邸。
執事ジェームスが慌ただしく扉を開け放つ。

ジェームス
「お嬢様、大変です! 国外からの使節団が、すでに屋敷の門前に並んでおります!」



キャスリンは本を閉じ、紅茶を一口含みながら、ちらりと窓の外を眺める。
煌びやかな馬車と、各国の紋章を掲げた旗がずらりと連なっていた。

キャスリン
「……本当に来たのね。噂だけで終わってくれればよかったのに」



各国の使節団が次々と名乗りを上げる。
 
隣国の王弟殿下「キャスリン嬢、あの才覚に心から惹かれている。我が国にぜひ」

帝国の侯爵家嫡男「経済の目を持つあなたこそ、帝国の未来を支える花だ」

大公国の使者「我が君は、あなたを正妻として迎える覚悟でいる」

サロンが一気に外交の場と化し、家族も唖然とする。



キャスリンは扇子を開き、涼しい笑みを浮かべる。

キャスリン
「まあ……お言葉はありがたく頂戴いたしますわ。
ですが──本当に私なんかでよろしいのかしら? 私はただの本好きの娘ですのに」



その頃。
王城では、この事態の報告を受けた第二王子アベルが額を押さえていた。

アベル
「……まずい。
このままではキャスリンが国外に取られる。
兄上の愚行の尻拭いどころか、国の存亡に関わる……!」

焦燥に駆られ、アベルは立ち上がる。
彼の心に芽生えたのは、国家の危機感と──それ以上に「キャスリンを失いたくない」という個人的な感情だった。



(アベルの急訪とキャスリンの拒絶)

──キャスリン邸、サロン。
各国の使節が引き上げ、ひとときの静寂が戻った頃。
外の馬車が急停止し、扉が荒々しく叩かれる。

執事ジェームスが慌てて扉を開けると、第二王子アベルが飛び込んできた。
額には汗が光り、普段の冷静さを欠いた様子。



アベル
「キャスリン嬢──!」

キャスリンはカップを持ち上げたまま、静かに彼を見やる。

キャスリン
「まあ、殿下。王城を飛び出してまでどうなさったの?」



アベルは深く息を整え、いきなり膝をついた。

アベル
「頼む、この国に残ってくれ!
国外に渡れば、我が国の力は大きく削がれる……
本が読みたいのなら、私がどれほどでも叶えよう。
契約結婚でも構わない──どうか、この国に」



サロンにいた家族が息を呑む。
第二王子がここまで頭を下げるなど、誰も想像していなかった。

だが、キャスリンは扇子を開き、ため息まじりに笑った。

キャスリン
「……やだわ。邪魔くさい」



アベル
「……っ!」

キャスリン
「私はただ静かに本を読んで、紅茶を楽しみたいだけ。
国のため? 婚姻のため? そういうものに巻き込まれるのは、もうこりごりですの」

彼女の声は穏やかだが、決して揺らがなかった。



アベルは言葉を失い、俯く。
しかしその背中からは「諦めきれない」という強い意志が滲んでいた。

アベル(心の声)
「……このままでは彼女を国外に奪われる。
だが、彼女が望むのは“自由”……。どうすれば、彼女を守れる?」


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