5 / 18
新たな結婚申し込み
しおりを挟む
(国外からの縁談)
──数日後。
キャスリンの屋敷の応接間。執事ジェームスが、厚い羊皮紙の封筒を数通抱えて現れた。
⸻
ジェームス
「お嬢様。国外の大公閣下、隣国の王弟殿下、さらには帝国の若き侯爵から──正式な縁談のお申し込みが届いております」
机の上に積み上げられる、煌びやかな紋章入りの書状。
どれもが一国の未来を左右するほどの家柄ばかりだ。
⸻
母
「まあ……すごいわね。やはりキャスリンは引く手あまた」
弟
「さすが姉上! 王家なんか相手にしなくても、未来は明るいじゃないか!」
⸻
キャスリンは扇子を開き、静かにため息をついた。
キャスリン
「ふぅ……ですが、もうこりごりですわね。
国のためだとか、王家の面子だとか、そういうものに振り回されるのは。
──本と紅茶さえあれば、私は十分に幸せなのですから」
⸻
ジェームスは思わず微笑む。
だが、その目は鋭く光っていた。
ジェームス
「とはいえ、お嬢様。縁談の山を無視すれば、今度は“どの国がキャスリンを得るのか”で外交問題に発展するやもしれません」
キャスリン
「……そういう厄介事ばかりが増えていくのですね」
彼女は肩をすくめ、扇子で頬を隠しながら、皮肉めいた笑みを浮かべた。
⸻
(静かな日常と予兆)
──午後の柔らかな陽射しが差し込むサロン。
キャスリンは愛用の椅子に腰を下ろし、分厚い書物を開いていた。
テーブルには香り高いアールグレイと、母手製のジャムをのせたスコーン。
⸻
キャスリン(心の声)
「やっと……静かに本と紅茶に戻れるわね。
婚約破棄だの、請求だの、国外縁談だの……騒がしいのはもう十分」
ページをめくる音と、カップを置く小さな音だけがサロンに響く。
彼女は穏やかに微笑み、しばし現実を忘れるように紅茶をすする。
⸻
そこへ、執事ジェームスが控えめに扉を叩いた。
ジェームス
「お嬢様……お静かなところ、失礼いたします」
キャスリン
「なにかしら? 今度はどこの国からの縁談ですの?」
ジェームス
「いえ、それとは別件にございます。
──王城のほうで、また妙な動きが」
⸻
キャスリンは本を閉じ、目を細めた。
キャスリン
「……波乱は、やはり向こうからやってくるのね」
扇子を軽く鳴らし、笑みを浮かべる。
キャスリン
「まあいいわ。嵐が来ようと、紅茶の香りは私を裏切らない。
さあ、次はどんな茶番かしら──?」
(外交使節団の来訪)
──キャスリン邸。
執事ジェームスが慌ただしく扉を開け放つ。
ジェームス
「お嬢様、大変です! 国外からの使節団が、すでに屋敷の門前に並んでおります!」
⸻
キャスリンは本を閉じ、紅茶を一口含みながら、ちらりと窓の外を眺める。
煌びやかな馬車と、各国の紋章を掲げた旗がずらりと連なっていた。
キャスリン
「……本当に来たのね。噂だけで終わってくれればよかったのに」
⸻
各国の使節団が次々と名乗りを上げる。
隣国の王弟殿下「キャスリン嬢、あの才覚に心から惹かれている。我が国にぜひ」
帝国の侯爵家嫡男「経済の目を持つあなたこそ、帝国の未来を支える花だ」
大公国の使者「我が君は、あなたを正妻として迎える覚悟でいる」
サロンが一気に外交の場と化し、家族も唖然とする。
⸻
キャスリンは扇子を開き、涼しい笑みを浮かべる。
キャスリン
「まあ……お言葉はありがたく頂戴いたしますわ。
ですが──本当に私なんかでよろしいのかしら? 私はただの本好きの娘ですのに」
⸻
その頃。
王城では、この事態の報告を受けた第二王子アベルが額を押さえていた。
アベル
「……まずい。
このままではキャスリンが国外に取られる。
兄上の愚行の尻拭いどころか、国の存亡に関わる……!」
焦燥に駆られ、アベルは立ち上がる。
彼の心に芽生えたのは、国家の危機感と──それ以上に「キャスリンを失いたくない」という個人的な感情だった。
(アベルの急訪とキャスリンの拒絶)
──キャスリン邸、サロン。
各国の使節が引き上げ、ひとときの静寂が戻った頃。
外の馬車が急停止し、扉が荒々しく叩かれる。
執事ジェームスが慌てて扉を開けると、第二王子アベルが飛び込んできた。
額には汗が光り、普段の冷静さを欠いた様子。
⸻
アベル
「キャスリン嬢──!」
キャスリンはカップを持ち上げたまま、静かに彼を見やる。
キャスリン
「まあ、殿下。王城を飛び出してまでどうなさったの?」
⸻
アベルは深く息を整え、いきなり膝をついた。
アベル
「頼む、この国に残ってくれ!
国外に渡れば、我が国の力は大きく削がれる……
本が読みたいのなら、私がどれほどでも叶えよう。
契約結婚でも構わない──どうか、この国に」
⸻
サロンにいた家族が息を呑む。
第二王子がここまで頭を下げるなど、誰も想像していなかった。
だが、キャスリンは扇子を開き、ため息まじりに笑った。
キャスリン
「……やだわ。邪魔くさい」
⸻
アベル
「……っ!」
キャスリン
「私はただ静かに本を読んで、紅茶を楽しみたいだけ。
国のため? 婚姻のため? そういうものに巻き込まれるのは、もうこりごりですの」
彼女の声は穏やかだが、決して揺らがなかった。
⸻
アベルは言葉を失い、俯く。
しかしその背中からは「諦めきれない」という強い意志が滲んでいた。
アベル(心の声)
「……このままでは彼女を国外に奪われる。
だが、彼女が望むのは“自由”……。どうすれば、彼女を守れる?」
──数日後。
キャスリンの屋敷の応接間。執事ジェームスが、厚い羊皮紙の封筒を数通抱えて現れた。
⸻
ジェームス
「お嬢様。国外の大公閣下、隣国の王弟殿下、さらには帝国の若き侯爵から──正式な縁談のお申し込みが届いております」
机の上に積み上げられる、煌びやかな紋章入りの書状。
どれもが一国の未来を左右するほどの家柄ばかりだ。
⸻
母
「まあ……すごいわね。やはりキャスリンは引く手あまた」
弟
「さすが姉上! 王家なんか相手にしなくても、未来は明るいじゃないか!」
⸻
キャスリンは扇子を開き、静かにため息をついた。
キャスリン
「ふぅ……ですが、もうこりごりですわね。
国のためだとか、王家の面子だとか、そういうものに振り回されるのは。
──本と紅茶さえあれば、私は十分に幸せなのですから」
⸻
ジェームスは思わず微笑む。
だが、その目は鋭く光っていた。
ジェームス
「とはいえ、お嬢様。縁談の山を無視すれば、今度は“どの国がキャスリンを得るのか”で外交問題に発展するやもしれません」
キャスリン
「……そういう厄介事ばかりが増えていくのですね」
彼女は肩をすくめ、扇子で頬を隠しながら、皮肉めいた笑みを浮かべた。
⸻
(静かな日常と予兆)
──午後の柔らかな陽射しが差し込むサロン。
キャスリンは愛用の椅子に腰を下ろし、分厚い書物を開いていた。
テーブルには香り高いアールグレイと、母手製のジャムをのせたスコーン。
⸻
キャスリン(心の声)
「やっと……静かに本と紅茶に戻れるわね。
婚約破棄だの、請求だの、国外縁談だの……騒がしいのはもう十分」
ページをめくる音と、カップを置く小さな音だけがサロンに響く。
彼女は穏やかに微笑み、しばし現実を忘れるように紅茶をすする。
⸻
そこへ、執事ジェームスが控えめに扉を叩いた。
ジェームス
「お嬢様……お静かなところ、失礼いたします」
キャスリン
「なにかしら? 今度はどこの国からの縁談ですの?」
ジェームス
「いえ、それとは別件にございます。
──王城のほうで、また妙な動きが」
⸻
キャスリンは本を閉じ、目を細めた。
キャスリン
「……波乱は、やはり向こうからやってくるのね」
扇子を軽く鳴らし、笑みを浮かべる。
キャスリン
「まあいいわ。嵐が来ようと、紅茶の香りは私を裏切らない。
さあ、次はどんな茶番かしら──?」
(外交使節団の来訪)
──キャスリン邸。
執事ジェームスが慌ただしく扉を開け放つ。
ジェームス
「お嬢様、大変です! 国外からの使節団が、すでに屋敷の門前に並んでおります!」
⸻
キャスリンは本を閉じ、紅茶を一口含みながら、ちらりと窓の外を眺める。
煌びやかな馬車と、各国の紋章を掲げた旗がずらりと連なっていた。
キャスリン
「……本当に来たのね。噂だけで終わってくれればよかったのに」
⸻
各国の使節団が次々と名乗りを上げる。
隣国の王弟殿下「キャスリン嬢、あの才覚に心から惹かれている。我が国にぜひ」
帝国の侯爵家嫡男「経済の目を持つあなたこそ、帝国の未来を支える花だ」
大公国の使者「我が君は、あなたを正妻として迎える覚悟でいる」
サロンが一気に外交の場と化し、家族も唖然とする。
⸻
キャスリンは扇子を開き、涼しい笑みを浮かべる。
キャスリン
「まあ……お言葉はありがたく頂戴いたしますわ。
ですが──本当に私なんかでよろしいのかしら? 私はただの本好きの娘ですのに」
⸻
その頃。
王城では、この事態の報告を受けた第二王子アベルが額を押さえていた。
アベル
「……まずい。
このままではキャスリンが国外に取られる。
兄上の愚行の尻拭いどころか、国の存亡に関わる……!」
焦燥に駆られ、アベルは立ち上がる。
彼の心に芽生えたのは、国家の危機感と──それ以上に「キャスリンを失いたくない」という個人的な感情だった。
(アベルの急訪とキャスリンの拒絶)
──キャスリン邸、サロン。
各国の使節が引き上げ、ひとときの静寂が戻った頃。
外の馬車が急停止し、扉が荒々しく叩かれる。
執事ジェームスが慌てて扉を開けると、第二王子アベルが飛び込んできた。
額には汗が光り、普段の冷静さを欠いた様子。
⸻
アベル
「キャスリン嬢──!」
キャスリンはカップを持ち上げたまま、静かに彼を見やる。
キャスリン
「まあ、殿下。王城を飛び出してまでどうなさったの?」
⸻
アベルは深く息を整え、いきなり膝をついた。
アベル
「頼む、この国に残ってくれ!
国外に渡れば、我が国の力は大きく削がれる……
本が読みたいのなら、私がどれほどでも叶えよう。
契約結婚でも構わない──どうか、この国に」
⸻
サロンにいた家族が息を呑む。
第二王子がここまで頭を下げるなど、誰も想像していなかった。
だが、キャスリンは扇子を開き、ため息まじりに笑った。
キャスリン
「……やだわ。邪魔くさい」
⸻
アベル
「……っ!」
キャスリン
「私はただ静かに本を読んで、紅茶を楽しみたいだけ。
国のため? 婚姻のため? そういうものに巻き込まれるのは、もうこりごりですの」
彼女の声は穏やかだが、決して揺らがなかった。
⸻
アベルは言葉を失い、俯く。
しかしその背中からは「諦めきれない」という強い意志が滲んでいた。
アベル(心の声)
「……このままでは彼女を国外に奪われる。
だが、彼女が望むのは“自由”……。どうすれば、彼女を守れる?」
120
あなたにおすすめの小説
【完結】傲慢にも程がある~淑女は愛と誇りを賭けて勘違い夫に復讐する~
Ao
恋愛
由緒ある伯爵家の令嬢エレノアは、愛する夫アルベールと結婚して三年。幸せな日々を送る彼女だったが、ある日、夫に長年の愛人セシルがいることを知ってしまう。
さらに、アルベールは自身が伯爵位を継いだことで傲慢になり、愛人を邸宅に迎え入れ、エレノアの部屋を与える暴挙に出る。
挙句の果てに、エレノアには「お飾り」として伯爵家の実務をこなさせ、愛人のセシルを実質の伯爵夫人として扱おうとする始末。
深い悲しみと激しい屈辱に震えるエレノアだが、淑女としての誇りが彼女を立ち上がらせる。
彼女は社交界での人脈と、持ち前の知略を駆使し、アルベールとセシルを追い詰める貴族らしい復讐を誓うのであった。
婚約破棄された令嬢のささやかな幸福
香木陽灯
恋愛
田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。
しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。
「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」
婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。
婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。
ならば一人で生きていくだけ。
アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。
「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」
初めての一人暮らしを満喫するアリシア。
趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。
「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」
何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。
しかし丁重にお断りした翌日、
「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」
妹までもがやってくる始末。
しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。
「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」
家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。
婚約破棄で見限られたもの
志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。
すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥
よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。
妹と王子殿下は両想いのようなので、私は身を引かせてもらいます。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナシアは、第三王子との婚約を喜んでいた。
民を重んじるというラナシアの考えに彼は同調しており、良き夫婦になれると彼女は考えていたのだ。
しかしその期待は、呆気なく裏切られることになった。
第三王子は心の中では民を見下しており、ラナシアの妹と結託して侯爵家を手に入れようとしていたのである。
婚約者の本性を知ったラナシアは、二人の計画を止めるべく行動を開始した。
そこで彼女は、公爵と平民との間にできた妾の子の公爵令息ジオルトと出会う。
その出自故に第三王子と対立している彼は、ラナシアに協力を申し出てきた。
半ば強引なその申し出をラナシアが受け入れたことで、二人は協力関係となる。
二人は王家や公爵家、侯爵家の協力を取り付けながら、着々と準備を進めた。
その結果、妹と第三王子が計画を実行するよりも前に、ラナシアとジオルトの作戦が始まったのだった。
婚約破棄からの復讐~私を捨てたことを後悔してください
satomi
恋愛
私、公爵令嬢のフィオナ=バークレイはアールディクス王国の第2王子、ルード様と婚約をしていましたが、かなりの大規模な夜会で婚約破棄を宣言されました。ルード様の母君(ご実家?)が切望しての婚約だったはずですが?その夜会で、私はキョウディッシュ王国の王太子殿下から婚約を打診されました。
私としては、婚約を破棄された時点でキズモノとなったわけで、隣国王太子殿下からの婚約話は魅力的です。さらに、王太子殿下は私がルード殿下に復讐する手助けをしてくれるようで…
【完結】さよなら、馬鹿な王太子殿下
花草青依
恋愛
ビーチェは恋人であるランベルト王太子の傍らで、彼の“婚約破棄宣言”を聞いていた。ランベルトの婚約者であるニナはあっさりと受け入れて去って行った。それを見て、上手く行ったと満足するビーチェ。しかし、彼女の目的はそれだけに留まらず、王宮の平和を大きく乱すのだった。 ■主人公は、いわゆる「悪役令嬢もの」のヒロインのポジションの人です ■画像は生成AI (ChatGPT)
とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜
入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】
社交界を賑わせた婚約披露の茶会。
令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。
「真実の愛を見つけたんだ」
それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。
愛よりも冷たく、そして美しく。
笑顔で地獄へお送りいたします――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる