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愛を知る
キャスリンの誓い)
──公爵家・キャスリンの私室。
夜更け、寝台の上でサファイアが小さな寝息を立てていた。
月明かりに照らされた横顔は、笑顔ではなく、不安そうに眉を寄せた幼子の姿だった。
キャスリンはそっとベッドに腰掛け、サファイアの頬に触れる。
その体温はかすかに温かく、頼りなげだった。
⸻
キャスリン(心の声)
「……この子は笑う。必死に、誰にでも、捨てられないように。
“おかあさま”と呼ぶのも、笑顔も……全部、生き延びるための術なのね」
サファイアが寝返りを打ち、小さな手がキャスリンの袖を掴む。
その細い指の力の弱さに、胸が締めつけられた。
⸻
キャスリンは思わずその小さな体を抱き寄せ、腕に包み込む。
キャスリン(心の声)
「……大丈夫。私はあなたを捨てない。
たとえ誰が裏切ろうと、この腕からは絶対に離さない。
──私が、あなたの居場所になるわ」
⸻
サファイアは安心したように吐息をもらし、ぎゅっとキャスリンにしがみついた。
キャスリンは目を閉じ、彼女の髪に唇を寄せる。
キャスリン(心の声)
「愛なんて邪魔くさい……そう思ってきたのに。
なのに今、私はこの子にだけは惜しみなく“愛”を与えたいと思っている……」
(サファイアの涙)
──翌朝、公爵家の食堂。
陽光が差し込み、焼きたてのパンと温かなスープの香りが漂っている。
キャスリンが紅茶を口にしていると、サファイアが小さな手を伸ばし、彼女の袖をぎゅっと掴んだ。
⸻
サファイア
「……おかあさま、だいすき」
キャスリンの手が止まる。
扇子で口元を隠そうとしたが、その瞳はかすかに揺れていた。
キャスリン
「……おかあさまも、だいすきよ」
そう言った瞬間──サファイアの目に涙が溢れ、ぽろぽろとこぼれ落ちた。
⸻
サファイア
「ほんとに? サファイア、もう……すてられない……?」
キャスリンは息を呑み、即座にサファイアを抱き寄せる。
小さな体が震え、嗚咽が肩を濡らす。
⸻
キャスリン(心の声)
「……この子は笑顔で必死にしがみついていた。
“嫌われたら捨てられる”と怯えて……ずっと孤独だったのね」
彼女は震える背をなでながら、強く抱きしめた。
キャスリン
「大丈夫。私は捨てない。何があっても、あなたを守るわ」
サファイアは涙に濡れた顔を押しつけ、震える声で答えた。
サファイア
「……ありがとう……おかあさま」
(アベルの胸に刺さる瞬間)
──公爵家・朝の食堂。
キャスリンは泣きじゃくるサファイアをしっかりと抱きしめていた。
キャスリン
「……大丈夫。私はあなたを絶対に捨てないわ」
サファイア
「……おかあさま……だいすき」
小さな声に、キャスリンの瞳も潤む。
⸻
扉の陰からその光景を見つめるアベル。
胸が熱くなり、拳を強く握りしめる。
アベル(心の声)
「……これが“愛”か。
私には義務しかなかった。形式を整えることしかできなかった。
なのにキャスリンは、この子に惜しみなく愛を注いでいる。
大人の私が、子供に“愛”を教わるとは……」
⸻
アベルは静かに扉に手を置き、深く息を吸う。
アベル(心の声)
「いや……それでいいのかもしれない。
私は知らなかったからこそ、今から学べばいい。
キャスリンと、この子に、愛を捧げることを」
⸻
キャスリンがサファイアをあやしながら、ふと扉の方を振り向く。
アベルは気づかれぬように身を引き、胸に熱を抱いたまま静かに立ち去った。
(愛を学ぶ誓い)
──公爵家・庭園の東屋。
夕暮れ、風に揺れる木々の音だけが響く。
キャスリンとアベルは向かい合い、サファイアは眠ったままベンチに寄りかかっていた。
⸻
アベル
「キャスリン……君に、頼みがある」
キャスリンは扇子を開き、涼しい表情を作る。
キャスリン
「頼み、ですか? 殿下らしくもありませんわね」
アベル
「私は……愛を知らない。義務と形式しか学んでこなかった。
だが君とサファイアを見て、気づいたんだ。
私は愛を学ばなければならない」
⸻
キャスリンの手が止まる。
扇子の陰から、少しだけ揺れる瞳がのぞく。
キャスリン
「……学ぶ、ね。
けれど私も、この子も……本当の愛なんて知らないんですのよ。
愛を求めて泣いたことはあっても、与えられたことはない。
……学びたくても、本は教えてくれません」
⸻
アベルはまっすぐに答えた。
アベル
「だからこそ、共に学ばせてほしい。
私も、君も、サファイアも。
三人で“愛”を知る家族になりたい」
⸻
一瞬、沈黙。
キャスリンは視線をそらし、紅茶を口に含んだ。
けれど扇子を閉じる仕草が、いつもよりわずかに遅い。
キャスリン
「……邪魔くさい方ですわ、本当に」
だがその声には、これまでになかった柔らかさが混じっていた。
(サファイアの一言)
──庭園の東屋。
キャスリンとアベルが言葉を交わす横で、ベンチに寄りかかって眠っていたサファイアが小さく身じろぎした。
ぱちりと青い瞳が開き、まだ夢の名残を抱いた声が響く。
⸻
サファイア
「……おかあさま……おとうさま……」
キャスリンとアベルは思わず顔を見合わせる。
サファイアはふにゃっと笑って、両手を伸ばした。
サファイア
「三人で……“あい”をおしえて! それが……かぞく、でしょ?」
⸻
キャスリンは息を呑み、扇子を閉じてサファイアを抱き上げた。
その小さな体の温もりに胸が熱くなる。
キャスリン(心の声)
「……この子は、愛を知らないはずなのに。
なのに誰よりもまっすぐに“家族”を求めている」
⸻
アベルはそっとキャスリンの肩に手を添え、真剣に頷いた。
アベル
「そうだ。三人で学ぼう。
私たちは──もう家族だ」
⸻
サファイアは嬉しそうに笑い、キャスリンの首にしがみつく。
キャスリンの頬は赤く染まっていたが、その表情は静かな幸福に包まれていた。
(公爵家での迎え)
──公爵家の大広間。
キャスリンに連れられたサファイアが、侍女や執事たちに囲まれる。
お菓子をもらい、花をもらい、にこにこと頭を下げる姿に、誰もが自然と笑顔になった。
執事ジェームス
「……まるで本当のご家族のようですな」
キャスリンは扇子を傾け、わずかに視線を逸らす。
だが頬はほんのり赤かった。
⸻
その晩。
キャスリンは母、公爵夫人と二人きりで話していた。
公爵夫人
「この子は必死ね。
捨てられないために笑って、甘えて……難しいわよ。
あなたが本当に子を持てば、不安になることもある。
手放すなら、今かもしれないわ」
⸻
キャスリンは唇を噛み、膝の上の手を握りしめた。
キャスリン
「……お母様。すべてを乗り越えていくのは、私には無理でしょうか?」
公爵夫人は娘の手をそっと包み、微笑む。
公爵夫人
「そうね。あなたが間違ったときは、正すのは私の役目です。
でもね、キャスリン。
忘れないで──私はあなたを愛しているのよ」
⸻
キャスリンの瞳が揺れ、胸に熱いものが込み上げる。
キャスリン(心の声)
「……そう。私も、愛をもらっていたのね。
ならば、私もサファイアに渡してあげなければ」
──公爵家・キャスリンの私室。
夜更け、寝台の上でサファイアが小さな寝息を立てていた。
月明かりに照らされた横顔は、笑顔ではなく、不安そうに眉を寄せた幼子の姿だった。
キャスリンはそっとベッドに腰掛け、サファイアの頬に触れる。
その体温はかすかに温かく、頼りなげだった。
⸻
キャスリン(心の声)
「……この子は笑う。必死に、誰にでも、捨てられないように。
“おかあさま”と呼ぶのも、笑顔も……全部、生き延びるための術なのね」
サファイアが寝返りを打ち、小さな手がキャスリンの袖を掴む。
その細い指の力の弱さに、胸が締めつけられた。
⸻
キャスリンは思わずその小さな体を抱き寄せ、腕に包み込む。
キャスリン(心の声)
「……大丈夫。私はあなたを捨てない。
たとえ誰が裏切ろうと、この腕からは絶対に離さない。
──私が、あなたの居場所になるわ」
⸻
サファイアは安心したように吐息をもらし、ぎゅっとキャスリンにしがみついた。
キャスリンは目を閉じ、彼女の髪に唇を寄せる。
キャスリン(心の声)
「愛なんて邪魔くさい……そう思ってきたのに。
なのに今、私はこの子にだけは惜しみなく“愛”を与えたいと思っている……」
(サファイアの涙)
──翌朝、公爵家の食堂。
陽光が差し込み、焼きたてのパンと温かなスープの香りが漂っている。
キャスリンが紅茶を口にしていると、サファイアが小さな手を伸ばし、彼女の袖をぎゅっと掴んだ。
⸻
サファイア
「……おかあさま、だいすき」
キャスリンの手が止まる。
扇子で口元を隠そうとしたが、その瞳はかすかに揺れていた。
キャスリン
「……おかあさまも、だいすきよ」
そう言った瞬間──サファイアの目に涙が溢れ、ぽろぽろとこぼれ落ちた。
⸻
サファイア
「ほんとに? サファイア、もう……すてられない……?」
キャスリンは息を呑み、即座にサファイアを抱き寄せる。
小さな体が震え、嗚咽が肩を濡らす。
⸻
キャスリン(心の声)
「……この子は笑顔で必死にしがみついていた。
“嫌われたら捨てられる”と怯えて……ずっと孤独だったのね」
彼女は震える背をなでながら、強く抱きしめた。
キャスリン
「大丈夫。私は捨てない。何があっても、あなたを守るわ」
サファイアは涙に濡れた顔を押しつけ、震える声で答えた。
サファイア
「……ありがとう……おかあさま」
(アベルの胸に刺さる瞬間)
──公爵家・朝の食堂。
キャスリンは泣きじゃくるサファイアをしっかりと抱きしめていた。
キャスリン
「……大丈夫。私はあなたを絶対に捨てないわ」
サファイア
「……おかあさま……だいすき」
小さな声に、キャスリンの瞳も潤む。
⸻
扉の陰からその光景を見つめるアベル。
胸が熱くなり、拳を強く握りしめる。
アベル(心の声)
「……これが“愛”か。
私には義務しかなかった。形式を整えることしかできなかった。
なのにキャスリンは、この子に惜しみなく愛を注いでいる。
大人の私が、子供に“愛”を教わるとは……」
⸻
アベルは静かに扉に手を置き、深く息を吸う。
アベル(心の声)
「いや……それでいいのかもしれない。
私は知らなかったからこそ、今から学べばいい。
キャスリンと、この子に、愛を捧げることを」
⸻
キャスリンがサファイアをあやしながら、ふと扉の方を振り向く。
アベルは気づかれぬように身を引き、胸に熱を抱いたまま静かに立ち去った。
(愛を学ぶ誓い)
──公爵家・庭園の東屋。
夕暮れ、風に揺れる木々の音だけが響く。
キャスリンとアベルは向かい合い、サファイアは眠ったままベンチに寄りかかっていた。
⸻
アベル
「キャスリン……君に、頼みがある」
キャスリンは扇子を開き、涼しい表情を作る。
キャスリン
「頼み、ですか? 殿下らしくもありませんわね」
アベル
「私は……愛を知らない。義務と形式しか学んでこなかった。
だが君とサファイアを見て、気づいたんだ。
私は愛を学ばなければならない」
⸻
キャスリンの手が止まる。
扇子の陰から、少しだけ揺れる瞳がのぞく。
キャスリン
「……学ぶ、ね。
けれど私も、この子も……本当の愛なんて知らないんですのよ。
愛を求めて泣いたことはあっても、与えられたことはない。
……学びたくても、本は教えてくれません」
⸻
アベルはまっすぐに答えた。
アベル
「だからこそ、共に学ばせてほしい。
私も、君も、サファイアも。
三人で“愛”を知る家族になりたい」
⸻
一瞬、沈黙。
キャスリンは視線をそらし、紅茶を口に含んだ。
けれど扇子を閉じる仕草が、いつもよりわずかに遅い。
キャスリン
「……邪魔くさい方ですわ、本当に」
だがその声には、これまでになかった柔らかさが混じっていた。
(サファイアの一言)
──庭園の東屋。
キャスリンとアベルが言葉を交わす横で、ベンチに寄りかかって眠っていたサファイアが小さく身じろぎした。
ぱちりと青い瞳が開き、まだ夢の名残を抱いた声が響く。
⸻
サファイア
「……おかあさま……おとうさま……」
キャスリンとアベルは思わず顔を見合わせる。
サファイアはふにゃっと笑って、両手を伸ばした。
サファイア
「三人で……“あい”をおしえて! それが……かぞく、でしょ?」
⸻
キャスリンは息を呑み、扇子を閉じてサファイアを抱き上げた。
その小さな体の温もりに胸が熱くなる。
キャスリン(心の声)
「……この子は、愛を知らないはずなのに。
なのに誰よりもまっすぐに“家族”を求めている」
⸻
アベルはそっとキャスリンの肩に手を添え、真剣に頷いた。
アベル
「そうだ。三人で学ぼう。
私たちは──もう家族だ」
⸻
サファイアは嬉しそうに笑い、キャスリンの首にしがみつく。
キャスリンの頬は赤く染まっていたが、その表情は静かな幸福に包まれていた。
(公爵家での迎え)
──公爵家の大広間。
キャスリンに連れられたサファイアが、侍女や執事たちに囲まれる。
お菓子をもらい、花をもらい、にこにこと頭を下げる姿に、誰もが自然と笑顔になった。
執事ジェームス
「……まるで本当のご家族のようですな」
キャスリンは扇子を傾け、わずかに視線を逸らす。
だが頬はほんのり赤かった。
⸻
その晩。
キャスリンは母、公爵夫人と二人きりで話していた。
公爵夫人
「この子は必死ね。
捨てられないために笑って、甘えて……難しいわよ。
あなたが本当に子を持てば、不安になることもある。
手放すなら、今かもしれないわ」
⸻
キャスリンは唇を噛み、膝の上の手を握りしめた。
キャスリン
「……お母様。すべてを乗り越えていくのは、私には無理でしょうか?」
公爵夫人は娘の手をそっと包み、微笑む。
公爵夫人
「そうね。あなたが間違ったときは、正すのは私の役目です。
でもね、キャスリン。
忘れないで──私はあなたを愛しているのよ」
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キャスリンの瞳が揺れ、胸に熱いものが込み上げる。
キャスリン(心の声)
「……そう。私も、愛をもらっていたのね。
ならば、私もサファイアに渡してあげなければ」
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