『恋は、鏡の中のわたしを変えていく』あなたと踊るタンゴ

夢窓(ゆめまど)

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「お姫さまは今日も筋肉痛」

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痛」

「…………いたい」

朝、ベッドから起き上がるのに、全力の勇気が必要でした。

足が……ふくらはぎが……!
階段を降りるたびに、悲鳴を上げてる気がするんですの!!

「お嬢様、どうされましたの?」

侍女のクララに心配されましたが、笑顔で返すのがレディの務め。

「ふふ、筋肉痛ですの」

「……えっ?」

可憐に、優雅に、そしてちょっとだけ涙目で。
わたくし、今日もお姫さまですの。筋肉痛のお姫さま。

* * *

昨日のトレーニングは、たしかに少し張り切ってしまいました。

「レオン様が見ているから、頑張らなくちゃ」

そんなふうに思ったのが間違いだったのか――いえ、違いますわ。

恋する乙女は、筋肉に負けてはいけないのです。

「筋肉痛があるということは、それだけ筋肉を育てている証拠です」

レオン様のその言葉に、ちょっとだけ泣きそうになりました。

……だって、そのあと普通に「今日も軽く動きましょうか」って、言いましたのよ?

「わたくし、貴族令嬢ですのよ……!」

「筋肉は貴族の装いを支えます」

なんて返されたら、何も言い返せないじゃありませんの。

* * *

クララが冷たい湿布を持ってきてくれて、感謝の涙。

タニアは「推しのためなら筋肉痛上等よ!」と、いつものように元気いっぱい。

わたくしだけが、情けない顔をしていたらだめですわね。

筋肉痛も、恋も、両方付き合っていく覚悟ができたんですもの。

(今日もわたくし、筋肉と向き合ってみせますわ)

ドレスの下には、可憐な意志と、ちょっとだけ痛むふくらはぎ。

それでも笑って歩けるのは――恋と努力が、少しずつわたくしを強くしてくれているから。

「レオン様に恋してるの、バレてますわよね」

お茶会の帰り道、ぽつりと呟いた言葉に、タニアが盛大にむせました。

「な、なにそれ……っ、今さら!? そもそも“推し”じゃなかったの!?」

「“推し”でしたけど……その、最近、“推し”の定義がちょっと……変化してきたといいますか……」

「ふふん、恋じゃん」

「ち、違いますの! これはただの……筋肉に惹かれて……そう、筋肉に!」

「うんうん、推しの筋肉に恋するの、わかるわ~」

タニアのからかいが軽やかすぎて、逃げ道が見当たりません。

* * *

ドレスのすそが揺れて、足元の筋肉がまたちょっと痛みました。

でも、つい昨日よりも、歩く姿勢が少しだけシャキッとしている気がする。

「努力って、ちゃんと形になるんですのね……」

「でもスイーツも我慢しすぎはよくないよ。ご褒美大事!」

タニアが差し出したのは、小さなフィナンシェ。

……一口だけ。

甘くて、温かくて、涙が出そうになる。

恋も筋肉も、スイーツも――
全部をあきらめずに、少しずつ前に進んでいけたらいいですわね。

* * *

その夕方、レオン様に会いました。

「今日も、姿勢がよかったですね」

「……えっ」

「遠くから見てました」

わたくし、言葉を失いました。

レオン様は――今日も変わらず、まっすぐで、優しくて、すこしだけ爽やかすぎます。

「筋肉を育てるのは、心を育てるのと似ていますよ。急がず、誇ってください」

「……はい」

恋が、バレてるのかどうか。

それは、まだわかりません。

でも――

心の中にある、やわらかなこの気持ちは、
“推し”という言葉にはもう収まりきらないのです。
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