『転生したら悪役令嬢、前世の娘がヒロインでした』

夢窓(ゆめまど)

文字の大きさ
1 / 16

公爵令嬢に、お気に入りに登録されました(恐怖)

しおりを挟む

昼休み。
ジョアンナは木陰のベンチで、そっとお弁当の包みを広げていた。

(静かに食べて、気づかれないようにして、急いで帰る……!)

下位貴族の自分が、由緒ある貴族の子女が集まる学園に通えるだけで奇跡。
上の世界の人たちに目をつけられたら、それだけで終わる。

──なのに。

「まあ、かわいらしいお弁当」

その声に、ジョアンナは肩をびくっと跳ねさせた。
前を見ると、完璧な笑顔と姿勢で立つ──あの“学園の花”、メリンダさま。

つ、ついに目をつけられた……!!

「え、あのっ、な、なんでもないです!急いで食べて帰りますのでっ!!」

慌ててお弁当の包みをたたもうとするジョアンナに、
メリンダは、優雅に首をかしげながらじっとのぞき込む。

「……尚美さん、でしょ?」

「……へっ!?!?!?!?」

変な声が出た。
言われた名前に、記憶の奥がぐらりと揺れた気がした。

「ま、間違いですっ!!ジョアンナです!!正真正銘の、ジョアンナ・スミスでっ……!!」

なぜか近寄ってくるメリンダに怯えながら、
ジョアンナはお弁当ごとベンチを飛び出した。

(こわいこわいこわい!!なんで“尚美”なんて……!?知ってるわけないでしょ!!)

そんな彼女の背中を、メリンダはただ、穏やかに見送っていた。

「ふふ……そう。今世のあなたは“ジョアンナ”なのね。
……やっぱり、かわいいわ、うちの子」


「あなた、お気に入りに登録していいかしら?」

──その瞬間、人生が終わったと思った。

 

私はジョアンナ・スミス。
男爵家の娘で、成績は“ちょっと上”、でも特に目立たず、恋愛イベントとも無縁な、モブ中のモブ。
夜中にこっそり台所で夜食を作るのが趣味で、ぽっちゃり体型まっしぐら。
髪も茶色、鳶色の瞳、化粧もしてない地味子、


なのに今、
学園一の美女にして、公爵令嬢にして、
王子の婚約者でもある──メリンダ・ルクレールさまに。
金色の髪、菫色の瞳、ばっちりお人形ボディの、学園一の美貌な、メリンダさま。

その、“悪役令嬢”その人に──
お気に入りに登録されました。

 

「……え? あの、え?」

「ふふ、そんなに驚かないで? あなた、とっても可愛らしいわよ」

「えっ……あ、いや、わたし、目立たない、ですし……ぽっちゃり、ですし……」

「その素朴さが良いのよ。癒し系ってやつ?」

「え、これ癒してます!?」

 

逃げたい。
逃げたい。
なんか、記憶がざわついている──やめて、何これ……。

ざーーーーっと、頭の奥に流れ込んでくる映像。

鉄板、厨房、煮物、焼き魚。
煙草くさい笑い声。
「尚美、アンタ、よくやった!」って──

 

……は?

「尚美?」

「ええ。あなた、尚美さんでしょ? 私の、可愛い娘」

「……尚美って、前世の……私の……名前……っ……!?」

 

前世。
私を、支えてくれた“あの人”の笑い声が、よみがえる。

まさか。
そんな、まさか。

メリンダさまの微笑みが、こわい。
美しすぎて、思い出の“おかん”と繋がらない。

でも確信した。

 

「──悪役令嬢の正体は、前世のお母様でした」

「そして今日は私は、“お気に入り”として登録されるのです」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

【完結】その令嬢は号泣しただけ~泣き虫令嬢に悪役は無理でした~

春風由実
恋愛
お城の庭園で大泣きしてしまった十二歳の私。 かつての記憶を取り戻し、自分が物語の序盤で早々に退場する悪しき公爵令嬢であることを思い出します。 私は目立たず密やかに穏やかに、そして出来るだけ長く生きたいのです。 それにこんなに泣き虫だから、王太子殿下の婚約者だなんて重たい役目は無理、無理、無理。 だから早々に逃げ出そうと決めていたのに。 どうして目の前にこの方が座っているのでしょうか? ※本編十七話、番外編四話の短いお話です。 ※こちらはさっと完結します。(2022.11.8完結) ※カクヨムにも掲載しています。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

モブ令嬢、当て馬の恋を応援する

みるくコーヒー
恋愛
侯爵令嬢であるレアルチアは、7歳のある日母に連れられたお茶会で前世の記憶を取り戻し、この世界が概要だけ見た少女マンガの世界であることに気づく。元々、当て馬キャラが大好きな彼女の野望はその瞬間から始まった。必ずや私が当て馬な彼の恋を応援し成就させてみせます!!!と、彼女が暴走する裏側で当て馬キャラのジゼルはレアルチアを囲っていく。ただしアプローチには微塵も気づかれない。噛み合わない2人のすれ違いな恋物語。

【完結】ハメられて追放された悪役令嬢ですが、爬虫類好きな私はドラゴンだってサイコーです。

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
 やってもいない罪を被せられ、公爵令嬢だったルナティアは断罪される。  王太子であった婚約者も親友であったサーシャに盗られ、家族からも見捨てられてしまった。  教会に生涯幽閉となる手前で、幼馴染である宰相の手腕により獣人の王であるドラゴンの元へ嫁がされることに。  惨めだとあざ笑うサーシャたちを無視し、悲嘆にくれるように見えたルナティアだが、実は大の爬虫類好きだった。  簡単に裏切る人になんてもう未練はない。  むしろ自分の好きなモノたちに囲まれている方が幸せデス。

【完結】モブの王太子殿下に愛されてる転生悪役令嬢は、国外追放される運命のはずでした

Rohdea
恋愛
公爵令嬢であるスフィアは、8歳の時に王子兄弟と会った事で前世を思い出した。 同時に、今、生きているこの世界は前世で読んだ小説の世界なのだと気付く。 さらに自分はヒーロー(第二王子)とヒロインが結ばれる為に、 婚約破棄されて国外追放となる運命の悪役令嬢だった…… とりあえず、王家と距離を置きヒーロー(第二王子)との婚約から逃げる事にしたスフィア。 それから数年後、そろそろ逃げるのに限界を迎えつつあったスフィアの前に現れたのは、 婚約者となるはずのヒーロー(第二王子)ではなく…… ※ 『記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました』 に出てくる主人公の友人の話です。 そちらを読んでいなくても問題ありません。

転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。 胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。 けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。 勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに…… 『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。 子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。 逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。 時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。 これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday

処理中です...