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悪役令嬢のお母様、
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◆逃げるつもりが、逃げられなくなった悪役令嬢の話
悪役令嬢として断罪されて、すべてを失うはずだったあの頃。
私、メリンダ・フォン・クラウゼは──あっさり諦めてましたのよ。
もう、このまま適当に生きていけばいいわって。
けれど。
夢の中で、見たんですの。
前世での“私の娘”──ジョアンナの姿を。
──「娘の結婚式が見たかった」って。
その子が、こっちの世界に来ていて。
なぜか王子と婚約しそうになっていて。
しかも、ヒロイン(だと思っていた子)との恋愛イベント、全部へし折ってましたの。
あれよあれよという間に、ヒロインはどこかへ逃げ。
娘も「ごめんなさーい! 先に幸せになってきまーす!」と、逃げ。
気づけば、私と王子だけが残されていました。
いや、まって。
これ──なにかの間違いではなくて?
私はただ、余生を静かに過ごす予定だったんですけど?
けれど、王子は言ったのです。
「もう誰もいないなら、君を選ぶのが一番だろう?」と。
──不本意ですわ。
でも、逃げたら王族間のバランスが崩れるとか、なんとか。
結果。
私、メリンダ。
このまま逃げたら「国家間の緊張が悪化」するからって──
逃げられない状況に、なってしまいましたの。
まさか、恋も人生も、
“押し付けられた政略結婚”から始まるなんて──
……誰が予想しましたこと? 本当に。
◆娘からの背中押しと、誰も想定してなかった“お似合い夫婦”への道
「で、メリンダさま。どうなさいます?」
娘──ジョアンナが、あのいたずらっぽい笑みで問いかけてくる。
「このまま、政略結婚で流されていいんですの?
私としては、そろそろお母さまにも、幸せになってほしいですけど?」
いや、ちょっと待って。
そもそもあなたが、王子との婚約破棄をかき乱し、
ヒロインイベント全部へし折って逃げたからこうなってるんですのよ!?
──言いたい。とても言いたい。でも、
……ああ、もう。
今さら逃げても、私の居場所はどこにもない。
だったら、せめて「先に逃げた娘の尻拭い」くらいは、してあげませんと。
「わかりましたわ。
……責任、取って差し上げますわよ。私が、王子を」
──そして始まった、政略結婚準備。
式の日取り、ドレス、国の顔合わせ。
何もかもが“義務”であり“形式”であるはずだったのに。
なのに、なぜでしょう。
王子は、私の言葉に耳を傾け、
私の好みを覚え、
時々、くだらない冗談で笑わせてくる。
「君って、案外怒ると可愛いよな」
「うるさいですわ。誰が可愛いですの」
「じゃあ、きれい?」
「……っ」
──やめてくださらない?
そういうの、冗談でも言わないでくださいまし。
冗談じゃなかったら、困りますの。
気づけば、侍女たちがひそひそと囁いている。
「なんか、おふたりって……意外にお似合いじゃない?」
「前よりも、王子さま笑ってる気がする」
「メリンダさまが、ちょっと優しくなったような……?」
……嘘ですわよね?
私が、あの人に優しく?
あの王子が、私を見て微笑む?
──誰も想定していなかった。
この“なんとなく始まった結婚”が、
気づけば、王国いちばんの「お似合い夫婦」って呼ばれるなんて。
でも、まあ。
「娘に背中を押されて、幸せになった元悪役令嬢」ってのも、
悪くないシナリオじゃありませんこと?
ええ、ええ──
そのうち、私からも言って差し上げますわよ。
「……愛してますわ。あなたのそういうところ、全部」って。
……たぶん、10年後くらいに。
(それまで王子が根気よくがんばるんですのよ?)
その後ーー
小さな産声から、もう数か月。
赤ちゃんのミリュエールは、すっかりぷくぷくとした頬を揺らして笑うようになっていた。
「ふふっ、ごきげんさんね」
ジョアンナが台所で鍋をかき混ぜる背中に、ころころと明るい笑い声が響く。
振り返れば──カイルドが赤子を背に負って、ゆったり歩いていた。
大きな背中に小さな手足がちょこんと乗って、ゆらゆら揺れるたびにミリュエールは声を上げて喜んでいる。
「おい、ジョアンナ。ミリュエールが俺の背中から降りたがらないぞ」
「まあ、それは安心できるからでしょう」
ジョアンナはお玉を置き、微笑んだ。
「いいわね、カイルドさま。お父さんの役目、板についてきましたよ」
カイルドは苦笑しながらも、背中の小さなぬくもりを大切に感じていた。
「……こいつが笑ってると、なんでも頑張れる気がする」
その言葉に、ジョアンナの胸がじんわり温かくなる。
家族と灯りに包まれた「メゾン・ルミエール」は、今日も幸せで満ちていた。
(結婚後のメリンダ×王子)
王城の一角。
メリンダさまは、扇子を片手にため息をついた。
「まったく……“ひとつ布団の魔法”だなんて、馬鹿げてますわね」
隣で書類を眺めていた王子が、ちらと視線を寄越す。
「でも……そのおかげで、僕たちはこうして夫婦になったんだ」
「う……」
メリンダさまの耳が赤くなる。
「……わ、わたくしは別に、あれが理由じゃなくても結婚してましたの!」
王子はにやりと笑みを浮かべ、彼女の手をそっと取る。
「そうだな。けど──“ひとつ布団”の夜を、僕は忘れない」
「~~っ!!!」
メリンダさまは顔を真っ赤にして扇子で王子をぺしぺし叩く。
「忘れなさいって言ってますのに!」
しかし叩く手は弱々しく、王子はそのまま笑いながら彼女を抱き寄せた。
メリンダさまは、鏡の前で扇子を構えたまま、ため息をついた。
「……ああ、もう。ドレスが合わなくなってきましたわ」
その背後から、王子がひょいと顔をのぞかせる。
「ふふ、いいことじゃないか」
「なにが“いいこと”ですの! わたくしの美しいシルエットが台無しに……!」
しかし王子は気にする様子もなく、彼女の肩に手を置いた。
「僕は楽しみなんだ。日に日に大きくなっていくお腹を見るのが……幸せで仕方ない」
メリンダさまの頬が、かあっと赤く染まる。
「……そ、そんなことを真顔で言わないでくださいまし!」
王子はにやりと笑みを浮かべ、そっと彼女のお腹に手を添える。
「ここに、僕たちの未来がいるんだ。楽しみにしないはずがない」
「~~っ……」
メリンダさまは言葉を失い、扇子で顔を隠した。
でも、その指先は小さく震え、唇は抑えきれない微笑みにほころんでいた。
ある夜、王子はメリンダさまのお腹にそっと耳を当てていた。
「まだ声は聞こえないけど……ここにいるんだな」
「……な、なにしてますの。恥ずかしいではありませんか」
メリンダさまは扇子で顔を隠しながら、でもその仕草は弱々しい。
王子は小さく笑みを浮かべる。
「楽しみなんだ。君に似て気が強いのか、それとも僕に似て頑固なのか」
「ふふ……どちらにしても、手のかかる子になりそうですわね」
二人は思わず顔を見合わせ、照れながらも笑い合った。
その様子を偶然見てしまったジョアンナは、胸が熱くなるのを感じていた。
「……すごいわね。ほんとうに、お腹に……」
彼女にとっても、それはただの奇跡ではなく、
“前世の母”が今世で掴んだ、本当の幸せの証だった。
──やがて時が来れば、王子夫妻に新しい命が誕生する。
未来の王子を抱くその日まで、二人の喜びは静かに育っていった。
「う、うえぇぇん!」
王子ルカの甲高い泣き声が、宿の広間に響きわたった。
原因は目の前にいる、むちむちぷくぷくのミリュエール。
両手を腰にあて、ふんばり立ちで得意げに笑っている。
「ミリュ、何をした!」
アルフレッドが慌てて駆け寄るが、ジョアンナは苦笑しながら首を振る。
「ただ……ちょっと髪を引っ張っただけ、みたいで」
「ふぇぇぇん!!!」
ルカが涙目でミリュエールを追いかけ始める。
しかしミリュの足取りは意外と素早い。ころころ転がりそうになりながらも、ちゃっかり逃げ切る。
「待てぇぇぇ!」
まだよちよちのルカが必死に後を追い、二人の小さな足音が宿中に響く。
メリンダさまは頭を抱え、扇子で口元を隠しながらため息をついた。
「もう……わたくしの王子を泣かすなんて」
隣の王子は、それでも笑みを浮かべている。
「でも、こうして喧嘩できるくらい、仲がいいんだろう」
ジョアンナも笑って頷いた。
「ええ。泣いても笑っても、結局は一緒に遊んでますから」
やがて、転んで二人まとめて抱き合うように倒れ込み、今度は二人同時に「きゃはははっ」と笑い出す。
宿の空気は、幸せと笑い声でいっぱいに包まれていた。
エンディング
光の宿──メゾン・ルミエール。
そこには今日も、笑い声とあたたかな灯りがともっている。
ジョアンナとカイルドは、小さな宿を守りながら、愛する娘ミリュエールと共に新しい日々を積み重ねていく。
王子とメリンダさまもまた、新しい命を授かり、未来を育てながら歩み続ける。
かつては断罪を恐れていた悪役令嬢も、今では堂々と、幸せな母の顔をしていた。
身分の違いを越え、子どもたちは一緒に笑い、一緒に泣き、追いかけっこを繰り広げる。
それが今だけの交流だとしても、心に残る灯りは決して消えない。
──幸せは、与えられるものではなく、育てていくもの。
光に包まれた小さな宿から始まった物語は、やがて次の世代へと受け継がれていく。
今日も、灯りはともる。
笑顔と共に、未来を照らしながら。
⸻
作者より
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
「娘の幸せを見届けたい」という母の夢から始まった物語は、
気づけば、新しい家族の形と、未来への温かなバトンへとつながっていました。
少しでも読んでくださる皆さまの心に、柔らかな光が届きますように。
完
次回作のお知らせです。
『着てはもらえぬセーターを ―待ちぼうけ令嬢の複雑な編み図―』
水曜日の朝より、連載を開始します。
三年前に旅立った恋人を想い、セーターを編み続けるダイアナ。
ほどかず、諦めず、けれど心の糸は少しずつ別の誰かへとつながっていく――
恋と手仕事、思い出と新しい出会い。
静かに、あたたかく綴る、童話のような物語です。
悪役令嬢として断罪されて、すべてを失うはずだったあの頃。
私、メリンダ・フォン・クラウゼは──あっさり諦めてましたのよ。
もう、このまま適当に生きていけばいいわって。
けれど。
夢の中で、見たんですの。
前世での“私の娘”──ジョアンナの姿を。
──「娘の結婚式が見たかった」って。
その子が、こっちの世界に来ていて。
なぜか王子と婚約しそうになっていて。
しかも、ヒロイン(だと思っていた子)との恋愛イベント、全部へし折ってましたの。
あれよあれよという間に、ヒロインはどこかへ逃げ。
娘も「ごめんなさーい! 先に幸せになってきまーす!」と、逃げ。
気づけば、私と王子だけが残されていました。
いや、まって。
これ──なにかの間違いではなくて?
私はただ、余生を静かに過ごす予定だったんですけど?
けれど、王子は言ったのです。
「もう誰もいないなら、君を選ぶのが一番だろう?」と。
──不本意ですわ。
でも、逃げたら王族間のバランスが崩れるとか、なんとか。
結果。
私、メリンダ。
このまま逃げたら「国家間の緊張が悪化」するからって──
逃げられない状況に、なってしまいましたの。
まさか、恋も人生も、
“押し付けられた政略結婚”から始まるなんて──
……誰が予想しましたこと? 本当に。
◆娘からの背中押しと、誰も想定してなかった“お似合い夫婦”への道
「で、メリンダさま。どうなさいます?」
娘──ジョアンナが、あのいたずらっぽい笑みで問いかけてくる。
「このまま、政略結婚で流されていいんですの?
私としては、そろそろお母さまにも、幸せになってほしいですけど?」
いや、ちょっと待って。
そもそもあなたが、王子との婚約破棄をかき乱し、
ヒロインイベント全部へし折って逃げたからこうなってるんですのよ!?
──言いたい。とても言いたい。でも、
……ああ、もう。
今さら逃げても、私の居場所はどこにもない。
だったら、せめて「先に逃げた娘の尻拭い」くらいは、してあげませんと。
「わかりましたわ。
……責任、取って差し上げますわよ。私が、王子を」
──そして始まった、政略結婚準備。
式の日取り、ドレス、国の顔合わせ。
何もかもが“義務”であり“形式”であるはずだったのに。
なのに、なぜでしょう。
王子は、私の言葉に耳を傾け、
私の好みを覚え、
時々、くだらない冗談で笑わせてくる。
「君って、案外怒ると可愛いよな」
「うるさいですわ。誰が可愛いですの」
「じゃあ、きれい?」
「……っ」
──やめてくださらない?
そういうの、冗談でも言わないでくださいまし。
冗談じゃなかったら、困りますの。
気づけば、侍女たちがひそひそと囁いている。
「なんか、おふたりって……意外にお似合いじゃない?」
「前よりも、王子さま笑ってる気がする」
「メリンダさまが、ちょっと優しくなったような……?」
……嘘ですわよね?
私が、あの人に優しく?
あの王子が、私を見て微笑む?
──誰も想定していなかった。
この“なんとなく始まった結婚”が、
気づけば、王国いちばんの「お似合い夫婦」って呼ばれるなんて。
でも、まあ。
「娘に背中を押されて、幸せになった元悪役令嬢」ってのも、
悪くないシナリオじゃありませんこと?
ええ、ええ──
そのうち、私からも言って差し上げますわよ。
「……愛してますわ。あなたのそういうところ、全部」って。
……たぶん、10年後くらいに。
(それまで王子が根気よくがんばるんですのよ?)
その後ーー
小さな産声から、もう数か月。
赤ちゃんのミリュエールは、すっかりぷくぷくとした頬を揺らして笑うようになっていた。
「ふふっ、ごきげんさんね」
ジョアンナが台所で鍋をかき混ぜる背中に、ころころと明るい笑い声が響く。
振り返れば──カイルドが赤子を背に負って、ゆったり歩いていた。
大きな背中に小さな手足がちょこんと乗って、ゆらゆら揺れるたびにミリュエールは声を上げて喜んでいる。
「おい、ジョアンナ。ミリュエールが俺の背中から降りたがらないぞ」
「まあ、それは安心できるからでしょう」
ジョアンナはお玉を置き、微笑んだ。
「いいわね、カイルドさま。お父さんの役目、板についてきましたよ」
カイルドは苦笑しながらも、背中の小さなぬくもりを大切に感じていた。
「……こいつが笑ってると、なんでも頑張れる気がする」
その言葉に、ジョアンナの胸がじんわり温かくなる。
家族と灯りに包まれた「メゾン・ルミエール」は、今日も幸せで満ちていた。
(結婚後のメリンダ×王子)
王城の一角。
メリンダさまは、扇子を片手にため息をついた。
「まったく……“ひとつ布団の魔法”だなんて、馬鹿げてますわね」
隣で書類を眺めていた王子が、ちらと視線を寄越す。
「でも……そのおかげで、僕たちはこうして夫婦になったんだ」
「う……」
メリンダさまの耳が赤くなる。
「……わ、わたくしは別に、あれが理由じゃなくても結婚してましたの!」
王子はにやりと笑みを浮かべ、彼女の手をそっと取る。
「そうだな。けど──“ひとつ布団”の夜を、僕は忘れない」
「~~っ!!!」
メリンダさまは顔を真っ赤にして扇子で王子をぺしぺし叩く。
「忘れなさいって言ってますのに!」
しかし叩く手は弱々しく、王子はそのまま笑いながら彼女を抱き寄せた。
メリンダさまは、鏡の前で扇子を構えたまま、ため息をついた。
「……ああ、もう。ドレスが合わなくなってきましたわ」
その背後から、王子がひょいと顔をのぞかせる。
「ふふ、いいことじゃないか」
「なにが“いいこと”ですの! わたくしの美しいシルエットが台無しに……!」
しかし王子は気にする様子もなく、彼女の肩に手を置いた。
「僕は楽しみなんだ。日に日に大きくなっていくお腹を見るのが……幸せで仕方ない」
メリンダさまの頬が、かあっと赤く染まる。
「……そ、そんなことを真顔で言わないでくださいまし!」
王子はにやりと笑みを浮かべ、そっと彼女のお腹に手を添える。
「ここに、僕たちの未来がいるんだ。楽しみにしないはずがない」
「~~っ……」
メリンダさまは言葉を失い、扇子で顔を隠した。
でも、その指先は小さく震え、唇は抑えきれない微笑みにほころんでいた。
ある夜、王子はメリンダさまのお腹にそっと耳を当てていた。
「まだ声は聞こえないけど……ここにいるんだな」
「……な、なにしてますの。恥ずかしいではありませんか」
メリンダさまは扇子で顔を隠しながら、でもその仕草は弱々しい。
王子は小さく笑みを浮かべる。
「楽しみなんだ。君に似て気が強いのか、それとも僕に似て頑固なのか」
「ふふ……どちらにしても、手のかかる子になりそうですわね」
二人は思わず顔を見合わせ、照れながらも笑い合った。
その様子を偶然見てしまったジョアンナは、胸が熱くなるのを感じていた。
「……すごいわね。ほんとうに、お腹に……」
彼女にとっても、それはただの奇跡ではなく、
“前世の母”が今世で掴んだ、本当の幸せの証だった。
──やがて時が来れば、王子夫妻に新しい命が誕生する。
未来の王子を抱くその日まで、二人の喜びは静かに育っていった。
「う、うえぇぇん!」
王子ルカの甲高い泣き声が、宿の広間に響きわたった。
原因は目の前にいる、むちむちぷくぷくのミリュエール。
両手を腰にあて、ふんばり立ちで得意げに笑っている。
「ミリュ、何をした!」
アルフレッドが慌てて駆け寄るが、ジョアンナは苦笑しながら首を振る。
「ただ……ちょっと髪を引っ張っただけ、みたいで」
「ふぇぇぇん!!!」
ルカが涙目でミリュエールを追いかけ始める。
しかしミリュの足取りは意外と素早い。ころころ転がりそうになりながらも、ちゃっかり逃げ切る。
「待てぇぇぇ!」
まだよちよちのルカが必死に後を追い、二人の小さな足音が宿中に響く。
メリンダさまは頭を抱え、扇子で口元を隠しながらため息をついた。
「もう……わたくしの王子を泣かすなんて」
隣の王子は、それでも笑みを浮かべている。
「でも、こうして喧嘩できるくらい、仲がいいんだろう」
ジョアンナも笑って頷いた。
「ええ。泣いても笑っても、結局は一緒に遊んでますから」
やがて、転んで二人まとめて抱き合うように倒れ込み、今度は二人同時に「きゃはははっ」と笑い出す。
宿の空気は、幸せと笑い声でいっぱいに包まれていた。
エンディング
光の宿──メゾン・ルミエール。
そこには今日も、笑い声とあたたかな灯りがともっている。
ジョアンナとカイルドは、小さな宿を守りながら、愛する娘ミリュエールと共に新しい日々を積み重ねていく。
王子とメリンダさまもまた、新しい命を授かり、未来を育てながら歩み続ける。
かつては断罪を恐れていた悪役令嬢も、今では堂々と、幸せな母の顔をしていた。
身分の違いを越え、子どもたちは一緒に笑い、一緒に泣き、追いかけっこを繰り広げる。
それが今だけの交流だとしても、心に残る灯りは決して消えない。
──幸せは、与えられるものではなく、育てていくもの。
光に包まれた小さな宿から始まった物語は、やがて次の世代へと受け継がれていく。
今日も、灯りはともる。
笑顔と共に、未来を照らしながら。
⸻
作者より
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
「娘の幸せを見届けたい」という母の夢から始まった物語は、
気づけば、新しい家族の形と、未来への温かなバトンへとつながっていました。
少しでも読んでくださる皆さまの心に、柔らかな光が届きますように。
完
次回作のお知らせです。
『着てはもらえぬセーターを ―待ちぼうけ令嬢の複雑な編み図―』
水曜日の朝より、連載を開始します。
三年前に旅立った恋人を想い、セーターを編み続けるダイアナ。
ほどかず、諦めず、けれど心の糸は少しずつ別の誰かへとつながっていく――
恋と手仕事、思い出と新しい出会い。
静かに、あたたかく綴る、童話のような物語です。
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感想ありがとうございます。
『白い結婚だったので』を楽しんでいただけて、とても嬉しいです。
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ご指摘いただいた 「12・宿の開店に向けて メゾン・ルミエール」 のページが開かない件、
すぐに運営へ連絡いたしました。
気づいてくださって助かりました。
これからも、少しずつですが修正・更新を続けていきますので、
また遊びに来ていただけたら嬉しいです。