『転生したら悪役令嬢、前世の娘がヒロインでした』

夢窓(ゆめまど)

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ひとつ屋根の魔法

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恋愛オンチのまま結婚準備!?「ひとつ屋根の下」リターンズ

 

ジョアンナとアルフレッドが帰ってから数日後。
メリンダさまは静かに、そして密かに悩んでいた。

──結婚式の準備が、進んでいる。

そして、なぜか王子と再び「ひとつ屋根の下」で暮らすことになっていた。

 

「……この状況、なんでですの?」

「いや、そっちのセリフだよ。なんで俺が“同室”にされてるんだ……」

 

寝室。
布団は、やはり一枚。

 

「使用人たち、なに考えてますの……? あ、まさか、“既成事実”狙い!?」

「っていうか、お前ももう“結婚する流れ”なのに、いまだにその動揺、どうなんだよ……」

 

メリンダさま、そっぽを向いてぷいっと。

「だって……恋愛、慣れてませんのよ!」

「俺もだよ!」

「……え?」

 

王子が静かに言ったその一言で、空気が変わる。

 

「俺だって、どうしていいかわかんねぇよ。
でも、逃げたくねぇって思ったの、お前が初めてだったから……」

「……へ、へぇ~~~~!?!?!?」

 

メリンダさま、真っ赤。

もう、布団の端にギュッと寄って、身体半分が畳に落ちそうになっている。

 

「近寄らないでくださいまし! 恥ずかしいっ!!」

「いや、落ちるから、引っ張るなってば!」

 

──ドンッ!!

ふたり、ふとんごと落下。

 

「い、いったぁ~~~……」

「……って、顔近っ……!」

 

ふたり、ゴロンとしたまま目が合って──
また、慌てて飛び退いた。

 

だけど、止まらない。

恋はもう、とっくに始まっている。

 
次の日の朝

「おはようございます……って、メリンダさま、顔が赤いまま固まってる」

「寝不足なんですの……恋愛の練習とか、ないんですの……?」

 

式の準備は進む。

けれど、心の準備がいちばん遅れているのは──

たぶん、ふたりとも。

 

:「絶対逃がさない」再宣言と、嵐のような結婚式

 

結婚式の朝。
メリンダさまは、朝靄のなか、花嫁衣装に身を包んでいた。

緊張で震える手を、誰かがそっと握る。

──王子だった。

 

「逃げても、無駄だからな」

 

その声は、やさしくて、
けれどどこまでも強くて、まっすぐで。

 

「……やっぱり、来ましたのね」

「来るに決まってんだろ。お前が行くなら、どこにでも行くよ。だって──」

 

王子の瞳がまっすぐに、メリンダを捉える。

 

「お前が俺の未来だからだ」

 

メリンダさま、撃沈。

その場にへたり込みそうになったのを、王子がさらっと支える。

 

「絶対に、逃がさない」

 

その一言が、誓いのように響いた──

 



◆そして──結婚式当日

大広間には人、人、人!

列席者のなかには、すっかりおなじみとなったあの夫婦の姿も。

 

「ジョアンナ! 手ふらないでよ、もうすぐ始まるんだから!」アルフレッドが慌てる。
「わかってる! でもね、もう……ほんとに嬉しくて……!」

 

その瞬間──

ジョアンナ、ぴたりと動きを止める。

 

「……あれ、アルフレッド? なんか……お腹、痛いかも……」

「……え?」

 

──バシャッ!!

 

「破水したぁーーーッッ!!!」

 

広間、大・混・乱。

 

メリンダさま、入場のタイミングで巻き込まれ──

王子、急遽「姫だっこ」でメリンダさまを迎えに行き、抱えて登場!

 

「よし、これでいいだろ!」

「な、なに勝手に運ばれてますの私ぃぃぃーーー!?」メリンダ、叫ぶ。

 

王子、キリッと。

「もう誓いは済んでる。あとは、周囲に見せつけるだけだろ?」

 

そして、その隣の部屋で産院に運ばれるジョアンナ

「誰か! 湯と布! 早く! こっちはこっちで命が生まれるぞ!!」

 

 

──かくして、誓いと誕生が重なる、嵐のような一日が幕を開けた。


◆嵐のような結婚式、奇跡の一日

 

産声が響いたのは、まさに結婚式の日が終わる直前だった。

 

「……生まれたぞーっ!!」

 

そう叫んだのは、汗だくのアルフレッド。

その腕の中には、小さな産着にくるまれた赤子。

ぐしゃぐしゃに泣いているのは──ジョアンナ。

 

「……ほんとに、ほんとに、生まれた……」

「俺、パパになった……」

 

その場の誰もが、感動と動揺で立ち尽くす中──

 

「おい、俺にも抱かせろ」

 

ひょいっと、王子が赤子を受け取った。

抱き方なんて、ぎこちない。

けれど、腕の中の赤子は、泣きやんで、ふにゃ、とあくびをした。

 

「……あ、今、笑った……?」

「王子、それ多分、あくびですわ」

「違う。これは、俺に懐いた顔だ。な?」

 

なぜか赤子にドヤ顔をかます王子。

でもその顔は、どこまでもやさしくて、どこか、誇らしげだった。

 

「……孫が……」

ふと、小さくメリンダさまがつぶやいた。

 

「私……孫が抱けましたのね……結婚式の日に」

 

笑いながら泣いて、泣きながら笑って。

そして、ジョアンナの横で、母を見つめるメリンダさまの目がふっと細くなる。

 

「母って……すごいですわね」

 

その呟きに、王子が小さく笑った。

 

「じゃあ、次は……練習から始めるか?」

「はぁ!?」

「いや、赤ん坊の抱き方とか。布団の並べ方とか──」

「布団!? なんで布団!?」

「もう並んだだろ。前に」

「……し、知りませんわっ!」

 

──笑いと、誓いと、命の誕生と。

この日、王国史に残る“奇跡の結婚式”が静かに、幕を閉じた。

 

 
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