『転生したら悪役令嬢、前世の娘がヒロインでした』

夢窓(ゆめまど)

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夢は叶ったけれど、私は?

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花の下の誓い

小さな村の素朴な教会。
花の香りと木漏れ日に包まれ、ジョアンナの結婚式は静かに始まった。

「ジョアンナ、綺麗だよ……ほんとうに」

涙ぐみながら言うのは、今の“母親”だ。
彼女は、花嫁姿のジョアンナのドレスの裾を整え、優しく微笑んでいる。

 

少し離れた席から、その光景を見つめていたのは――メリンダだった。

かつて前世で“母”だった彼女が、願い続けた景色。
娘が幸せな花嫁になる日。
愛され、守られ、祝福の中で微笑む姿。

(叶ったわね……。ちゃんと、幸せになれたのね)

(でも……)

今のジョアンナには、自分のことなど何ひとつ覚えていない。
それでいい。そう思っていた。
だけど――

(今世では、私はもう……あなたの母じゃないのね)

笑って見送るつもりだったのに、気づけば指が震えていた。
プログラムの紙が、涙で少しにじむ。

「……あらやだ、わたくしったら。お化粧が……」

隣に座るアルフレッド王子が、そっとハンカチを差し出した。

アルフレッド「泣いていいんだよ。君の涙は、きっと優しいものだから」

メリンダは照れ隠しのように笑って受け取った。

メリンダ「これが……わたくしの“幸せ”の形なのかもしれませんわね」

アルフレッド「うん。でも、君が流した涙の理由を、俺はこれからちゃんと知りたい」

メリンダ「……また、うまいこと言って、抱き込もうとしてますわね」

アルフレッド「じゃあ、“口説き成功”ってことで」

メリンダ「……調子に乗らないでくださいましっ」

ぷいと横を向いた彼女の頬は、ほんのり赤かった。

──花嫁が未来へ歩む日。
もう“母”ではないけれど、何かを確かに託せた気がした。

💫“ひとつ屋根の下”事件と布団一枚の距離感

結婚式のあと。
ジョアンナの宿「ルミエール」で、アルフレッドとメリンダはゲストとして泊まることに。

しかし――

メリンダ「……あなた! なぜか寝床が一緒になってますわよ!? ……聞いてますの!?」

目の前には、布団がひとつ。たったひとつ。

アルフレッド「こっちのセリフだよ! 誰がこんな手配を!?」

メリンダ「わたくしじゃありませんわ! あなたのほうが怪しいですわ!」

アルフレッド「いや、俺も驚いてる! “別室で休める”って聞いてたんだぞ!」

メリンダ「なのにこの部屋……布団が……ひとつ!!」

沈黙。
二人して布団を見つめる。やっぱり、ひとつ。

そのとき――

メリンダ「あっ、そうそう。ジョアンナが言ってましたわ」

アルフレッド「……ん?」

メリンダ「“布団が一枚なら、それは恋の始まり”って」

アルフレッド「……っっ!? な、なにその言葉!!」

メリンダ「ふふっ、からかっただけですわ。……でも、ちょっとだけ本気ですの」

アルフレッド「……じゃあ、始めてみるか?」

メリンダ「な、なにをですの!?」

アルフレッド「恋の始まり、だろ?」

「~~~~っっ!!」

メリンダが真っ赤になって枕を投げる。

その夜、小さな布団の中で、ふたりの距離はほんの少しだけ近づいた。

メリンダ(恋じゃないですわ。ただ、もし裏切られたら殴って逃げますわ)

──でも、朝が来るのが惜しいと思ったのは、初めてだった。

☀️朝のパンと初恋未遂事件

メリンダ「王子、朝ごはんできてますわよ! ……ちょっと髪、跳ねてますわ!」

アルフレッド「うそ、まじで? 鏡……って、なんだこの家庭感」

メリンダ「ほら、焼きたてパンとベリージャムですわ」

ふたり並んで朝食を囲む。
それだけで、不思議と胸が温かい。

メリンダ(悪役令嬢フラグは、全部ジョアンナが折ってくれた。
もう断罪もない。……でも)

メリンダ「王子がまた誰かを好きになったり、裏切ったりしたら……」

アルフレッド「ん? 何か言った?」

メリンダ「いえ、なんでもありませんわ。おかわりありますの?」

笑顔でパンを差し出す彼女に、アルフレッドは苦笑した。

ふいに、王子が真顔になる。

アルフレッド「……俺さ、多分、今初めて“ちゃんと”誰かを好きになってる」

メリンダ「……は? ちょ、ちょっと待ってくださいまし!?」

アルフレッド「いや、確信してる。メリンダのこと、俺、たぶん──」

メリンダ「ストーップですわっ!!」

パン返しがテーブルに叩きつけられる。

メリンダ「初恋って! もっと花が咲くように! 甘く美しくあるべきですのに、寝癖でパン!? ふざけてますの!?」

アルフレッド「えぇぇぇ……」

その後、メリンダは顔を真っ赤にして台所へ逃亡した。

冷蔵庫の前で、彼女は小さく呟く。

メリンダ「だめよ……こんなの、だめ。好きって言われたら……嬉しいに決まってますわ」

(でも、また置いていかれるかもしれない)

胸の奥が熱い。
──これは恋じゃない。たぶん、まだ恋じゃない。
けれど、
「あの人が他の誰かを好きになったら、嫌ですわ」
それだけは、もう自覚してしまった。

💍ジョアンナ再来・“通過点”の魔法

ある日、ノックの音。
扉を開けると、そこに立っていたのは――

ジョアンナ「おひさしぶりですわぁ♡」

ふわっとしたワンピース姿のジョアンナ。
そのお腹は、ふっくらと丸い。

メリンダ「えっ!? ま、まさか!?」

ジョアンナ「結婚式は通過点ですわよ? ひとつ屋根の下、ひとつ布団──それはもう“魔法”なのですわ♡」

メリンダ「な、なにその危険な魔法はっ!?!?」

背後からカイルドが現れる。

カイルド「体調大丈夫? 無理するなよ」

ジョアンナ「ええ。ねえ、メリンダさまも早くしないと──置いていかれますわよ♡」

メリンダ「ぐはっ……!」

真っ赤になって、王子を見られない。
でも、心の奥はほんのり温かい。

メリンダ(……私も、ひとつ布団、しましたわ。恋はまだ通過点だけど、今は……始まりかけてる)

ジョアンナは優しく微笑んで、彼女の手に小さなハンカチを握らせた。

ジョアンナ「これは、未来の恋を祝福するお守りですわ」

──“未来の恋を、祝福するために”

メリンダはそっと胸に抱きしめた。
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