壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)

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遙サイド

離婚に向けて、

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弁護士さんが、書類をまとめながら言った。
「今は興奮してるから、少し落ち着いて。
それでも離婚したいと思えたら、そのときに決めればいい。……まあ、このケースは、離婚を勧めるけどね」

「旅行でも行ったらどうかな?」弁護士さんが、勧める。

「賛成!」咲希が手を挙げた。
「信楽とかどう? 近江の方にいい温泉あるし」

「お伊勢さんも行きたい!近江牛に、松坂牛!」

健太が苦笑した。
「なんでお前ら、そんな元気なんだよ」

お母さんがいう、
「いいじゃないの。旅で心のホコリも落としてきたいわ。」

健太が、財布からお金取り出した。
「ほら、おこづかい寄付するわ。十万ぐらいあるな、旅行、行ってこい!」

「健太さん、太っ腹!」「サンキュー兄貴!」

わいわいと声が重なった。

テーブルの上に地図が広げられ、
行きたい場所に付箋が増えていく。

笑い声が続くうちに、
遙の心の中のざらつきが、少しずつほどけていった。


信楽の陶芸村にて

信楽の空気は、思っていたより静かだった。
焼き物の町というより、山に包まれた集落のよう。
通りのあちこちに、登り窯の煙突と、たぬきの置物が顔を出している。

「かわいい……」
そうつぶやきながら、遙は歩いた。
咲希とお母さんは、別の店で器を物色している。

一軒の小さな販売所に足が止まった。
店先には、深い青や灰色の器が並んでいて、
どれも少し歪んでいるのに、どこか温かみがあった。

「よかったら、どうぞ見ていってください」
店の奥から声がした。

エプロン姿の男性。
髪は少し乱れていたけれど、目は真っすぐだった。

「これ……すてきですね」
遙が指先でカップの縁をなぞると、
彼は照れくさそうに笑った。

「ありがとうございます。信楽の土は気まぐれで、思い通りには焼けないんです。
だから、うまくいくと、ちょっとだけ嬉しくなる」

その言葉に、遙は胸の奥が温かくなるのを感じた。

「ここ、絵付け体験もできるんですよ。よかったらどうぞ」
「ほんとですか?」

案内された工房の机には、筆と釉薬が並んでいた。
遙は筆を取って、小皿に桜を描いた。
筆先が土の上を走る感触が懐かしい。

「有田焼き工房で絵付けを習ってたんです」
「え、そうなんですか。そりゃ、筆が違うわけだ」

男は感心したように笑った。

名前は太一、
この工房を、亡き父の跡を継いで開いたばかりだという。

その笑顔を見たとき、遙は少しだけ肩の力が抜けた。
何かを語りかけるような目をしていた。
派手でもなく、押しつけがましくもない。
ただ――安心できる空気をまとっている男性だった。

久しぶりに、誰かと土の話をして、
心がほんの少し、あたたかくなった。

それが、最初の印象だった。

帰り道のカフェで、信楽焼のマグに入ったコーヒーを頼んだ。
丸っこい形と、ざらりとした手触り。
口に当たる感触がどこか優しい。

――こんな器、久しぶりだな。

コーヒーの香りと一緒に、
今日の窯の色、土の匂い、あの人の笑い声がふっと蘇る。

「……なんか、ほっこりする陶芸体験だったな」

遙は小さく笑って、マグを両手で包んだ。
また来たい。
そう思える場所ができたことが、
今はただ、嬉しかった。

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