記憶のない彼女と運命の恋

冬花美優

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第1章 帝国編

10話 相容れない者同士の願い

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一夜明けて目を覚ましたエリスは横を振り向くと夜を共にした彼がいなかった。そっと彼がいたであろう布団へ手を伸ばし微かな温もりを探していた。

今までのものが優しく流れて癒されるような心地よい感覚になったのは初めてだった。

「……ありがとう、ルシア」

コンコン

「エリス様おはようございます、ミヤノです」

ミヤノの声で私は起き上がって言った。

「おはようございます、ミヤノ…」

今日のミヤノはいつもより表情が柔らかく優しい。なにか良い事があったのだろうと考えていた。そして私はミヤノに言うべき事があった。

「ミヤノ!その……実は……」

私は掛け布団を払おうとしたが何も着てない裸である事に気づいて頬を赤らめてしまう

それを見たミヤノは優しく微笑んで言った

「昨日は良い夢を見られたんですか?」

私は涙を浮かべながら答えた

「はい……すごく心地よくて素敵な夢でした……」

「なら、良かったです。」

そう言ってミヤノは私を抱きしめて言った

「私もエリス様の味方です。」

「……ありがとう」

「さぁ、お召し替えと身嗜みのお手伝いします。その後は朝食を用意しますね」




そのころ……早朝から城の謁見の間では2人だけがいて会話をしていた。


「1年ぶりですね、ケイン。」

「はい母上、この度は私の不祥事により多大な迷惑をかけて申し訳ございません」

深々と頭を下げるケインにマリンナは毅然とした態度で話す


「あなたの犯した事実は消えませんが今これから、あなたが帝国の次期皇帝として正しい道に成長する努力をしなさい」

「はい」

「では、今よりケインを王位権利の復権と皇帝再継承を承諾します。ただし再び過ちを犯せば次はもう極刑ですよ。」

「わかりました」

以前の自己志向のような身勝手な振る舞いはなく大人になった。


その後、ケインは謁見の間から退出しようと謁見の間の扉を開けると黒髪に赤い瞳のケインより長身の男性が立っていた。ルシアだった。


「おっと、これは失礼した。おや?見慣れないお方ですね。」

「ん?貴様は誰だ?」

すると一瞬顔がこわばるケインだが深呼吸して言った。

「私は帝国の次期皇帝のケイン第1王子と言います。良ければ貴殿の名前も伺ってよろしいでしょうか?」

「……ルシアだ」

「ルシア……ルシっ……はっ! まさか……」

するとマリンナが答えた

「彼が魔界と人間界の中立国を保っている東国の皇帝ルシア殿よ」

「殿は辞めてくれ、性に合わん」

「これは失礼しました、ルシア殿」

ケインはルシア皇帝の威圧を感じ圧倒された。

これが国を統べる者としての風格と立ち振る舞い。

そしてルシアはさりげなくケインに聞いた。


「して、ケイン殿はエリス嬢との婚約をしているのか?」

「婚約というか許嫁になったというか恋人というような感じです」

「なるほど。つまり、片想いという事か」

「むっ……まぁそういう見解もあります」

するとルシアはケインに言った。


「ケイン殿、後日時間が空いた時に俺と2人で話がしたい。いかがかな?」

「もちろん、構いません」

「では、また。」

ルシアは軽く会釈をして謁見の間を去った。


「母上」

「どうかしたの?ケイン」


「もしや、あの男がエリスの……」


「ええ、そうよ」

少し寂しげな表情をしたケインにマリンナはケインの肩を軽く触って言った。


「いいですか、恋愛というのは己の自己主張だけでは決して成功はしません」

「なら、どうしたら……」

マリンナは優しく微笑んだ。

「あなたが彼女を大切にする気持ちを持って思いやること、そしてダメだったら潔く自分から身を引く事です。」

「母上、それでは負けたようなものでは、ありませんか!」

「いいですかケイン、恋愛に勝ち負けはありません。さっきも言いましたよね?」

ケインは顔を見て考えた。そしてマリンナは答えた。

「自分に振り向いてくれない時は相手を恨むのではなく相手の気持ちを尊重し自分が諦める。これが相手を思いやること」

マリンナの言葉にケインは気づいた。

いくら自分が好意のある人にしつこく伝えてたり、思い通りにいかない時に相手を恨むのは自分の気持ちだけを主張するだけのワガママだということ

「母上……私は、今ようやく彼女の気持ちに反してワガママを言っていた子供だったのですね……自分が情けない……っ」

ケインは膝まづいて両手を床につくと、床に水滴がいくつも落ちてきた。

それを見たマリンナは何も言わずに、ゆっくりとケインの背中に手をやったのだった。


「ケイン。あなたは若いわ。まだこれから先もあるのだから、まずは自分の気持ちに後悔しない選択をしなさい」

「はい……っ」


そして後日、ルシアとケインは城の中にある中庭にいた。花が咲く庭園に貴婦人達がお茶を嗜む屋根付きのテラスがある。

さらに隣には整備された円形の広場があった。その広場は運動ができるスペースのようだ。


2人は花が咲く庭園の屋根付きテラスに座った。

「ルシア殿、突然すまない。実は急遽、我々の茶会に参加したい者が1人いるんですがよろしいでしょうか?」

ルシアはケインの曇りない真っ直ぐな瞳と一皮むけたような堂々した顔つきを見て答えた。

「ケイン殿、先日と比べて表情が男らしくなったな。異論は無い。構わないぞ」

「感謝します。」

ケインは手を叩いてメイドに合図をすると、1人が歩いてきた。

「おふたりともお久しぶりです」

現れたのは赤い髪をなびかせて優しい赤い瞳にうっすらとほのかに化粧された美しい肌と花咲く庭園に似合うワンピースを着たエリスだった。

2人はあまりの姿に見惚れてしまう。

するとエリスの側近であるミヤノが言った。

「おふたりに会うためにメイド共々、エリス様を最高に美しく見せるために頑張りましたわ」

「まさか……君だったとは、美しいよエリス」

「本当に美しいよエリス」

2人は単純な感想しか言えなかった。


そして3人の茶会は始まった。

たわいのない世間話で会話が弾み、3人からは笑顔も見えた。

するとケインは切り出して言った。

「ところでエリスとルシア殿は古い知り合い同士なのですか?」

「そうだ、家系の関係もあって小さい頃から知っている」

「なるほど」

「先の大戦などが無ければ婚姻などの話もあったが無くなったしな」

するとエリスも答えた

「そうですね」

するとケインは真剣な顔で言った

「ルシア殿、もしも私がエリスを幸せにするから身を引いてほしいといったら?」

ルシアは表情を変えずに真っ直ぐな瞳で言った

「おれはエリスを愛してる。だからこそ貴殿らが同じ気持ちなら、もちろん身を引くしかし、」

「しかし?」

「もし彼女の中に我々のどちらかへの迷いがあるなら俺は引かない」

するとケインは真剣な表情からルシアと同じ真っ直ぐな瞳で言った

「その言葉をきいて不思議だが、ホッとした自分がいる。だが私もエリスから身は引かない」

「……ふっ、やはり我々は相容れない者同士だな」

「そうですね」

心配そうな顔をして2人を見つめるエリスは言った。

「2人とも……どうか…国を巻き込んで争うような事はしないでください。」

すると2人は優しく微笑んで言った

「そんな事はしません。これはルシア殿と私の2人だけの引けない事だ。」

「ケイン殿、よく言った。エリスよ安心してくれ、これは男2人の意地をかけた譲れない事だけだ。エリスからしたら、くだらないだろ?」

エリスは答えた

「いいえ、くだらなくないです。私たちの真剣な事なのですから」


「ルシア殿、今から木刀で1勝負しませんか?」

「勝った方はどうなる?」

「勝った方がエリスの恋人として認めて負けた方はエリスから身を引く」

2人は笑みを浮かべながら同意した。


そしてエリスはただ、2人の行く末を見守る事しかできなかった。

「ルシア……ケイン殿……」


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