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2章 俺の異世界でのパートナーは、可愛いだけじゃなかった。
15 鍛冶屋の店主は謎がいっぱい
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ここは本当に異世界なんだろうか。
鍛冶屋への道すがら、俺はずっとそんなことを考えていた。
最初に会った親衛隊の二人やクラウこそ、マントをしたりハイレグのコスチュームを着たりと奇抜な格好をしていたものの、町を行き交う人々は皆素朴で、装飾も控えめだ。
剣を背負ったメルが逆に目立ってしまう程、武器らしきものを装備している人も稀なことに、俺は大分驚いている。
石造りの建物が並ぶ通りを馬車が駆け抜けていく風景は、昔のヨーロッパへタイムスリップしたと言われれば、納得してしまう程だ。
魔王が居るのだから魔界に行くのだろうと思っていた俺は、あまりにも穏やか過ぎる風景に気が抜けてしまった。
それでも若干違和感を感じるものと言えば、馬車の先頭が馬ではない事だろうか。
「あの、箱を引いているのは何てモンスター?」
因みにこっちの世界では、人以外のペットや家畜は全て『モンスター』と総称されるらしい。俺がその『馬車のようなもの』を指差すと、メルは「トードよ」と教えてくれた。
馬より大分姿勢が低く、トラのような姿。まぁ強いて言えば、馬車ではなく『トード車』と言った所か。
そう言えば、『次元の間』にある門を潜った効果とやらで、俺はメルとも会話できるし、町の人たちの声もちゃんと日本語で理解することが出来るが、文字だけはどうしても読み取ることが出来なかった。だから、町の看板が全く読めない。
俺たちはグニャグニャの異国文字と剣が描かれた看板の掲げられた、町の中心部に位置する鍛冶屋を訪れた。
生憎店主は不在だったが、長い金髪を三つ編みに結わえた少女が「いらっしゃいませぇ!」とテンションの高い声で俺たちを迎えてくれた。
教室を半分にしたような狭い店で、セキュリティもなさそうな緩い状況の中、壁一面に武器という武器がぎゅうぎゅう詰めに飾られている。
全部本物だという事実に圧倒されて、「おぉ」と呟いたまま戸口で立ち止まっていると、メルの小さな手が俺の腕を掴んで店内へと引き込んだ。
「メルちゃん、今日はどんな御用かな?」
三つ編み少女に声を掛けられて、メルはの目の高さにあるカウンターの台を両手で掴み、ぐぐぐっと背伸びしながら答えた。
「シーラ、ちょっと彼に剣を見立てて欲しいの。クラウ様が特別に連れてきた、向こうの人なのよ。全然戦ったことないっていうから、良さげなのを頼むわ」
「じゃあ、剣を持つのも初めてなんだね! だったら、アレがいいかなぁ。ちょっと待ってて」
細い指先を唇の前でパチンと合わせ、シーラは物珍しそうな顔を向けて来るが、俺が異世界人だと聞いてもそこまで驚く様子は見せなかった。
彼女が部屋の奥に下がったタイミングで、俺はメルにこっそりと尋ねてみる。
「こっちの世界の人たちって、俺の世界の人間見ても驚かないわけ?」
「門の存在も知られているし、クラウ様が向こうから女の子を集めているのは有名な話だからね。けど、『次元の間』に入るには、クラウ様の許可が居るの。私だって行ったことないんだから」
「へぇ、そうなのか」
国民が周知の上で巨乳女子を集めてるだなんて、この国は大丈夫なのだろうか。
「これがお勧めでぇす! それなりに切れるし、癖もないから初めての人には使いやすいと思うよ」
三つ編みを揺らしながら戻って来たシーラの手には、シンプルな剣が握られている。銅色の取っ手には赤い石が埋め込まれているが、それほど豪華な感じはしない。
まずメルが受け取って、金属音を滑らせ鞘を抜く。小さな彼女の身長では大分大きく感じるが、彼女が背負っている物の方が若干長いように見える。メルの剣は細部まで凝った模様が刻まれていて、量産されていそうな単純な作りの初心者用とは比べ物にならない程だった。
「メルちゃんには物足りないと思うけど。どうかな?」
「そうね、これくらいがいいかもしれないわね。けど、ユースケにはちょっと重くないかしら」
「このくらい平気だよ」
裸のまま剣を渡されて、俺は正直ビビっていた。平常心を装うことに精いっぱいで、重さなんて実は良く分からない。
初心者用とはいえ刃は鋭い光を放っている。間違ってでも落とさないようにきつく握り締めて構えると、「うん、いいわね」とメルは3回くらい頷いた。
「じゃあ、これをいただくわ。メル隊の費用から出すから、ユースケは遠慮なんてしなくていいんだからね!」
そんな名前の隊だったのかと納得して、俺は「ありがとう」と礼を言う。
メルはワンピースのポケットから、動物の顔を模った可愛らしいポーチを取り出した。どうやら彼女の財布らしいが、よく見るとそれはカーボの顔だった。
シーラは茶色の腰ベルトを制服のズボンの上に巻いてくれて、簡単に装着方を教えてくれた。学生服に剣の装備だなんて、本当にラノベの主人公みたいだなと立ち鏡の前で自画自賛してしまう。
ヒロインはもう少し年上が良かったが、幼女と戯れる主人公というのも、どこかで読んだことがあるシチュエーションだ。
「私の剣もメンテナンスして欲しかったんだけど。ゼストはいつ頃戻るのかしら?」
帰りがけ、メルがそんなことをシーラに尋ねた。ゼストとはこの店の店主らしい。
「私にも良く分からないんだよ。注文が入ると、嗅ぎつけて帰ってくるんだけどね。よっぽど向こうが好きみたいで」
「でも、クラウ様の仕事もあるから忙しいのは仕方ないわね。討伐から帰ったらまた来るわ」
そう言い残して、メルはシーラに手を振って店を出た。
「店主は忙しい人なんだな」
「ゼストはユースケの世界が大好きだから、しょっちゅう向こうに行っちゃうのよ。鍛冶屋の仕事もあるけど、彼はマーテルやリトと同じで、クラウ様の親衛隊の一人なの」
「えええっ!」
親衛隊に男が居るとは聞いていたが、まさか鍛冶屋の店主だなんて。
俺のイメージする『鍛冶屋』っていうのは、昔読んでいたファンタジー漫画に出て来た髭面の頑固親父だ。
要らぬ妄想を膨らませる俺を、メルが不思議そうな顔で覗き込んでくる。
「なぁ、ゼストさんってのはどんな人なんだ?」
「ゼスト?」
とりあえず聞いてみるのが俺の主義だ。
「そうね、剣を作る人だし、こだわりの強い人かしら」
「そうか。いや、マーテルさんやリトさんが若くて綺麗で可愛かったから、親衛隊に男が居るのは意外だなぁって思ってさ」
「もぅ。クラウ様もそうだけど、男の人ってホントに女の子が好きなのね。生憎、ゼストは可愛い感じでも綺麗な感じでもないわよ」
「男にそこは求めてないけど」
「あえて言うなら……そうね」
両手を組んで、メルは唇をきゅっと噛んで考えるポーズをする。
「お父さんみたいな感じ?」
少し疑問形でメルはそう答えた。
まぁなんだ、俺のイメージする親衛隊とは大分違いそうだという事だけは分かった。
鍛冶屋への道すがら、俺はずっとそんなことを考えていた。
最初に会った親衛隊の二人やクラウこそ、マントをしたりハイレグのコスチュームを着たりと奇抜な格好をしていたものの、町を行き交う人々は皆素朴で、装飾も控えめだ。
剣を背負ったメルが逆に目立ってしまう程、武器らしきものを装備している人も稀なことに、俺は大分驚いている。
石造りの建物が並ぶ通りを馬車が駆け抜けていく風景は、昔のヨーロッパへタイムスリップしたと言われれば、納得してしまう程だ。
魔王が居るのだから魔界に行くのだろうと思っていた俺は、あまりにも穏やか過ぎる風景に気が抜けてしまった。
それでも若干違和感を感じるものと言えば、馬車の先頭が馬ではない事だろうか。
「あの、箱を引いているのは何てモンスター?」
因みにこっちの世界では、人以外のペットや家畜は全て『モンスター』と総称されるらしい。俺がその『馬車のようなもの』を指差すと、メルは「トードよ」と教えてくれた。
馬より大分姿勢が低く、トラのような姿。まぁ強いて言えば、馬車ではなく『トード車』と言った所か。
そう言えば、『次元の間』にある門を潜った効果とやらで、俺はメルとも会話できるし、町の人たちの声もちゃんと日本語で理解することが出来るが、文字だけはどうしても読み取ることが出来なかった。だから、町の看板が全く読めない。
俺たちはグニャグニャの異国文字と剣が描かれた看板の掲げられた、町の中心部に位置する鍛冶屋を訪れた。
生憎店主は不在だったが、長い金髪を三つ編みに結わえた少女が「いらっしゃいませぇ!」とテンションの高い声で俺たちを迎えてくれた。
教室を半分にしたような狭い店で、セキュリティもなさそうな緩い状況の中、壁一面に武器という武器がぎゅうぎゅう詰めに飾られている。
全部本物だという事実に圧倒されて、「おぉ」と呟いたまま戸口で立ち止まっていると、メルの小さな手が俺の腕を掴んで店内へと引き込んだ。
「メルちゃん、今日はどんな御用かな?」
三つ編み少女に声を掛けられて、メルはの目の高さにあるカウンターの台を両手で掴み、ぐぐぐっと背伸びしながら答えた。
「シーラ、ちょっと彼に剣を見立てて欲しいの。クラウ様が特別に連れてきた、向こうの人なのよ。全然戦ったことないっていうから、良さげなのを頼むわ」
「じゃあ、剣を持つのも初めてなんだね! だったら、アレがいいかなぁ。ちょっと待ってて」
細い指先を唇の前でパチンと合わせ、シーラは物珍しそうな顔を向けて来るが、俺が異世界人だと聞いてもそこまで驚く様子は見せなかった。
彼女が部屋の奥に下がったタイミングで、俺はメルにこっそりと尋ねてみる。
「こっちの世界の人たちって、俺の世界の人間見ても驚かないわけ?」
「門の存在も知られているし、クラウ様が向こうから女の子を集めているのは有名な話だからね。けど、『次元の間』に入るには、クラウ様の許可が居るの。私だって行ったことないんだから」
「へぇ、そうなのか」
国民が周知の上で巨乳女子を集めてるだなんて、この国は大丈夫なのだろうか。
「これがお勧めでぇす! それなりに切れるし、癖もないから初めての人には使いやすいと思うよ」
三つ編みを揺らしながら戻って来たシーラの手には、シンプルな剣が握られている。銅色の取っ手には赤い石が埋め込まれているが、それほど豪華な感じはしない。
まずメルが受け取って、金属音を滑らせ鞘を抜く。小さな彼女の身長では大分大きく感じるが、彼女が背負っている物の方が若干長いように見える。メルの剣は細部まで凝った模様が刻まれていて、量産されていそうな単純な作りの初心者用とは比べ物にならない程だった。
「メルちゃんには物足りないと思うけど。どうかな?」
「そうね、これくらいがいいかもしれないわね。けど、ユースケにはちょっと重くないかしら」
「このくらい平気だよ」
裸のまま剣を渡されて、俺は正直ビビっていた。平常心を装うことに精いっぱいで、重さなんて実は良く分からない。
初心者用とはいえ刃は鋭い光を放っている。間違ってでも落とさないようにきつく握り締めて構えると、「うん、いいわね」とメルは3回くらい頷いた。
「じゃあ、これをいただくわ。メル隊の費用から出すから、ユースケは遠慮なんてしなくていいんだからね!」
そんな名前の隊だったのかと納得して、俺は「ありがとう」と礼を言う。
メルはワンピースのポケットから、動物の顔を模った可愛らしいポーチを取り出した。どうやら彼女の財布らしいが、よく見るとそれはカーボの顔だった。
シーラは茶色の腰ベルトを制服のズボンの上に巻いてくれて、簡単に装着方を教えてくれた。学生服に剣の装備だなんて、本当にラノベの主人公みたいだなと立ち鏡の前で自画自賛してしまう。
ヒロインはもう少し年上が良かったが、幼女と戯れる主人公というのも、どこかで読んだことがあるシチュエーションだ。
「私の剣もメンテナンスして欲しかったんだけど。ゼストはいつ頃戻るのかしら?」
帰りがけ、メルがそんなことをシーラに尋ねた。ゼストとはこの店の店主らしい。
「私にも良く分からないんだよ。注文が入ると、嗅ぎつけて帰ってくるんだけどね。よっぽど向こうが好きみたいで」
「でも、クラウ様の仕事もあるから忙しいのは仕方ないわね。討伐から帰ったらまた来るわ」
そう言い残して、メルはシーラに手を振って店を出た。
「店主は忙しい人なんだな」
「ゼストはユースケの世界が大好きだから、しょっちゅう向こうに行っちゃうのよ。鍛冶屋の仕事もあるけど、彼はマーテルやリトと同じで、クラウ様の親衛隊の一人なの」
「えええっ!」
親衛隊に男が居るとは聞いていたが、まさか鍛冶屋の店主だなんて。
俺のイメージする『鍛冶屋』っていうのは、昔読んでいたファンタジー漫画に出て来た髭面の頑固親父だ。
要らぬ妄想を膨らませる俺を、メルが不思議そうな顔で覗き込んでくる。
「なぁ、ゼストさんってのはどんな人なんだ?」
「ゼスト?」
とりあえず聞いてみるのが俺の主義だ。
「そうね、剣を作る人だし、こだわりの強い人かしら」
「そうか。いや、マーテルさんやリトさんが若くて綺麗で可愛かったから、親衛隊に男が居るのは意外だなぁって思ってさ」
「もぅ。クラウ様もそうだけど、男の人ってホントに女の子が好きなのね。生憎、ゼストは可愛い感じでも綺麗な感じでもないわよ」
「男にそこは求めてないけど」
「あえて言うなら……そうね」
両手を組んで、メルは唇をきゅっと噛んで考えるポーズをする。
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