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3章 死を予感した時、人は本能を剥き出しにするものだ。
26 忠告を無視した俺の最期
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俺の知ってるメルは、栗色のくるくるヘアをツインテールに結んだ、サファイアの瞳をした小さな少女だ。
それなのに、カーボに襲われて目を閉じた数秒の間に、メルは俺の前から消えてしまった。
その、緋色の少女を残して。
解かれた髪は山の風景に際立つ赤色で、マーテルさんのオレンジとは全く違っていた。
幼児体系を抜け出したばかりのような、あどけなさが残る顔。
「メル……なのか?」
俺がそうだと思ったのは、彼女が新調したばかりのカーボ印の服を着ていたからだ。
頭一つ分以上身長が伸びていて、膝丈だったスカートの裾が、パンツの見えないギリギリラインまで上がってしまっている。
返り血で染めたワンピースがぴったりと身体のラインを際立たせているが、やはり胸はこの世界特有の平たいものだった。
いや、そうじゃなくて。
彼女が誰だろうなんて思ったのはほんの一瞬だけだった。
目の色も髪の色もメルとは全然違うのに、間違いであって欲しいと思いつつも俺はそうだと確信している。
いつも微笑んでいた表情は冷たく閉ざされ、彼女が何を考えているのかさっぱり読めない。
――『緋色の魔女に会ったら、一目散に逃げろ』
ヤシムの言葉。みんなこうなることを知っていたんだろうか。
だから、討伐隊に人が集まらなかったのか?
彼女は倒れたカーボを背に、赤い瞳を俺にじっと向けていた。
――『逃げろ』
ヤシムの声が頭の中でもう一度逃走を促してくるが、俺を助けてくれた彼女から逃げ出そうなんて気にはなれなかった。
彼女が居なかったら、俺はもう確実に生きてはいない。
「あの、助けてくれてありがとな」
彼女がもし本当に緋色の魔女なら、魔法が使えるという事なのだろうか。
カーボに襲われて目を閉じた時に感じた熱は、炎か何かだったのだろうか。
疑問ばかりが連なって、俺は落ち着けと頭を振り、倒れたカーボを見やった。
半開きで固まったカーボの唇。赤い目は閉じたままだ。
焼かれた様子はなく、臭いも感じない。そして恐らくこれが決め手だったと思われる、脇腹に突き刺さったメルの長い剣。
緋色の魔女は俺の視線を追ってカーボを振り向き、その剣に手を掛けた。
ズブズブと耳障りな音がして、血で染まった刃が現れる。
剣先が抜けると同時にカーボの脇腹の肉が僅かに浮いて、血液をドロリと吹き出した。
その量に俺は「うっ」と吐き気を覚えて口元に手を当てる。
赤く染まった剣を振って彼女は血を払おうと試みるが、若干飛んだだけで色はまだべったりと刃を覆っていた。
背が伸びた彼女が持つと、小さなメルの時に感じていた剣の大きさへの違和感が全く感じられない。むしろ大きい彼女のものだと言えば、疑問が一瞬で解けてしまう。
緋色の魔女は、剣を背中の鞘に収めようとはしなかった。
右手で握り締めていた柄に左手を添えて、切っ先を俺に向けて持ち上げたのだ。
「えっ――?」
彼女は何をしようとしているのか。
まさかという疑問と、現実。
きっとこの結末は、俺がヤシムの忠告を無視したからだ。
クラウは、こうなることを知ってて俺をメルの所によこしたのか――?
それ以上の何かを考える余裕なんてなかった。
1秒後の俺が、緋色の魔女によって心臓を突き刺されていたからだ。
それなのに、カーボに襲われて目を閉じた数秒の間に、メルは俺の前から消えてしまった。
その、緋色の少女を残して。
解かれた髪は山の風景に際立つ赤色で、マーテルさんのオレンジとは全く違っていた。
幼児体系を抜け出したばかりのような、あどけなさが残る顔。
「メル……なのか?」
俺がそうだと思ったのは、彼女が新調したばかりのカーボ印の服を着ていたからだ。
頭一つ分以上身長が伸びていて、膝丈だったスカートの裾が、パンツの見えないギリギリラインまで上がってしまっている。
返り血で染めたワンピースがぴったりと身体のラインを際立たせているが、やはり胸はこの世界特有の平たいものだった。
いや、そうじゃなくて。
彼女が誰だろうなんて思ったのはほんの一瞬だけだった。
目の色も髪の色もメルとは全然違うのに、間違いであって欲しいと思いつつも俺はそうだと確信している。
いつも微笑んでいた表情は冷たく閉ざされ、彼女が何を考えているのかさっぱり読めない。
――『緋色の魔女に会ったら、一目散に逃げろ』
ヤシムの言葉。みんなこうなることを知っていたんだろうか。
だから、討伐隊に人が集まらなかったのか?
彼女は倒れたカーボを背に、赤い瞳を俺にじっと向けていた。
――『逃げろ』
ヤシムの声が頭の中でもう一度逃走を促してくるが、俺を助けてくれた彼女から逃げ出そうなんて気にはなれなかった。
彼女が居なかったら、俺はもう確実に生きてはいない。
「あの、助けてくれてありがとな」
彼女がもし本当に緋色の魔女なら、魔法が使えるという事なのだろうか。
カーボに襲われて目を閉じた時に感じた熱は、炎か何かだったのだろうか。
疑問ばかりが連なって、俺は落ち着けと頭を振り、倒れたカーボを見やった。
半開きで固まったカーボの唇。赤い目は閉じたままだ。
焼かれた様子はなく、臭いも感じない。そして恐らくこれが決め手だったと思われる、脇腹に突き刺さったメルの長い剣。
緋色の魔女は俺の視線を追ってカーボを振り向き、その剣に手を掛けた。
ズブズブと耳障りな音がして、血で染まった刃が現れる。
剣先が抜けると同時にカーボの脇腹の肉が僅かに浮いて、血液をドロリと吹き出した。
その量に俺は「うっ」と吐き気を覚えて口元に手を当てる。
赤く染まった剣を振って彼女は血を払おうと試みるが、若干飛んだだけで色はまだべったりと刃を覆っていた。
背が伸びた彼女が持つと、小さなメルの時に感じていた剣の大きさへの違和感が全く感じられない。むしろ大きい彼女のものだと言えば、疑問が一瞬で解けてしまう。
緋色の魔女は、剣を背中の鞘に収めようとはしなかった。
右手で握り締めていた柄に左手を添えて、切っ先を俺に向けて持ち上げたのだ。
「えっ――?」
彼女は何をしようとしているのか。
まさかという疑問と、現実。
きっとこの結末は、俺がヤシムの忠告を無視したからだ。
クラウは、こうなることを知ってて俺をメルの所によこしたのか――?
それ以上の何かを考える余裕なんてなかった。
1秒後の俺が、緋色の魔女によって心臓を突き刺されていたからだ。
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