貧乳世界の魔王が作った巨乳ハーレムに入ってしまった幼馴染を連れ戻すために、俺は異世界へ旅立つ!

栗栖蛍

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3章 死を予感した時、人は本能を剥き出しにするものだ。

27 闇に響いた鼓動は

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 なぁクラウよ。
 こうなることも、お前の想定内だったのか?

 あまりにも突然すぎて、俺は自分自身に起きたことも痛みも理解することなどできなかった。

 ただ、俺を見据える彼女の目が、悲しさの一つも見せずにいることを寂しいと思いながら、まぶたの重みに耐えられず闇を受け入れる。

 (俺、死んだのか?)

 緋色の魔女に、俺は心臓を一突きにされたのだ。
 これで生きてたら、ご都合主義にも程がある。

 ただ、この死が現実なら美緒に会えなかったことだけが心残りだ。
 美緒に会うためにこの世界に来たのに、魔王の城に辿り着く前に自分の死で終了だなんて、とんだバットエンドである。
 それに彼女の記憶の保管者である俺が死ぬと、美緒は元の世界に戻れなくなってしまう。

 (これは不味ったな……俺の身勝手で、ごめんな、美緒)

 けどそれでも、俺はこの世界に来たことに後悔はしていない。
 死の結末は余りにも無念だけれど、自分が選んだ選択肢が招いた結果だ。

 (けど……)

 この意識はどこに漂っているのだろうか。
 体の感覚は消えていて、思考だけが残っている。もう魂や幽霊と同じ状態になって、死後の世界とやらに送られてしまったのか。

 実体のない世界――まぁ、そう考えれば納得せざるを得ないけれど、このままずっと自分の意識だけで独り言を呟いていくだけなんて、孤独で可笑しくなってしまいそうだ。

 けど本当に?
 本当に俺は異世界で死んだのか?
 この後、もしかして元の世界で目が覚めるんじゃないのか?
 全てが夢だったと言うのは、ラノベでも良くあるパターンだ。

  ――『これで僕の力を少しだけユースケも使えるようになったから』

 あれ?

 俺はふと、クラウの言葉を思い出した。この異世界に持って来る物を探しに二人で俺の家に行った時だ。

 アイツが美味しいと言ったコーラと引き換えに、俺が魔王に貰ったものは--。

 ――『もしもの話だよ。その時は、この力がユースケを守ってくれる』

 ドクン、と。
 俺の意思とは別の所から、何かの鼓動が聞こえた。

 ドクン、ドクン。

 リズムを刻むようなその音が次第に大きくなって、その振動を暗闇に共鳴させていく。

 真っ暗な意識の中で、俺は全身でその音を受け止めていた。

 これは、俺がまだ生きている音だろう――?

 クラウの言った『もしもの時』は、大分すぐに訪れてしまったらしい。
 ゆっくりと取り戻された全身の感覚。ひんやりとした土の硬さを身体全体で受け止める。

「ぐ、ぐはぁっ……」

 突然襲ってきた心臓の痛みに目を剥くと、青い空が視界に飛び込んできた。
 けれどその状況に安堵も出来ぬまま、俺は地面の上で自分の身を抱え込んだ。
 生還したとは思えないほどの真逆の痛みに全身から汗が吹き出し、土塗つちまみれでのたうち回る。

「ヒィ、ヒィ……」

 何度も何度も呼吸を繰り返し、ようやく少しだけ落ち着いて目を開くと、地面に立つ泥まみれの細い脚がそこにあった。

 緋色の魔女が立っていたのだ。
 怪訝な顔で見下ろす彼女と目が合って、俺は身を縮めてたじろぐ。

「うわぁあああ!」

 殺られる――身体がその恐怖を拒絶する。
 彼女の手には赤く染まった剣が握られたままだ。

 (その血は俺のなんだろう――?)

 意識が飛んでいた時間は、そう長くはなかったらしい。
 心臓を押さえた俺の手も血まみれだ。けれど、痛みは何故か遠退いていく。
 最初に感じた衝撃がもう沸いてこないことに気付いて、俺はもう一度患部に手を触れて驚愕した。

 破れた制服の奥で、傷口が塞がっていたのだ。かさぶたの感触も、みるみると皮膚に溶け込んでしまう。
 大量に出血した筈なのに、意識もはっきりしているのだ。
 これが、クラウから与えられた魔王の力なのだろうか。

「どうして生きているの?」

 彼女の声は少しだけメルと似ているような気がした。
 緋色の魔女は困惑の色を見せるが、俺への殺意をじわじわと再燃させるのが分かった。

 俺が地面に手をついて起き上がろうとすると、彼女が剣を振り上げる。

 俺はここから全力で逃げようと判断した。クラウの力で生かされた命なら、今度こそ美緒に会うまで死ぬわけにはいかない。
 立ち上がる寸前に振り下ろされた剣からギリギリで逃れ、俺は地面を横に転げた。そこから無我夢中に立ち上がって、逃走を試みる。しかし――。

 ドクン。

 聞こえる筈のない心臓の音が耳の奥に鳴って、俺は全身を震わせた。
 ドクンドクンと再び刻まれる音に、俺の身体が俺の意思から剥離されていく。

「ちょっと、まてよ……」

 俺は逃げ出したかった。
 ヤシムの忠告を、今度こそ守ろうと思って。

 それなのに何故? 
 俺は、腰の剣を抜いて彼女に向かって構えをとっていた。

 彼女と戦おうというのか?

「面白いわね」

 妖艶な表情を浮かべる緋色の魔女。
 勝算なんてゼロに決まっているのに、俺の身体は言うことを聞かない。

「全然面白くなんてねぇよ」

 俺は、どうして。この意思は――?
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