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4章 謎多き男たちと平凡な俺の、ふかーい関係。
37 今夜はお前を寝かさないぜ
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結局風呂では俺の期待したようなメルとの展開は殆どなく、チェリーのおっぱいに翻弄されるという複雑な後味を残しただけだった。
しかし、温泉効果も相まってか俺の傷はすっかり癒え、しくしくと残っていた痛みも感じなくなった。更に、メルの瞳もいつしかサファイアブルーに戻っていたのだ。
帰り道の話題は、もっぱら「俺がクラウに似ているか」ということだ。
最初にそう言いだしたのは、チェリーだ。
「何となくよ、何となく。貴方にはクラウ様の色気が微塵も感じられないし」
アゲるだけアゲといて、バッサリと切らないで欲しい。
「ユースケはカッコいいから、似てるように見えるのよ。クラウ様程じゃないけど」
メルにまでそんなことを言われると、涙が出そうだ。
クラウに似ていると言われただけで、何でこんなに責められなきゃならないんだろうか。
「せ、先生はどう思いますか?」
「ん? うーん、どうだろうな。クラウは大人だし、俺はお前の事もよく知ってるから、似てるとは思わないけどな」
ゼストだけがそう言ってくれた。
「けど――まぁ、そうだな」
顎に手を当て、ゼストは俺を観察するようにジロジロ見つめ、「よし」と唸る。
「近いうちに、一度ティオナに会ってみるか」
「ティオナ?」
その名前に驚いた声を上げたのはメルだ。
「お前の事で、ちょっと気になることがあるからな」
「ティオナ、って。俺どっかで聞いたことあるような?」
どこだったかなと考える間もないまま、チェリーがその答えをくれた。
「門番の彼女ね」
「あぁ、そうだ」
夕時の風に顔を晒し、ゼストが何故か重い溜息をつく。
「門の人なら、俺がこっちに来た時はちょうど休暇だってことで会えなかったんですけど、名前は聞きました」
彼女にしか開けられないという門は開け放たれたままで、その結果飛び出していったカーボに俺が向こうで襲われたのだ。
「私程じゃないけど、美人だったわね」
またそんなことを言うチェリーの横で、ゼストが何故か「そんなに美人じゃねぇだろ」とフォローを入れた。
「ゼスト、ユースケと門に行くの?」
「いや、中央廟に行く。俺は門に行けるけど、ユースケを許可なしで連れて行くわけには行かないからな。なぁメル、その時はユースケを少し借りていってもいいか?」
ゼストは背を低くして、メルと視線を合わせる。
フワフワの頭をそっと撫でると、メルも素直に「分かったわ」と同意した。
別に一緒に行けばいいのにと俺は思ったが、ティオナの所に行くという事は何か複雑な意味を含むらしい。
☆
ゴンドラから見渡す夕日に染まる風景を、俺は今度こそ心から「綺麗だな」と言うことが出来た。
チェリーの家に戻った所で、メルが帰ろうとするゼストを引き止める。
「ねぇゼスト、まだ少し調子が悪いみたいなの」
差し出された剣を受け取り、ゼストは刃を鞘から抜いた。上から下からと目を細めて確認し、
「そうか。じゃあ、今日はウチに来て泊るか? 癖も色々見てやるぜ。ユースケは範夫に預けとけばいいだろ」
と、思わぬ提案をしてくる。
「だから、その名前はやめてよ」
範夫は鋭い視線をゼストに突き付けて、俺の左腕をガシリと掴んだ。
「えっ? ちょっと、チェリーさん?」
「任せといて」
ちょっと男前なチェリー。
「今夜は寝かさないわよ」
「おいおい、ちゃんと休ませてやれよ?」
か、勝手に変な話をしないでくれ。
「でも……」
俺の前に来て、ぐいんと見上げたメルの困り顔が、「行って来てもいい?」と伺いを立てている。断る理由なんて、『チェリーと二人きりにしないで欲しい』しかないから、俺には彼女を止める事なんてできなかった。
「悪い、ユースケ。ウチは客用のベッドが一つしかなくてな」
床に転がって寝てもいいし、そっちの方が安眠できそうだが、
「分かりました」
俺は何て物分かりの良い男なんだ。
星が見え始めた異世界の空の下、不本意ながらも俺とチェリーの二人きりの夜がスタートしたのだ。
しかし、温泉効果も相まってか俺の傷はすっかり癒え、しくしくと残っていた痛みも感じなくなった。更に、メルの瞳もいつしかサファイアブルーに戻っていたのだ。
帰り道の話題は、もっぱら「俺がクラウに似ているか」ということだ。
最初にそう言いだしたのは、チェリーだ。
「何となくよ、何となく。貴方にはクラウ様の色気が微塵も感じられないし」
アゲるだけアゲといて、バッサリと切らないで欲しい。
「ユースケはカッコいいから、似てるように見えるのよ。クラウ様程じゃないけど」
メルにまでそんなことを言われると、涙が出そうだ。
クラウに似ていると言われただけで、何でこんなに責められなきゃならないんだろうか。
「せ、先生はどう思いますか?」
「ん? うーん、どうだろうな。クラウは大人だし、俺はお前の事もよく知ってるから、似てるとは思わないけどな」
ゼストだけがそう言ってくれた。
「けど――まぁ、そうだな」
顎に手を当て、ゼストは俺を観察するようにジロジロ見つめ、「よし」と唸る。
「近いうちに、一度ティオナに会ってみるか」
「ティオナ?」
その名前に驚いた声を上げたのはメルだ。
「お前の事で、ちょっと気になることがあるからな」
「ティオナ、って。俺どっかで聞いたことあるような?」
どこだったかなと考える間もないまま、チェリーがその答えをくれた。
「門番の彼女ね」
「あぁ、そうだ」
夕時の風に顔を晒し、ゼストが何故か重い溜息をつく。
「門の人なら、俺がこっちに来た時はちょうど休暇だってことで会えなかったんですけど、名前は聞きました」
彼女にしか開けられないという門は開け放たれたままで、その結果飛び出していったカーボに俺が向こうで襲われたのだ。
「私程じゃないけど、美人だったわね」
またそんなことを言うチェリーの横で、ゼストが何故か「そんなに美人じゃねぇだろ」とフォローを入れた。
「ゼスト、ユースケと門に行くの?」
「いや、中央廟に行く。俺は門に行けるけど、ユースケを許可なしで連れて行くわけには行かないからな。なぁメル、その時はユースケを少し借りていってもいいか?」
ゼストは背を低くして、メルと視線を合わせる。
フワフワの頭をそっと撫でると、メルも素直に「分かったわ」と同意した。
別に一緒に行けばいいのにと俺は思ったが、ティオナの所に行くという事は何か複雑な意味を含むらしい。
☆
ゴンドラから見渡す夕日に染まる風景を、俺は今度こそ心から「綺麗だな」と言うことが出来た。
チェリーの家に戻った所で、メルが帰ろうとするゼストを引き止める。
「ねぇゼスト、まだ少し調子が悪いみたいなの」
差し出された剣を受け取り、ゼストは刃を鞘から抜いた。上から下からと目を細めて確認し、
「そうか。じゃあ、今日はウチに来て泊るか? 癖も色々見てやるぜ。ユースケは範夫に預けとけばいいだろ」
と、思わぬ提案をしてくる。
「だから、その名前はやめてよ」
範夫は鋭い視線をゼストに突き付けて、俺の左腕をガシリと掴んだ。
「えっ? ちょっと、チェリーさん?」
「任せといて」
ちょっと男前なチェリー。
「今夜は寝かさないわよ」
「おいおい、ちゃんと休ませてやれよ?」
か、勝手に変な話をしないでくれ。
「でも……」
俺の前に来て、ぐいんと見上げたメルの困り顔が、「行って来てもいい?」と伺いを立てている。断る理由なんて、『チェリーと二人きりにしないで欲しい』しかないから、俺には彼女を止める事なんてできなかった。
「悪い、ユースケ。ウチは客用のベッドが一つしかなくてな」
床に転がって寝てもいいし、そっちの方が安眠できそうだが、
「分かりました」
俺は何て物分かりの良い男なんだ。
星が見え始めた異世界の空の下、不本意ながらも俺とチェリーの二人きりの夜がスタートしたのだ。
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