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5章 ちょっと変わった酒場での、彼との出会い。
42 彼が恋したその瞬間は?
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その瞬間を俺は見ていない。
おかっぱ男の悲鳴に俺とチェリーがカウンター越しに立ち上がると、そこには目を覆いたくなるような光景が広がっていた。
中央で威圧感たっぷりに仁王立ちするジーマの足元で、おかっぱ頭がぐったりとうつ伏せに倒れている。
奥ではマスターと酔っぱらいのオヤジが尻もちをついて、その様子に目を見開いていた。
何があった……?
「う、うわ、うわぁぁあああ!」
言葉にならない叫びをあげると、酔っ払いオヤジは酔いもさめた様子で開け放たれたままの扉からマスターを置いて逃げ出してしまった。
ジーマはおかっぱ男を見下ろしている。
僅かに背中が上下していて彼が生きていることは確認できるが、それは生きているというだけで状態はきっと良くない。
ジーマは片方の膝を胸まで引き寄せて、四ツ股に割れた足をおかっぱ頭の頭上へと構えた。
まさか、踏みつぶす気か――?
「やめ……」
「やめなさい!」
マスターが慌てて口にした言葉を、チェリーが被せてジーマを一喝する。
モンスターに言葉が通じるのかどうかは分からない。
けれど、ジーマは浮いた足をおかっぱの横へ下ろし、俺たちの方を振り向いたのだ。
「戦う……のか?」
店内は台風でも入り込んだかのように、割れた食器や食事が散乱している。
天井に提げられた電灯も、ゆらゆらと大きく揺れていた。
ここで、俺が?
ジーマは魔法を使う様子はない。その大きな体と羽で力ずくの攻撃をしてくる。
おかっぱ男がやられた今、武器を持っているのは俺しかいない。
メルと戦った時は、クラウに与えられた力が勝手に俺の身を守っていただけなのだ。
俺は、おかっぱのそいつみたいに勇敢じゃない。
逃げ出すことが出来るならそうしたいと思えるのに、そこにヤツが倒れている以上、見捨てる事なんてできなかった。
「俺がもっと非情な奴だったらって思っちまう……」
「ユースケ」
「や、やるしかねぇんだろ?」
俺は震え出した手に力を込めて、腰の剣を引き抜いた。
これじゃあ、さっきのおかっぱと同じだ。きっとおんなじ心境――けど、こいつはちゃんと戦ってくれた。
少し離れた位置で足を止めたジーマは、何か戦略でも練るかのように俺たちを見つめている。
まさか、どいつが美味そうかと品定めしてるんじゃないだろうな?
「ほんと、余裕な顔しやがって」
(行けよ、ユースケ)
ここで戦えるのが自分しかいないなら、そうするしかないだろう?
そしてなるべく早いゼストの登場を祈って。
戦い方なんて何も知らないが、俺じゃない意思がメルを倒そうとしたときの感覚は少しだけ残ってる。
剣を両手で握り締め、切っ先を振り上げようと腕を引いた時、
「待って」
チェリーに腕を掴まれて、俺は動きを制止させた。
「何……ですか?」
「いいから」とチェリーは、俺の手から剣を奪う。
「ちょっと、チェリーさん?」
「桜よ。いい? 貴方と私のどちらにも戦闘経験がないなら、今は私の方が冷静に戦えると思うの」
そう言ってチェリーは、首元のボタンを一つ外し、腕をまくり上げた。
彼のような美男子が剣を握ると勇ましく見えるが、俺は慌ててチェリーの手から剣を奪い返した。
一応この世界では、俺が男で、彼が女の役割だと思っている。
それに、一度は『守る』と約束した言葉を何もせずに破るわけにはいかなかった。
「ここは、俺が行きます。だからもし、やられることがあったら変わって下さい」
「大分いい男のセリフを言うのね。惚れるわよ?」
「今まで惚れてなかったんですか」
チェリーは少しだけ女の色で微笑んでマスターの側に行くと、彼女に合図して速攻おかっぱに駆け寄った。両足を二人で引っ張り、彼の身体を強引に隅へと寄せる。
ガラス片や残飯の錯乱する床を――いや、そんなことは言っていられないか。
戦場は整ってしまった。
「先生、早く――」
俺はもう一度そう祈って、剣を振り上げた。
おかっぱ男の悲鳴に俺とチェリーがカウンター越しに立ち上がると、そこには目を覆いたくなるような光景が広がっていた。
中央で威圧感たっぷりに仁王立ちするジーマの足元で、おかっぱ頭がぐったりとうつ伏せに倒れている。
奥ではマスターと酔っぱらいのオヤジが尻もちをついて、その様子に目を見開いていた。
何があった……?
「う、うわ、うわぁぁあああ!」
言葉にならない叫びをあげると、酔っ払いオヤジは酔いもさめた様子で開け放たれたままの扉からマスターを置いて逃げ出してしまった。
ジーマはおかっぱ男を見下ろしている。
僅かに背中が上下していて彼が生きていることは確認できるが、それは生きているというだけで状態はきっと良くない。
ジーマは片方の膝を胸まで引き寄せて、四ツ股に割れた足をおかっぱ頭の頭上へと構えた。
まさか、踏みつぶす気か――?
「やめ……」
「やめなさい!」
マスターが慌てて口にした言葉を、チェリーが被せてジーマを一喝する。
モンスターに言葉が通じるのかどうかは分からない。
けれど、ジーマは浮いた足をおかっぱの横へ下ろし、俺たちの方を振り向いたのだ。
「戦う……のか?」
店内は台風でも入り込んだかのように、割れた食器や食事が散乱している。
天井に提げられた電灯も、ゆらゆらと大きく揺れていた。
ここで、俺が?
ジーマは魔法を使う様子はない。その大きな体と羽で力ずくの攻撃をしてくる。
おかっぱ男がやられた今、武器を持っているのは俺しかいない。
メルと戦った時は、クラウに与えられた力が勝手に俺の身を守っていただけなのだ。
俺は、おかっぱのそいつみたいに勇敢じゃない。
逃げ出すことが出来るならそうしたいと思えるのに、そこにヤツが倒れている以上、見捨てる事なんてできなかった。
「俺がもっと非情な奴だったらって思っちまう……」
「ユースケ」
「や、やるしかねぇんだろ?」
俺は震え出した手に力を込めて、腰の剣を引き抜いた。
これじゃあ、さっきのおかっぱと同じだ。きっとおんなじ心境――けど、こいつはちゃんと戦ってくれた。
少し離れた位置で足を止めたジーマは、何か戦略でも練るかのように俺たちを見つめている。
まさか、どいつが美味そうかと品定めしてるんじゃないだろうな?
「ほんと、余裕な顔しやがって」
(行けよ、ユースケ)
ここで戦えるのが自分しかいないなら、そうするしかないだろう?
そしてなるべく早いゼストの登場を祈って。
戦い方なんて何も知らないが、俺じゃない意思がメルを倒そうとしたときの感覚は少しだけ残ってる。
剣を両手で握り締め、切っ先を振り上げようと腕を引いた時、
「待って」
チェリーに腕を掴まれて、俺は動きを制止させた。
「何……ですか?」
「いいから」とチェリーは、俺の手から剣を奪う。
「ちょっと、チェリーさん?」
「桜よ。いい? 貴方と私のどちらにも戦闘経験がないなら、今は私の方が冷静に戦えると思うの」
そう言ってチェリーは、首元のボタンを一つ外し、腕をまくり上げた。
彼のような美男子が剣を握ると勇ましく見えるが、俺は慌ててチェリーの手から剣を奪い返した。
一応この世界では、俺が男で、彼が女の役割だと思っている。
それに、一度は『守る』と約束した言葉を何もせずに破るわけにはいかなかった。
「ここは、俺が行きます。だからもし、やられることがあったら変わって下さい」
「大分いい男のセリフを言うのね。惚れるわよ?」
「今まで惚れてなかったんですか」
チェリーは少しだけ女の色で微笑んでマスターの側に行くと、彼女に合図して速攻おかっぱに駆け寄った。両足を二人で引っ張り、彼の身体を強引に隅へと寄せる。
ガラス片や残飯の錯乱する床を――いや、そんなことは言っていられないか。
戦場は整ってしまった。
「先生、早く――」
俺はもう一度そう祈って、剣を振り上げた。
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