貧乳世界の魔王が作った巨乳ハーレムに入ってしまった幼馴染を連れ戻すために、俺は異世界へ旅立つ!

栗栖蛍

文字の大きさ
42 / 171
5章 ちょっと変わった酒場での、彼との出会い。

42 彼が恋したその瞬間は?

しおりを挟む
 その瞬間を俺は見ていない。
 おかっぱ男の悲鳴に俺とチェリーがカウンター越しに立ち上がると、そこには目を覆いたくなるような光景が広がっていた。

 中央で威圧感たっぷりに仁王立ちするジーマの足元で、おかっぱ頭がぐったりとうつ伏せに倒れている。
 奥ではマスターと酔っぱらいのオヤジが尻もちをついて、その様子に目を見開いていた。

 何があった……?

「う、うわ、うわぁぁあああ!」

 言葉にならない叫びをあげると、酔っ払いオヤジは酔いもさめた様子で開け放たれたままの扉からマスターを置いて逃げ出してしまった。

 ジーマはおかっぱ男を見下ろしている。
 僅かに背中が上下していて彼が生きていることは確認できるが、それは生きているというだけで状態はきっと良くない。

 ジーマは片方の膝を胸まで引き寄せて、四ツ股に割れた足をおかっぱ頭の頭上へと構えた。
 まさか、踏みつぶす気か――?

「やめ……」
「やめなさい!」

 マスターが慌てて口にした言葉を、チェリーがかぶせてジーマを一喝いっかつする。
 モンスターに言葉が通じるのかどうかは分からない。
 けれど、ジーマは浮いた足をおかっぱの横へ下ろし、俺たちの方を振り向いたのだ。

「戦う……のか?」

 店内は台風でも入り込んだかのように、割れた食器や食事が散乱している。
 天井に提げられた電灯も、ゆらゆらと大きく揺れていた。

 ここで、俺が?

 ジーマは魔法を使う様子はない。その大きな体と羽で力ずくの攻撃をしてくる。
 おかっぱ男がやられた今、武器を持っているのは俺しかいない。
 メルと戦った時は、クラウに与えられた力が勝手に俺の身を守っていただけなのだ。

 俺は、おかっぱのそいつみたいに勇敢じゃない。
 逃げ出すことが出来るならそうしたいと思えるのに、そこにヤツが倒れている以上、見捨てる事なんてできなかった。

「俺がもっと非情な奴だったらって思っちまう……」
「ユースケ」
「や、やるしかねぇんだろ?」

 俺は震え出した手に力を込めて、腰の剣を引き抜いた。
 これじゃあ、さっきのおかっぱと同じだ。きっとおんなじ心境――けど、こいつはちゃんと戦ってくれた。

 少し離れた位置で足を止めたジーマは、何か戦略でも練るかのように俺たちを見つめている。
 まさか、どいつが美味そうかと品定めしてるんじゃないだろうな?

「ほんと、余裕な顔しやがって」

 (行けよ、ユースケ)

 ここで戦えるのが自分しかいないなら、そうするしかないだろう?
 そしてなるべく早いゼストの登場を祈って。

 戦い方なんて何も知らないが、俺じゃない意思がメルを倒そうとしたときの感覚は少しだけ残ってる。
 剣を両手で握り締め、切っ先を振り上げようと腕を引いた時、

「待って」

 チェリーに腕を掴まれて、俺は動きを制止させた。

「何……ですか?」

 「いいから」とチェリーは、俺の手から剣を奪う。

「ちょっと、チェリーさん?」
「桜よ。いい? 貴方と私のどちらにも戦闘経験がないなら、今は私の方が冷静に戦えると思うの」

 そう言ってチェリーは、首元のボタンを一つ外し、腕をまくり上げた。
 彼のような美男子が剣を握ると勇ましく見えるが、俺は慌ててチェリーの手から剣を奪い返した。
 一応この世界では、俺が男で、彼が女の役割だと思っている。
 それに、一度は『守る』と約束した言葉を何もせずに破るわけにはいかなかった。

「ここは、俺が行きます。だからもし、やられることがあったら変わって下さい」
「大分いい男のセリフを言うのね。惚れるわよ?」
「今まで惚れてなかったんですか」

 チェリーは少しだけ女の色で微笑んでマスターの側に行くと、彼女に合図して速攻おかっぱに駆け寄った。両足を二人で引っ張り、彼の身体を強引に隅へと寄せる。
 ガラス片や残飯の錯乱する床を――いや、そんなことは言っていられないか。

 戦場は整ってしまった。

「先生、早く――」

 俺はもう一度そう祈って、剣を振り上げた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...