貧乳世界の魔王が作った巨乳ハーレムに入ってしまった幼馴染を連れ戻すために、俺は異世界へ旅立つ!

栗栖蛍

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5章 ちょっと変わった酒場での、彼との出会い。

43 どうやら彼は時代劇が好きなようだ。

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「さぁ、掛かって来いよ」

 相手は剣で戦うわけじゃない。
 こっちから闇雲に剣を振るより、向こうからの攻撃に対してカウンターを取ればいいじゃないかというのが最初に浮かんだ俺の戦略だ。

 1.羽で殴られそうになったら、かがんで腹を切りつける。
 2.体当たりが来たら、軽く横にかわして後ろから刺す。

 脳内イメージだけは完璧なのに、現実とはまぁ無情なもので。予期せぬことが起きるのがリアルなのだ。

 ジーマのデカい両羽が壁のように左右へ大きく広がった。バッサバッサと音を立てて、羽が何度も前へ振られる。俺を抱え込んでそのまま絞め殺そうとでもいうのか。
 横にも下にも逃げられない挟み撃ちなんて、反則だ。

 恐怖に顔を反らして構えただけの剣はジーマの片羽をかすめるが、衝撃を受けたのは俺の方だった。
 ジーマは俺のなまくらじゃあ傷をつける事さえできないらしい。
 距離を詰めるように向かってきた体が、全体重をかけてドンと俺に衝突する。
 両足が地面を離れて、次の瞬間に俺はもう地面に叩き付けられていた。まさに、おかっぱ男と同じ状態だ。

 あまりにも一瞬で、受け身を取る暇も与えてはくれなかった。

「ユースケ!」

 チェリーの声。
 全身がきしんで、痛みの感覚も怪しい。けど、意識ははっきりとしている。
 押さえつけられたような額の重みに手を当てると、掌が赤く染まった。

「うあ……」
「変わるよ、ユースケ!」

 駆け寄って来るチェリーの声に、俺は「駄目だ」と手を上げた。

「もう少しなら、行けそうなので」

 勝てる気なんて全然ないのに、立ち上がろうと思ってしまう。
 クラウの力をあの山頂で使ってしまったことは、本当に失態だ。
 あの時は俺一人の事だったのに、今ここには俺以外に三人も無防備な人間が居るのだ。

「お前……」

 か細い声が耳に届いて、俺はそいつの方を一瞥してからゆっくりと身体を持ち上げた。

「生きてたんですね」
「僕のこと勝手に殺さないでくれる?」

 おかっぱ髪の男が目を覚まし、俺に続いて身体を起こした。傷だらけの顔でジーマを見据え、彼は強気に言い放った。

「大分痛いことしてくれるね、お前。けど、僕はこんなんじゃやられないよ?」
 
 復活した彼は大分強気だ。
 さっきジーマに顔を潰されるとこだったのは黙っておこう。
 乱れた髪をサッと整え、ガラス片と残飯で汚れた上着を脱ぎ捨てた彼は、爽快な顔でギラギラと宝石の付いた剣を両手で握り締めた。

「二人で行けば、勝てますか?」
「当たり前だ。僕は魔王親衛隊のゼストと戦ったことがある剣師だよ?」
「じゃ、期待しますよ」

 おかっぱは意気揚々と口角を上げ、ジーマに切りかかった。
 一打目を羽にかわされるも、そのまま次の二打目を相手の腹部に入れることが出来た。

 おかっぱ絶好調――だが。
 ジーマは「キイ」と鳴いて両羽を高く振り上げた。

 おかっぱ男は追撃を試みるが、羽に阻まれて弾かれてしまう。

「お前も来い!」

 彼が叫んで俺は特攻する気持ちで剣を構えた。
 切っ先をジーマへと伸ばし、力の全てを掛ければきっと。

 再び食らいかかるおかっぱ男に、ジーマの意識が向いているうちに。

「いけぇ!」

 囁くような気合を込めて。
 俺は真っすぐにジーマの脇腹へと剣を突き刺したのだ。
 肉に食い込む剣の感触にぞっとするが、「耐えろ」と自分に言い聞かせ、さらに奥へと刺し込んでいく。

 ギィイイ! と悲鳴を上げたのはジーマだ。
 しかしそれでも絶命する様子はない。ギャアと鳴いて力ずくで身体を捻り、俺の手を振りほどいた。

「うわぁ!」
 
 飛ばされた俺がチェリーの前へ転げる。

「大丈夫かい?」

 心配するマスターの声と、手を差し伸べようとするチェリーに背を向けて、俺は全身の悲鳴を殺して立ち上がった。
 ジーマは俺のなまくらを腹に刺したまま傷口に血をにじませて、おかっぱの剣をかわし続けている。
 ダメージを受けた筈の身体なのに、戦闘への支障はないのか。

 怒りでパワーが増幅しているようにさえ見えて、手ぶらの俺はどうすればと、足元に転がった肉用のナイフを取り上げて考えてしまう。けど、こんな小さい刃じゃ太刀打ちできない。
 放り投げたナイフがカツンと床を鳴らすと、すぐ後にジーマの攻撃がおかっぱの剣を弾き飛ばした。
 宝石だらけの趣味の悪い剣が、勢いよく天井近くの壁に垂直に突き刺さる。

「うぉおお」

 背よりはるか高い位置に固定された剣を取り戻す隙なんて、俺たちにはなかった。

 「もう終わりだ」と嘆いた声がバリバリと轟いた雷鳴に掻き消される。

 ドン--。

 目の前に突き落とされた黄色い光に焼かれるジーマ。
 これと似た状況を、俺は前にも目にしている。

「クラウ……?」

 そう予測した声を否定するように、入口から彼女の声が響き渡る。

「ジーマ、ユースケを傷つけたら私が許さないんだから! このメル様が相手よ! ……って、これでいいの? ゼスト」

 こっそりと確認する声に思わず吹き出してしまう。俺は二人の登場に安堵して、力が抜けてしまった。ヘロヘロとそこに座り込むと、先に振り返ったおかっぱが、二人の姿に「えっ」と驚愕の声を上げる。

「おう。完璧だぞ、メル。やっぱ主役は最後に美味しいとこ持って行かないとな」

 こんな夜にタキシード姿の彼は、まさか呼ばれてから着替えたのだろうか。
 彼の傍らで剣を抜くメルは、見覚えのあるカーボ印が入った真新しい水色のワンピースを着ていた。

 とりあえず「良かった」と俺は息を吐いたのだ。
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