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5章 ちょっと変わった酒場での、彼との出会い。

44 二人の気になる関係は?

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 「はぁあああ!」と気合を入れて突撃したメルの剣に、ゼストが稲妻を浴びせかける。
 
 ピカーン! とハレーションを起こした、ゲームで言う所の『雷剣かみなりけん』は、飛び上がったメルが示すままに、ジーマの心臓を一突きにしたのだ。

 全身に伝わる衝撃と光でジーマは白目を閉じ、ドンと派手な音をたてて店の真ん中にぶっ倒れる。一瞬にして絶命したヤツはもうピクリとも動かず、弾かれた床のガラス片がキラキラと舞い落ちた。

 俺たちではあんなに苦戦したのに、二人が来ただけで小さなカーボと大差ない戦闘時間で終わってしまったのだ。

「カッコいい!」

 緋色の魔女と戦った時に見た、炎の剣と同じだ。
 俺が興奮気味に呟くと、後ろでおかっぱ男が目も口も丸くしながら「凄い」と歓声を上げた。

「ジーマ一匹にどんだけ手こずってんだよ。魔王クラウザーは、前王メルーシュが仕掛けた百匹のジーマを相手に一人で戦ったっていうぜ?」
「ひゃくぅ? 魔王ってそんなに強いの? 流石魔王というか、緋色の魔女ひいろのまじょも酷なことするね」

 おかっぱは仰天してそんなことを言う。
 服屋のヤシムさんに『緋色の魔女』の名前は聞いていたが、直接前王メルーシュを指す言葉だとは知らなかった。
 チェリーは口をつぐんでいたが、当のメルは困り顔で押し黙っている。メルが前王メルーシュだという事は秘密だ。

「コイツはどうするんだ? 食うのか?」
「ジーマなんて食べたことないけど、美味しいのかい? 料理人は裏から逃げちまったし、私一人でどうにかなるかね」

 そういえば、厨房に居た男たちはジーマの出現であっという間に居なくなっていた。
 マスターは軽く握った拳を厚めの唇に当てて、少しだけ考えるそぶりを見せると「よし」と腕を組んだ。

「店もこんなにぐちゃぐちゃだし、料理してみようかね。こんだけの肉があったら大分稼げるだろ」
「俺もジーマは食べたことないけどな」
「微妙な味だったらスパイス多めに振っときゃいいよ。この店を襲ったジーマだ、ってね。うちの客には話題だけあれば十分」
「相変わらず男勝りだな、アイル」

 ゼストは彼女の名前を口にして口笛を鳴らした。

「そりゃあね。周りの男どもがあんなヤワなのばっかじゃ、私も強くなっちまうよ。もう、アンタたちの事を見習わせてやりたいね」

 マスターは、俺とおかっぱをさらりと見てから、チェリーをうっとりと見つめた。完璧に惚れてしまったようだが、いつもの彼を見たらどんな反応をするだろう。

「また来てくれる?」

 明らかにチェリー一人に向けた言葉に、彼は「そうだね」と答えた。

「けど、生憎大人の女には興味ないから、それは分かって」
「面白い事言うんだね」

 いや、ちょっとまて。
 それはどういうことだろうか。
 チェリーのいつもの態度から、男に興味あるのは何となくわかっていたけど。

 (それって、小さい女の子はいけるって事じゃないだろうな?)
 
 俺は慌ててメルを振り向いた。

「ユースケー!!」

 ジーマの血で濡れた剣をせっせと布で磨いていたメルと目が合った。彼女はパッと笑顔を見せ急いで剣をさやに収めると、青いワンピースを揺らしながら俺の胸に飛び込んできた。

「これ痛くない?」

 爪先を伸ばして、メルが俺の額に手を伸ばす。ジーマの戦闘で流血していたことなどすっかり忘れていた。

「あぁ、血も止まってるし、大丈夫だ」

 「良かったぁ」とぎゅうっと抱き締められて、俺は戦ったことすら忘れてしまいそうになる。

「メルはその服、新しく作って貰ったのか?」
「どうせ破くだろうって、ヤシムさんが同じのを作っていてくれてたみたい」

 山で緋色の魔女が現れるのは、ヤシムさんにはお見通しの事だったようだ。

「ユースケにも来て欲しいって言ってたから、明日一緒に行きましょうよ」
「わかった」

 何だろうとは思ったが、彼とは報告がてら話もしたいと思う。
 ふと視線を上げると、おかっぱがマスターと話しているゼストの事をじっと見つめていた。そういえば彼等は剣を交えたことのある間柄らしいが、ゼストは知人のようなそぶりも見せない。

 俺はメルの手をそっと抜けてフワフワの頭をポンと撫でると、おかっぱの後ろにそっと立って、

「ゼストとは剣を交えた仲なんですよね?」

 と聞いてみた。おかっぱは肩をビクリと震わせ、「あ、あぁ」と小声で返事する。

「まさか、君たちも知り合いだったとはね」
「ゼストは俺の先生なんです」
「彼は何か教えてるの? 剣……にしては君はまだ未熟のようだけど」
「ま、まぁ色々と」

 男女の身体の仕組みについて熱弁していた保健体育教師・平野が頭に浮かんで、俺は思わず苦笑する。
 「へぇ」と涼しい反応をするおかっぱに、俺はゼストを呼んだ。

「先生、ここにいる彼が先生の知り合いだって言ってますよ」
「ちょ、君っ! 勝手に言わないでくれる?」
「だって知り合いなんですよね?」

 観念したように唇を噛んで、おかっぱは前に出た。
 ゼストは「はぁ?」と眉間に皺を寄せて首を左右にひねるが、早々に「すまん」と謝罪した。

「ちょっと思い出せねぇな」
「僕はヒルド=アルグーン。兵学校の時、隣のクラスに居たんだけど」
「は?」

 それを聞いて、俺は思わず疑問符を口にしてしまった。
 数ある歴戦の中で戦った相手とかじゃなかったのか? しかも隣のクラスって――。

「あぁ、そういうことか。悪い、覚えてねぇな」

 頭をボリボリとかいて、ゼストはもう一度謝ったのだ。



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