貧乳世界の魔王が作った巨乳ハーレムに入ってしまった幼馴染を連れ戻すために、俺は異世界へ旅立つ!

栗栖蛍

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6章 悪夢のシンデレラプリンス

54 彼女との再会と少女との別れ

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 穏やかな朝だった。
 美緒との再会の傷はまだえていなかったが、すっかり元通りになったメルが、顔を合わせるなり俺にぎゅうっと抱き着いて来てくれたので七割方は回復することが出来た。

「私がユースケを守ってあげる」

 彼女は俺が美緒と会ったことを知ったらしい。
 俺が「ありがとう」と膝をついてフワフワの髪をでると、今度は両腕を伸ばしてやさしく抱きしめてくれた。

 少し寂しそうなサファイアの瞳を胸に抱いて、俺はホッとすると同時にこれからの異世界生活に不安を覚えた。
 今までずっと美緒に会う事ばかり考えていたのに、「帰って」と宣言されてしまった身で俺はどうすればいい?

「ちょっと、お二人さん。朝から僕の前でイチャつかないでくれる?」

 居たのかよ、ヒルド。

 ここはメルの家のリビング。
 朝食の準備が整ったテーブルには既にヒルドの姿があって、頬杖ほおづえをつきながら俺たちの抱擁ほうようを眺めていた。

「ご、ごめんなさい、ヒルド」
「別に謝らなくていいけど。あのさ、メルはメルーシュ様みたいだけど、僕にとってはメル隊の隊長なんだからね? もう部下に剣なんて向けないように!」
「う、うん」

 立ち上がって仁王立ちになるヒルドに、申し訳なさそうに肩をすくめるメル。何だか、どっちが隊長だか分からなくなってくる。
 ヒルドは昨日負傷したらしい左腕をバンバンと叩いてアピールするが、もう包帯は取れていた。メルの回復といい、キオリの実の薬効は恐ろしいほどだ。

 そして俺たちは朝食をとった。
 パンに木の実にフルーツ。更に昨日ゼストが大量に作り置きしたキオリ万能薬。俺はもちろん遠慮させてもらったが、再沸騰させたその臭いは、もう他の食事の味さえ狂わせるほどに強烈だ。
 なのに、食欲を削がれているのは俺だけという――恐るべし異世界。

 そして、くさいながらにも和やかな朝食が過ぎたところで、嵐がやって来た――。

 通りに面した窓から、高速回転する車輪とタッタッタというトードだろう足音がやたらと急いだ音を立てて迫って来る。
 「なんだ?」と立ち上がったヒルドが窓を覗いて、「んん?」と怪訝けげんな声を響かせた。

「どうしたの?」

 ぴょんと椅子を飛び降りたメルと顔を見合わせて、俺は大きくなるその音に不信感をつのらせながらヒルドの横に並んだ。
 城の方角から猛スピードでやって来た箱付きの豪華なトード車がキキイっと高い音を響かせて急停車したのは、まさかのこの家の前だったのだ。

「あら?」

 手綱を放り投げて降りて来るその人物に、最初に声を上げたのはメルだ。
 俺もすぐに気付くことが出来た。

 忘れもしない、オレンジ色のロングヘア。
 食い込んだVラインから伸びる、パンストに覆われた長い脚の持ち主は、俺が初めて会った異世界人だ。

「あれは親衛隊のマーテルじゃないか?」

 ヒルドが何故か髪を手ぐしで整えながら呟いた。
 そう、彼女はマーテルだ。
 『ハイレグ降臨!』俺は心の中でそっと歓声を上げる。しかし「何だ?」と特に興味なさげをよそおってメルと再び顔を見合わせた。

 ツンとした切れ長の目が窓越しに俺を捕らえて、急ぎ足でノックもなしに中へ突入してくる。

「マーテル、どうしたの?」

 出迎えたメルに、マーテルは俺を一瞥いちべつしてから彼女の目線までかがんだ。

「ごめんなさい。今はまだ詳しく言えないのよ」

 立ち上がった彼女は桜色の唇をぎゅっと結んで、突然俺の前に来てうやうやしく頭を下げたのだ。

「お久しぶりです、ユースケ」
「はぁ?」

 この人は、こんなキャラじゃなかった筈だ。
 公園で会った彼女は、『アンタは駄目だって言ってるでしょ?』と冷たく言い放つような、まさに女王様キャラだったのに。

「お迎えに来ました。一緒に城まで来ていただきます」
「俺?」
「はい」

 女王様キャラからのギャップに何だか可愛く見えてきてしまうのは置いておいて、俺はふと美緒のことが頭によぎった。

「誰が呼んでるんだ?」

 それが美緒であることを期待したが、彼女は意外な人物の名を口にした。

「クラウ様です」
「えっ、魔王?」

 素っ頓狂すっとんきょうな声を上げるヒルド。

「何で……」

 『城に来ることが出来たら会ってやる』みたいなことを言ってたヤツが、迎えまで来させるなんて何か裏があるとしか思えない。

「城なら、行った方がいいんじゃないの?」

 ヒルドがそっと俺の肩を叩いた。確かにそうかもしれないと俺は同意する。
 城に行けるチャンスが向こうからやって来たのだ。どんな理由があろうと、この機会を逃すわけにはいかない。

「分かった。行けば色々説明してくれるんだな?」
「もちろん」

 薄く笑んでうなずいたマーテルは玄関先に急いだが、ふと改まって立ち止まり、メルを振り返る。

「突然でごめんなさいね」
「マーテル、ユースケは帰って来るのよね?」

 メルは俺に駆け寄って、手をギュッと握り締めてくれた。
 小さくて温かい感触を名残惜しく感じるが、俺はその手を強く何度も握り返して、自分からそっと指をほどいた。

 困り顔をしたマーテルの代わりに、「帰って来るから」と約束する。
 その根拠はゼロだけれど。

「大丈夫、ユースケと僕は戦友だ。ちゃんと繋がってるからこれは別れなんかじゃないよ」

 繋がってるって表現は望ましくない。
 けれど、ヒルドの言葉はいつも何故か心強く感じられてしまう。

「あぁ、そういう事だ」

 言ってて自分で涙が出そうになった。
 俺はそれでも精一杯の笑顔を不安そうなメルに向けて、「行ってきます」と背を向けたのだ。

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