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6章 悪夢のシンデレラプリンス
55 耳を疑う、その真実は?
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クラウが俺を呼んでるだなんて、どういう風の吹き回しだろう。
「本当にアイツが俺に会いたいって言ってるのか?」
「そうよ」
手綱を取るマーテルの横で、俺は少しずつ大きくなる黒い城を睨みつけていた。
昨日と同じ道。美緒に会えると心躍らせていた時とは違い、ただただ緊張が高まるばかりだ。
「俺が城に行くのは、アイツにとって不都合だったんじゃないのか?」
「そうだったんだけど、事情が変わったの」
進行方向を見つめながら、マーテルは言葉を躊躇った。
まだ話してくれる気はないらしい。俺は「そうなんだ」と溜息をついて、トード車の後ろに付いた豪華絢爛な箱を振り向いた。
温泉に行った時のそれも豪華だとは思ったが、これは更に煌びやかな雰囲気を醸し出している。若干小さめの二人乗り。
前回も前に座った俺にはせっかくのチャンスだったが、とてもそんな所でのんびりと寛ぐ気にはなれなかった。
道行く人の視線を集める空のトード車。そりゃ、こんなの見たら王様とか偉い人間が乗っているように見えるだろう。他に適当なのはなかったんだろうか。
マーテルも「乗っていいのよ?」と勧めてくれたが、俺は丁重にお断りさせてもらった。
というのも、前は前で捨てがたい状況だったりするからだ。
マーテルの運転は、今まで乗せてもらった誰よりも荒い。
高級車とは思えないような小刻みの衝撃。石畳の凹凸がダイレクトに尻に伝わってきて、食後の胃がシェイカー状態だ。
けれど、ただでさえ狭いベンチシートに無理矢理二人で座っているせいで、椅子が大きく揺れるたびに横のマーテルと太股がぶつかった。ズボン越しに伝わるパンストの感触に、ソワソワと興奮が高まる。
「運命って不思議なものね」
そんな俺とは対照的に、マーテルが前方に視線を漂わせて独り言のように呟いた。
「運命?」
「私が向こうの世界で貴方に会ったのも、ミオに会ったのもただの偶然。何度思い返しても、そこまでの行動に何かの意思が加わった覚えはないのよ」
困惑の色を浮かべながら、マーテルは手綱を緩めた。
トードが勢いを失って歩く程の速度になる。丘の向こう側へのカーブは、昨日美緒に会うために俺がトード車から降りた場所だ。
丘に沿ってぐるりと道を進むと、正面に城が立ちはだかる。昨日の場所から城までは思った以上に近かったらしい。
「俺があの公園に居たのは偶然だと思う」
「そうよ。それなのに私は貴方たち二人に辿り着いてしまった」
美緒の存在が消えた事に気付いたあの日、俺は学校を早退して彼女の家に向かった。
けれど、美緒の家族すらそこに住んでいないことを知って、汗まみれになった身体を冷やそうと向かった公園で、俺はマーテルに出会ったんだ。
「何が言いたいんだ? マーテルさん……」
「貴方には悪い話じゃないと思うの。ただ、私が混乱していて」
ゆっくりと坂を上ったトード車は、城の入口から100メートル程手前でその動きを止めた。
門の前には兵士らしき姿が見えたが、こちらを警戒する様子はない。黒い城壁の周りには民家すらなく、トードのヒンという声と、どこからか聞こえる鳥のさえずりがシンとした風景に響いた。
「本当だったのね……」
力なく呟いたマーテルを振り向くと、パチリと合った目線が俺の首元に下りていく。
「本当、って。何が?」
「貴方、首の所にホクロがあるでしょう?」
自分では見えないが、彼女の視線は確かに俺のホクロの位置を見据えていた。これは生まれた時からずっとあるもので、小さい頃に事故で亡くなった俺の兄・速水瑛助と同じものだと親から聞いている。
「本当に一緒なのね」
何故そんなことを言っているのか分からないが、その謎はすぐに彼女の口から聞くことが出来た。
「同じ?」
「そう」
深く頷いたマーテルが淡々とその事実を口にする。
何故そんな話を俺はこんな場所で知ることになってしまったんだろう。
――『だって今の魔王は、この世界の人間じゃないもの。君たちの世界から来た人なんだよ?』
昨日ヒルドに聞いたばかりの話も、自分なんて関係ないと思っていた。
「貴方には、亡くなったお兄さんが居るでしょう?」
俺はこの異世界に来て、何度クラウに似ていると言われた?
アイツは見知らぬおばさんをも振り向かせるようなイケメンで、魔王の地位も何から何まで、俺には到底敵わない別次元の奴だと思っていた。
それなのに――。
「ユースケ、貴方はクラウ様の弟なのよ」
素直に嬉しいなんて思えなかったし、認めたくなかった。
彼女は何でそんなことを言うのだろうか。
そして、俺はラノベが好きだけど、この世界に来てあまり気にしていなかった言葉がある。
向こうの世界から来た俺たちが『転生者』と呼ばれる理由を――。
まさか俺は、向こうで死んでるんじゃないだろうな?
「本当にアイツが俺に会いたいって言ってるのか?」
「そうよ」
手綱を取るマーテルの横で、俺は少しずつ大きくなる黒い城を睨みつけていた。
昨日と同じ道。美緒に会えると心躍らせていた時とは違い、ただただ緊張が高まるばかりだ。
「俺が城に行くのは、アイツにとって不都合だったんじゃないのか?」
「そうだったんだけど、事情が変わったの」
進行方向を見つめながら、マーテルは言葉を躊躇った。
まだ話してくれる気はないらしい。俺は「そうなんだ」と溜息をついて、トード車の後ろに付いた豪華絢爛な箱を振り向いた。
温泉に行った時のそれも豪華だとは思ったが、これは更に煌びやかな雰囲気を醸し出している。若干小さめの二人乗り。
前回も前に座った俺にはせっかくのチャンスだったが、とてもそんな所でのんびりと寛ぐ気にはなれなかった。
道行く人の視線を集める空のトード車。そりゃ、こんなの見たら王様とか偉い人間が乗っているように見えるだろう。他に適当なのはなかったんだろうか。
マーテルも「乗っていいのよ?」と勧めてくれたが、俺は丁重にお断りさせてもらった。
というのも、前は前で捨てがたい状況だったりするからだ。
マーテルの運転は、今まで乗せてもらった誰よりも荒い。
高級車とは思えないような小刻みの衝撃。石畳の凹凸がダイレクトに尻に伝わってきて、食後の胃がシェイカー状態だ。
けれど、ただでさえ狭いベンチシートに無理矢理二人で座っているせいで、椅子が大きく揺れるたびに横のマーテルと太股がぶつかった。ズボン越しに伝わるパンストの感触に、ソワソワと興奮が高まる。
「運命って不思議なものね」
そんな俺とは対照的に、マーテルが前方に視線を漂わせて独り言のように呟いた。
「運命?」
「私が向こうの世界で貴方に会ったのも、ミオに会ったのもただの偶然。何度思い返しても、そこまでの行動に何かの意思が加わった覚えはないのよ」
困惑の色を浮かべながら、マーテルは手綱を緩めた。
トードが勢いを失って歩く程の速度になる。丘の向こう側へのカーブは、昨日美緒に会うために俺がトード車から降りた場所だ。
丘に沿ってぐるりと道を進むと、正面に城が立ちはだかる。昨日の場所から城までは思った以上に近かったらしい。
「俺があの公園に居たのは偶然だと思う」
「そうよ。それなのに私は貴方たち二人に辿り着いてしまった」
美緒の存在が消えた事に気付いたあの日、俺は学校を早退して彼女の家に向かった。
けれど、美緒の家族すらそこに住んでいないことを知って、汗まみれになった身体を冷やそうと向かった公園で、俺はマーテルに出会ったんだ。
「何が言いたいんだ? マーテルさん……」
「貴方には悪い話じゃないと思うの。ただ、私が混乱していて」
ゆっくりと坂を上ったトード車は、城の入口から100メートル程手前でその動きを止めた。
門の前には兵士らしき姿が見えたが、こちらを警戒する様子はない。黒い城壁の周りには民家すらなく、トードのヒンという声と、どこからか聞こえる鳥のさえずりがシンとした風景に響いた。
「本当だったのね……」
力なく呟いたマーテルを振り向くと、パチリと合った目線が俺の首元に下りていく。
「本当、って。何が?」
「貴方、首の所にホクロがあるでしょう?」
自分では見えないが、彼女の視線は確かに俺のホクロの位置を見据えていた。これは生まれた時からずっとあるもので、小さい頃に事故で亡くなった俺の兄・速水瑛助と同じものだと親から聞いている。
「本当に一緒なのね」
何故そんなことを言っているのか分からないが、その謎はすぐに彼女の口から聞くことが出来た。
「同じ?」
「そう」
深く頷いたマーテルが淡々とその事実を口にする。
何故そんな話を俺はこんな場所で知ることになってしまったんだろう。
――『だって今の魔王は、この世界の人間じゃないもの。君たちの世界から来た人なんだよ?』
昨日ヒルドに聞いたばかりの話も、自分なんて関係ないと思っていた。
「貴方には、亡くなったお兄さんが居るでしょう?」
俺はこの異世界に来て、何度クラウに似ていると言われた?
アイツは見知らぬおばさんをも振り向かせるようなイケメンで、魔王の地位も何から何まで、俺には到底敵わない別次元の奴だと思っていた。
それなのに――。
「ユースケ、貴方はクラウ様の弟なのよ」
素直に嬉しいなんて思えなかったし、認めたくなかった。
彼女は何でそんなことを言うのだろうか。
そして、俺はラノベが好きだけど、この世界に来てあまり気にしていなかった言葉がある。
向こうの世界から来た俺たちが『転生者』と呼ばれる理由を――。
まさか俺は、向こうで死んでるんじゃないだろうな?
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