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7章 俺の12年と、アイツの24年。
60 迷コンビの行動力
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両親のこと、家のこと、一番下の弟のこと。
怪しげにひん曲がったカーボの骨付き唐揚げにかぶりつきながら、俺は色々と掻い摘んで話していく。
「あの時見た写真の男の子は、僕だったんだね」
クラウは両手を胸の前で合わせて見せた。家の仏壇の前で拝んだ時のことを思い出したらしい。
「そうそう。あそこには爺ちゃんと婆ちゃんもいるから、瑛助が来てくれて嬉しかったんじゃねぇかな」
「そうか。けど、もう一人弟が居たのは驚いたな。全然覚えていなかったよ」
「アイツは生まれたばっかだったからな」
当時0歳だった弟を抱いて、母は背を丸めて泣いていたのだ。
クラウは俺のことは何となく思い出したようだが、この異世界に来た経緯は覚えていないらしい。
夕方ティオナに詳細を聞きに行くらしいが、彼女はそれを知っているのだろうか。
「じゃあ、美緒のことは?」
「ミオって、ユースケが連れ戻したいって言ってる彼女だよね?」
美緒の名前を出した途端、喜々とするクラウに、俺はイラッと沸いた感情を静かに胸へ留めた。
「アイツは生まれた時から隣に住んでる。お前も良く遊んでたらしいぜ」
「そうなの? へぇ」
どうやらこれも覚えてはいないようだ。
「ミオとは会えた? 今朝彼女と挨拶したし、奪還作戦はまだ達成できていないようだね」
「ゲームみたいに言うなよ。そしたらお前がラスボスだろ? それに、美緒とは会えたんだ。今朝って、アイツは元気だったのか?」
「別にいつもと変わりなかったけど。何かあったの?」
いつもと同じだったのか。
少しくらい思い悩む素振りを見せたとか、沈んでたとか、そういうのはないのか?
急にどっと疲れを感じる。俺はやっぱり、元の世界へ帰してもらった方がいいのかと思ってしまう。
俺が城に居るなんて知ったら修羅場が起きそうだけれど……アイツはそんなヤツじゃなかった筈だ。
もっと柔らかい気質で、俺がアホな下ネタを言っても笑ってくれたのに。
「昨日、美緒に会った。そしたら帰れって言われたんだけど、何でだと思う?」
「ミオが? そりゃあこっちにいる方が毎日楽しいからじゃない?」
認めたくはないけれど、そういう事なのかもしれない。
せめて魔王への愛でないことだけは祈らせて欲しい。
「僕は、僕の所に来てくれる女の子たちに、この世界での快適な暮らしを提供してるだけだよ。脅してる訳でも、変な入れ知恵してる訳でもないからね」
俺が勘繰る前に、否定されてしまった。
そうだよな、と俺は部屋をぐるりと見回した。こんなお城に部屋を与えられたら、帰りたくないのはごく当たり前の感情だと思える。
食事が済むと、クラウは仕事があるからと席を立った。
「後で片付けに来させるから、のんびりしてて。ティオナの所に行く時に、また迎えに来るよ」
「分かった。あ、あとさ」
扉に手を掛けたクラウを引き止めて、俺は椅子から立ち上がる。
コイツに言っておきたいことがあった。
「どうしたの?」
「俺のこと、こっちに連れてきてくれたことは感謝してる。それと、俺一度死んだから……お前のお陰で生き帰れた。ありがとな」
「どういたしまして」と微笑むクラウ。
「メルと一緒に居させたこと、怒ってる?」
「いや」
俺を殺したのは、メルでありメルじゃない。彼女といると色んなことがありすぎるけれど、それでも何故か嫌だとは思えない。
ヒルドが彼女に言ったように、メルは俺たちメル隊の隊長だ。
「メルで良かったよ」
「なら、良かった。今日の夕げはユースケの歓迎会をしようか」
「歓迎会?」
突然の提案に、俺はえっと眉をひそめた。
「そっちの世界から来た女の子たちを紹介するよ。みんなもう、凄いコたちばかりだからね」
その「凄い」という言葉に思わず期待して酒池肉林状態を妄想してしまうが、手放しで喜べる状況ではない。
「美緒も来るのか?」
「来るんじゃないかな?」
笑顔で答えて、クラウはそのまま部屋から出て行ってしまった。
☆
俺の歓迎会に美緒が現れるとは到底思えないが、そのシーンを想像しただけで胸がチクリと痛む。
昨日の今日で、「昨日はごめんなさい」と円満に解決できるとは思えない。
「まだ居たの?」と虐げられる方が、よほど現実的に思えて、俺は「はぁ」と息苦しさを逃れるように再びバルコニーへ向かった。
青空の下でクラウに声を掛けられた時とは一転して、暗い雲が西の空にどんよりと広がっている。
さっきいた庭師は既に居なくなっていて、シンとした庭にガサガサと葉の擦れる音が響いた。
風はない。誰かいる……のか?
この世界に来て幾度とこんな場面に遭遇している俺は、モンスターの登場だろうと予測してしまう。
けれど音の主を探して庭を見渡したところで、俺はすぐそこの草陰にまさかの人物を発見した。
ここは黒い壁に囲まれた、魔王の城じゃないのか?
「おい」
声を上げては不味いと思ったが、小さな音でそう呼び掛けずにはいられなかった。
必死に隠れようという姿勢は見ていてわかった。俺も庭に居たら気付かないのかもしれないが、二階からは丸見えだ。
先に気付いたおかっぱ頭が、屈めていた背を伸ばして、
「ユースケ!」
と満面の笑みで手を振って来た。なぜか奴は、大きくて角ばった風呂敷包みを斜めに背負っている。
そんなヒルドの傍らにはメルの姿もあった。ぴょんと跳ねながら両手を頭上に上げて俺へのアピールを飛ばしてくる。
どうして二人がここにいるんだ――?
そんな所に潜んでるってことは、堂々と正面から入ってきたわけじゃないんだろう?
そして、「あああっ!」と別の方向からの可愛らしい叫び声。
庭の花々にも負けない、食い込んだハイレグ姿を晒した、治癒師こと魔王親衛隊のリトだ。
この状況は、もしや不味いのでは?
「ふ、不法侵入者ですっ!」
そんな彼女の声が俺の耳に届いた。
怪しげにひん曲がったカーボの骨付き唐揚げにかぶりつきながら、俺は色々と掻い摘んで話していく。
「あの時見た写真の男の子は、僕だったんだね」
クラウは両手を胸の前で合わせて見せた。家の仏壇の前で拝んだ時のことを思い出したらしい。
「そうそう。あそこには爺ちゃんと婆ちゃんもいるから、瑛助が来てくれて嬉しかったんじゃねぇかな」
「そうか。けど、もう一人弟が居たのは驚いたな。全然覚えていなかったよ」
「アイツは生まれたばっかだったからな」
当時0歳だった弟を抱いて、母は背を丸めて泣いていたのだ。
クラウは俺のことは何となく思い出したようだが、この異世界に来た経緯は覚えていないらしい。
夕方ティオナに詳細を聞きに行くらしいが、彼女はそれを知っているのだろうか。
「じゃあ、美緒のことは?」
「ミオって、ユースケが連れ戻したいって言ってる彼女だよね?」
美緒の名前を出した途端、喜々とするクラウに、俺はイラッと沸いた感情を静かに胸へ留めた。
「アイツは生まれた時から隣に住んでる。お前も良く遊んでたらしいぜ」
「そうなの? へぇ」
どうやらこれも覚えてはいないようだ。
「ミオとは会えた? 今朝彼女と挨拶したし、奪還作戦はまだ達成できていないようだね」
「ゲームみたいに言うなよ。そしたらお前がラスボスだろ? それに、美緒とは会えたんだ。今朝って、アイツは元気だったのか?」
「別にいつもと変わりなかったけど。何かあったの?」
いつもと同じだったのか。
少しくらい思い悩む素振りを見せたとか、沈んでたとか、そういうのはないのか?
急にどっと疲れを感じる。俺はやっぱり、元の世界へ帰してもらった方がいいのかと思ってしまう。
俺が城に居るなんて知ったら修羅場が起きそうだけれど……アイツはそんなヤツじゃなかった筈だ。
もっと柔らかい気質で、俺がアホな下ネタを言っても笑ってくれたのに。
「昨日、美緒に会った。そしたら帰れって言われたんだけど、何でだと思う?」
「ミオが? そりゃあこっちにいる方が毎日楽しいからじゃない?」
認めたくはないけれど、そういう事なのかもしれない。
せめて魔王への愛でないことだけは祈らせて欲しい。
「僕は、僕の所に来てくれる女の子たちに、この世界での快適な暮らしを提供してるだけだよ。脅してる訳でも、変な入れ知恵してる訳でもないからね」
俺が勘繰る前に、否定されてしまった。
そうだよな、と俺は部屋をぐるりと見回した。こんなお城に部屋を与えられたら、帰りたくないのはごく当たり前の感情だと思える。
食事が済むと、クラウは仕事があるからと席を立った。
「後で片付けに来させるから、のんびりしてて。ティオナの所に行く時に、また迎えに来るよ」
「分かった。あ、あとさ」
扉に手を掛けたクラウを引き止めて、俺は椅子から立ち上がる。
コイツに言っておきたいことがあった。
「どうしたの?」
「俺のこと、こっちに連れてきてくれたことは感謝してる。それと、俺一度死んだから……お前のお陰で生き帰れた。ありがとな」
「どういたしまして」と微笑むクラウ。
「メルと一緒に居させたこと、怒ってる?」
「いや」
俺を殺したのは、メルでありメルじゃない。彼女といると色んなことがありすぎるけれど、それでも何故か嫌だとは思えない。
ヒルドが彼女に言ったように、メルは俺たちメル隊の隊長だ。
「メルで良かったよ」
「なら、良かった。今日の夕げはユースケの歓迎会をしようか」
「歓迎会?」
突然の提案に、俺はえっと眉をひそめた。
「そっちの世界から来た女の子たちを紹介するよ。みんなもう、凄いコたちばかりだからね」
その「凄い」という言葉に思わず期待して酒池肉林状態を妄想してしまうが、手放しで喜べる状況ではない。
「美緒も来るのか?」
「来るんじゃないかな?」
笑顔で答えて、クラウはそのまま部屋から出て行ってしまった。
☆
俺の歓迎会に美緒が現れるとは到底思えないが、そのシーンを想像しただけで胸がチクリと痛む。
昨日の今日で、「昨日はごめんなさい」と円満に解決できるとは思えない。
「まだ居たの?」と虐げられる方が、よほど現実的に思えて、俺は「はぁ」と息苦しさを逃れるように再びバルコニーへ向かった。
青空の下でクラウに声を掛けられた時とは一転して、暗い雲が西の空にどんよりと広がっている。
さっきいた庭師は既に居なくなっていて、シンとした庭にガサガサと葉の擦れる音が響いた。
風はない。誰かいる……のか?
この世界に来て幾度とこんな場面に遭遇している俺は、モンスターの登場だろうと予測してしまう。
けれど音の主を探して庭を見渡したところで、俺はすぐそこの草陰にまさかの人物を発見した。
ここは黒い壁に囲まれた、魔王の城じゃないのか?
「おい」
声を上げては不味いと思ったが、小さな音でそう呼び掛けずにはいられなかった。
必死に隠れようという姿勢は見ていてわかった。俺も庭に居たら気付かないのかもしれないが、二階からは丸見えだ。
先に気付いたおかっぱ頭が、屈めていた背を伸ばして、
「ユースケ!」
と満面の笑みで手を振って来た。なぜか奴は、大きくて角ばった風呂敷包みを斜めに背負っている。
そんなヒルドの傍らにはメルの姿もあった。ぴょんと跳ねながら両手を頭上に上げて俺へのアピールを飛ばしてくる。
どうして二人がここにいるんだ――?
そんな所に潜んでるってことは、堂々と正面から入ってきたわけじゃないんだろう?
そして、「あああっ!」と別の方向からの可愛らしい叫び声。
庭の花々にも負けない、食い込んだハイレグ姿を晒した、治癒師こと魔王親衛隊のリトだ。
この状況は、もしや不味いのでは?
「ふ、不法侵入者ですっ!」
そんな彼女の声が俺の耳に届いた。
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