貧乳世界の魔王が作った巨乳ハーレムに入ってしまった幼馴染を連れ戻すために、俺は異世界へ旅立つ!

栗栖蛍

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7章 俺の12年と、アイツの24年。

65 青髪の美少女

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 しとしとと降り出した雨を逃れて、俺たちは中央廟ちゅうおうびょうの前庭に駆け込んだ。
 広い軒下のきしたに四人で並び、バタバタと水を払う。

「ティオナ様に会うのは初めてよ。だから、少し緊張するわ」

 背中の白い建物を仰ぎ、メルが眉尻を下げた。

「なぁに、メルーシュの頃は会ってた相手だ。緊張することはねぇよ」

 ゼストは犬のように頭の水をブルブル飛ばすと、「あの人は大丈夫だ」と笑顔で加えた。
 メルはもふもふのツインテールを片方ずつ丁寧に整えながら、こくりとうなずく。

「興味本位で来てしまったけど、私が行ってもいいのかしら」
「気が進まないなら、ここで待ってても構わないからね?」

 気後れするメルを覗き込んで、クラウは「無理はしない事」と声を掛ける。

「ありがとう。けど、こんな機会なかなかないし、挨拶だけでもしておこうと思うの」
「うん、分かったよ」

 クラウは目を細めて、メルの頭を撫でた。
 そんな仲睦まじい二人を眺めながら、俺はマントの水滴を叩き落とすゼストを振り向く。

「ティオナ……様って、どんな人なんですか?」
「まぁ、一言で言うとババアだな」

 俺は彼女を見たことがないけれど、あまりにも率直過ぎた。本人が聞いたら気を悪くしそうだ。

「年相応なんだから、仕方ないよ」

 クラウのフォローも微妙だ。チェリーは美人だと言っていた気もするが、実際の所はどうなのだろうか。

「僕とゼストで謁見えっけんを承認してもらってくるから、中で待っててもらえる?」

 入口までの短い階段を上って、クラウを先頭に大きな扉を潜った。
 奥へ行ってしまったマント組と別れ、俺はメルと壁際に置かれた石造りの長椅子に腰を下ろす。

 シンとした広いエントランスは吹き抜けになっていて、足音や物音、息遣いでさえ一つ一つが響いては消えていく。
 空が透けるドーム型の屋根には色とりどりの花が描かれていて、俺とメルが「きれいだ」と歓声を上げていると、正面から「ちょっとすみません」と突然声を掛けられた。

 いつの間にそこに現れたのだろうか。
 見上げた天井から視線を下ろすと、目の前に綺麗な少女が立っていたのだ。
 「えっ」と思わず息を飲み込んで、俺は目を見開いた。

 この国に来て初めて見る、青色の長い髪に金色の瞳。
 もちろん貧乳だが、前割れの長いスカートの切れ目から覗く太股に、視線が磁石のように吸い付いてしまう。

「クラウ様と一緒にいらした方?」

 心地いい甘い声も、彼女のイメージにぴったりだ。まるでラノベに出て来る理想の二次元嫁を立体化させたような少女だ。クラウは巨乳が好きらしいが、こっちの世界の女子のレベルは高いなと改めて思ってしまう。

 俺は立ち上がって「はい」と答えた。

「クラウにここで待ってろって言われて」

 緊張のあまり声が上ずってしまった。メルが横で白けた視線を飛ばしてくるのが見えて、俺は細く息を吐き出して、こっそり自分の頬を一度だけ叩いた。

「クラウ様ならすぐ来ると思うわ。それより貴方、私のことどう思う?」
「へっ?」

 メルではなく、明らかに俺に聞いている。

「どう思う……とは?」

 唐突な質問の意味が分からずに聞き返すと、少女は両手を胸元にぎゅうっと握り締め、潤んだ目で俺を見上げた。

「貴方、異世界の人なんでしょう? あっちの人は胸の大きな人が良いっていうけど、私じゃダメかしら?」 

 もしかして、俺は誘われているのか――? 
 そっち方面の自信がなさ過ぎて、騙されてるとしか思えない。

「だ、ダメじゃないですよ。全然オッケーです。向こうはすごく大きい人もいるけど、薄い人もいっぱいいるし。小さい方が好きな男も多いんですよ?」

 こんな説明を必死にしている自分がアホみたいに思えて来る。
 動揺を抑えられない経験値のなさを呪う。彼女の魅力に惑わされてしまいそうで、俺は視線の先をパッと横に座るメルへ切り替えた。

「ちょっと」

 しかし、こっちはこっちでご立腹だ。小さくて可愛いメルのはずが、ジロリと睨み上げた顔が戦闘モードのメルーシュのようだ。
 俺はオロオロと二人を交互に見やった。
 ここで俺はどう振舞うのが正解なのだろう。

 青い髪の少女も俺の返答には不服のようで、晴れない表情を更に近付けてきた。顔に掛かる彼女の吐息に、頭がグラグラする。

「貴方はどっちがいいの?」
「ユースケから離れなさい!」

 流石のメルも声を上げて、俺の右手を両手で引っ張った。見た目以上の力強さで、俺は長椅子に尻もちをつく。
 「可愛いわね」と妖艶な笑みを浮かべる青い少女は、まだまだ余裕の表情で「ねぇ」と再び俺に問いかけてきた。

「俺は、どっちでも……いえ、どっちも好きです」
「そうなの?」

 俺は何て答えれば良かったんだろう。
 少女は喜んだ様子も見せず、ピンク色の唇をとがらせてねた顔をする。そんな彼女をメルはずっと上目遣いににらんだままだ。

「おい、終わったぞ」

 これぞ救いの神ともいえるゼストが、バタリと響いた扉の音と共に戻って来た。
 彼は青い髪の少女を視界に捕らえて「あぁ?」と苛立った声を上げる。

「あれぇ、こんなトコに居たんだ」

 後ろから来たクラウも、彼女に気付いたらしい。
 そんなマント組二人の反応に、青色の少女が俺に向かってくの字に曲げていた姿勢を正し、そっと眉をひそめた。

 こんな所に居る彼女が二人と知り合いなことには何の疑問も抱かない。
 けれど。彼らを振り返った少女に、ゼストがとんでもない言葉を言い放ったのだ。

「何やってんだ、ティオナ」
「ええ?」

 それはついさっき、ゼストが「ババア」とののしった相手の名前だ。
 こんなに可愛いのに。
 ひそかに沸いた浮気心を反省しつつ、俺はその事実にもう一度驚愕の悲鳴を上げた。
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