貧乳世界の魔王が作った巨乳ハーレムに入ってしまった幼馴染を連れ戻すために、俺は異世界へ旅立つ!

栗栖蛍

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8章 刻一刻と迫る危機

68 歓迎会という名の宴に走った戦慄

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 中央廟ちゅうおうびょうを出る直前になって、クラウが「ごめん、ちょっと待っててもらえるかな?」と思い詰めた表情をにじませながら『中枢ちゅうすう』へと一人で戻って行ってしまった。

 何か忘れたのだろうか。
 俺たち三人は雨上がりの庭へ出て彼を待った。
 びっしょりと濡れた地面に映る夕焼けの空の色に、沈んだ気分が少しだけ落ち着いて、俺はゼストを振り返る。
 クラウの過去について色々聞きたい事があった。けれどメルに遠慮してしまい、どうしても喉につかえた言葉を吐き出すことは出来なかった。

 五分程経っただろうか。さっきよりも更に苛立った顔でクラウが戻って来る。

「何かありましたか?」
「いや、ちょっとね」

 心配するゼストにもクラウはその話をしようとはしなかった。駆け寄ったメルの肩に手を置いて、「大丈夫だよ」と笑い掛ける。

「雨も上がったし、お腹も空いたね。みんなの所に行こうか」

   ☆
 しんみりと城まで戻る距離は、ただでさえ長いと思った行きの倍くらいに感じられた。
 こんな気持ちのまま自分の歓迎会だなんて全く気乗りしなかったが、辿り着いたその部屋の扉が開かれた瞬間、世界はガラリと一転する。
 陰鬱いんうつな気持ちを払拭ふっしょくする、華やかな空気が俺たちを一瞬で取り巻いたのだ。

「お帰りなさい! クラウ様、ユースケくん!」

 綺麗にハモった女子の声。
 真っ赤なクリスマスカラーのチャイナドレスを着た2人の見知らぬ女子が、目の前に駆け寄ってきて、俺は驚愕と嬉しさのあまり「わぁ」と歓声を上げてしまった。

 俺が考えた、ヤシムさん渾身のハーレム衣装。惜しみなく見せた生足にポワンと胸をたわませながら笑顔も弾ませる二人は、何と同じ顔をしていた。

「双子? お姉さんたちも日本から来たんですか?」

 「そうよ」とまた声がハモる。
 俺より少し年上な感じの二人は、緩いパーマのかかった茶色の髪をフワフワと揺らしながら、自己紹介をしてくれた。

「エムでぇす」
「エルでぇす」

 こういうのを、『フェロモンがムンムンしている』というのだろうか。
 大きめの瞳で食い入るように見つめられ、俺はそっぽを向くメルのフォローも出来ぬまま、緩む口元をきつく結ぶのに必死だ。

「エム、とエル……って、ML? アルファベットみたいですね」
「あっ、それ言っちゃダメだよ、ユースケ」

 すかさずクラウが注意してくるが、もう遅かった。
 彼女たちの顔にサッと影が差し、苛立ちを含んだ瞳が俺を見据えた。

「えっ……言っちゃ駄目……でした?」
「俺が最初、だいぶ怒らせたからな」
「デリカシーがないんだよ、ゼストは」

 クラウの指摘には同意する。けど、だったらもっと先に言って欲しかった。

「ご、ごめんなさい」

 俺がそう謝ると、エムとエルは「もう、怒らせないでね」とピンク色の唇を尖らせて、元の笑顔を見せてくれた。
 そして二人は並んで頭の上に手をかざし、背比べのジェスチャーをする。

「ちょっと背の高いのがエムで、低い方がエルよ」

 パッと見ただけではその差が良く分からない。
 名前と逆だなと思いながらも、また地雷を踏みそうな気がして「わかりました」とだけ答えておく。

「エムとエルは、マーテルが連れてきてくれたんだよ」

 クラウがそう言って、二人の頭を撫でた。
 彼女たちもクラウの両腕にギュウと自分たちの腕を絡める。意図せずとも胸を押し付ける形だ。これぞハーレムだなと俺はマーテルを称賛したくなった。

「ユースケくんって、クラウ様の弟なんでしょ?」
「そうそう、聞いたわよ。瓜二つって訳じゃないけど、似てるかも」

 きゃあきゃあと沸き立つ二人に、俺は気恥ずかしくなって「本当ですか?」と頭を掻いた。
 確かエルだった方が俺とクラウを見比べて、「髪型が違うからかな?」と違和感を解消すべく俺の額に手を伸ばした。

 前髪を細い指で右へ左へと分けるが、「うぅん」と唸るばかりで『似てる』の言葉は出てこない。
 こそばゆいし、乳がすぐそこにあるしで俺は目のやり場に困ってしまう。結局、納得がいかぬまま指を止め、「こんな感じ?」と尋ねたエルに、エムも黙ってしまった。

「…………」
「も、もういいです」

 沈黙が辛い。やっぱりクラウと同じ血が流れていることに過大な期待をしてはいけないという事らしい。

 クラウは長テーブルを囲む面々を見渡して、「みんな集まったね」と笑顔を飛ばしながら上座について俺を横に呼んだ。
 真っ赤なチャイナドレス姿の美少女たちに、親衛隊の三人。「お帰り」と側の席に着いたヒルドとメル。
 中央廟でのことは少しの間忘れて、これから和やかな宴が始まろうという時に、俺はただならぬ戦慄せんりつを感じたのだ。

 この和気あいあいとした空気の中、一際冷え切った視線が俺を串刺しにしようとしている。
 上座から一番離れた席にじっと座って、俺を睨みつけている彼女。

「美緒――」

 俺の予想通り、真っ赤なチャイナドレスが良く似合っている。
 けれど、まさかここに居るとは思わなかった。
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