貧乳世界の魔王が作った巨乳ハーレムに入ってしまった幼馴染を連れ戻すために、俺は異世界へ旅立つ!

栗栖蛍

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8章 刻一刻と迫る危機

79 俺は何故かそこに立っていた

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 ここは城の塀の外側。
 闇に城を浮き立たせる灯篭とうろうの灯が、ハイドと背後の白い奴らを不気味に照らし出す。

 背の高い白髪の老父は、そこに居るだけで並々ならぬ威圧感を漂わせていた。夕方会った時よりもそれを強く感じるのは、俺が彼を敵だと思っているからだ。

 この状況をくわだてたのが彼だというのか。
 もちろん、思い込みが良くないことだとは分かっている。彼は元老院の議長。この国にとって重要な、国家を静観せいかんする役目を持った人なのだと聞いている。
 だから、彼がこんなことをすることはないだろうと思うのに――後ろに居る奴等がそれを全否定してくる。

「ちょっと、やめてくれませんか?」

 毅然きぜんとした態度でハイドを見上げるヒルド。困惑するメルを前に、年上男子のスイッチが入ったらしい。コイツは身分差なんてあまり気にならないようだ。

「貴方が元老院の議長だってことは承知してます。けど、この状況で疑われても仕方ありませんよ?」
「絵描きに用はない」

 ハイドは軽く笑みさえ含ませて、長く垂れた髭を片手で揉んだ。
 そして何故かヒルドのスイッチがあらぬ方向へ切り替わってしまう。

「えっ。僕の事知ってるんですか?」

 目をキラキラと輝かせ、嬉しさをにじませるヒルドは、「僕のこと絵描きだって」と俺に向いて声を弾ませた。
 ハイドは肩越しに背後の奴等を一瞥いちべつする。

「コイツ等は儂の言う事しか聞かん。今は大人しくさせている」

 それじゃあ言い方を変えれば、庭に放たれたセルティオたちは、ハイドの『言う事』を聞いている事になるんじゃないだろうか。

「じゃあ、貴方が行けと言ったら?」
「そう言ったら、そうなりますな」

 ハイドは穏やかな顔で、平然と答えた。
 俺は前に出てメルを背中へ庇い、ハイドを睨んだ。年寄りは敬うものだと思っているが、身分差だって異世界の俺には関係ないし、彼が首謀者の一人だという事は明確だ。
 メルとすれ違った時に彼が見せた禍々まがまがしい表情が全てを物語っているんだと俺は確信する。

「メルが狙いなのか?」
「ユースケ様まで。何を思ってそんなことをおっしゃっているんですか?」

 とぼけているのだろうか。

「アンタがこの騒ぎを起こしたんだろう?」

 漂う威圧感を打ち破るようにはっきりと言い放った俺の手を、メルが慌ててぎゅうと握る。

「ちょっと待って。ハイドが悪いなんて、そんなことあるわけないじゃない」

 メルは俺の隣に並んでハイドをじっと見つめるが、彼は何も言わなかった。
 不安気なメルにヒルドは苦笑して、おかっぱ髪をぐしゃりとかき上げる。

「けど隊長、メル。ハイドの後ろをよく見て。僕たちはさっき、アイツに襲われたんだよ? そこの二匹がどうしてそこにいるのか考えてみようよ」

 そう言ってヒルドは、誰よりも先に剣を抜いた。さっきの戦闘で服も泥まみれの彼は大分好戦的で、もはや絵師には見えない。
 白い大きなセルティオは、ただそこにじっとしている。感情のない赤い瞳は、何処を見ているのかさえ分からない。非戦闘状態の身体は、まるで置物のようだった。

「そっちから仕掛けてくるというのか?」
「どっちが先とか関係ないよ。貴方はそうするつもりなんでしょう? だから先に守りに入るフリをしてるだけだよ」
「面白い男だな。しかし、お主に用はない」

 ヒルドの闘志をあっさりと切り捨て、ハイドは俺とメルに身体を向けた。
 俺はつかまれた小さな手を自分のてのひらで包み直し、彼女より一歩前へ出た。

「やっぱりメルが狙いなのか?」
「そんな単純な話ではないんです。大体、貴方はこの世界に来るべきではなかった」

 その「貴方」がメルではなく俺を指している。

「えっ……?」
「ハイド? 何しようとしているの?」

 メルはまだ状況を受け入れきれずにいるようだ。

「少し話をしましょうか」

 穏やかな笑みに、ほんの少し闇が差す。

「行け」

 低く響いたハイドの声に、セルティオの赤い瞳か揺らぐ。一瞬で戦闘モードに入る巨体が「ガオォオン」と雄叫おたけびを上げた。

「やめて!」

 メルが俺の手を離れて、即座に背中の剣を抜いた。
 慌てて戦闘状態に入るメルとヒルド。俺も続いて腰の剣に手を掛けると、耳元でそっと囁かれた声に、全身が硬直してしまう。

「行きましょうか」

 一体のセルティオ相手にあんなに苦労した俺たちが、二体を相手にすること自体無謀だ。それなのに、視界から消えたハイドの姿が俺の背後に影を差したのだ。

「ちょっと……」

 何かを考える余裕もなく視界が暗転する。
 戦闘の音が止み、周囲が闇に包まれた。
 意識ははっきりしている。ドライアイスを置いたような白煙が足元に絡みつくこの場所がどこなのかはすぐに分かった。

「メル、ヒルド……」

 俺だけがここに来たというのか。
 記憶に新しい、金属の高い門がすぐそこに立ちはだかる。
 背後にその気配を感じて、俺は「何で?」と呟いた。

 耳が痛くなるほどの静寂に、深い溜息ためいきが響く。
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