貧乳世界の魔王が作った巨乳ハーレムに入ってしまった幼馴染を連れ戻すために、俺は異世界へ旅立つ!

栗栖蛍

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8章 刻一刻と迫る危機

84 中央廟の底にあるもの

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 中央廟ちゅうおうびょうの正面から中へ入り込む。
 急いで閉めた扉に背を預け、俺は息を整えた。

「リトさんはどこにいるかな」

 ヒルドが廊下を見回すと、奥の管理室に行っていたメルが小走りに戻ってくる。

「リトは他の女の子たちと一緒に、地下に居るらしいわ」
「分かった。じゃあ、行ってくるね」

 メルに階段の方角を指で示されて、ヒルドはチェリーを抱えたまま一人で行ってしまった。

「なぁメル、俺も行っていいか?」
「ミオのことが心配なのよね? けど、ごめんなさい。地下への許可が下りたのはヒルドとチェリーだけなのよ。チェリーは他の女の子たちと同じだから」

 魔王ハーレムの異世界人というくくりに、俺は混ざることができなかったらしい。ハーレムに入りたくはないけれど、どうにかしてその場所へ行きたいと思ってしまう。

「俺じゃダメなのか?」

 ――「美緒様が苦しむ姿を見たくはないでしょう?」

 ハイドの言葉が気になって仕方なかった。
 戦闘中は緊張で考える余裕もなかったが、中央廟に入って安堵したとたん、俺の心配は全部美緒に向いてしまった。

「落ち着いて、ユースケ。騒ぐと追い出されてしまうわ」

 「ちょっと待ってて」と言いおいて、メルは再び管理室へ行き、数分と経たぬ間に帰ってきた。

「ミオはみんなと地下に居るそうよ。カナもみんな無事ですって」
「本当か? やった。ありがとな、メル」

 溶けるように息を吐いて、俺は両手でガッツポーズする。

「ここで騒ぎが落ち着くのを待ちましょう」

 エントランスには俺たち以外に10人ほどが避難していた。皆、戦師ではなく城の使用人たちだ。
 城の地下にも幾分か避難スペースがあり、ここに来ているのは一部だとメルが説明してくれた。異世界の女子たちが危険を冒してまでこっちに来たことを考えると、向こうの安全性はここと比べて弱いのかもしれない。

 落ち着いて待っている気にはなれなかったが、俺はひとまず廊下の隅にある水場で両手を流した。コーラがずっとベタベタしていたからだ。
 窓の外を警戒するメルの所に戻って、俺も暗闇を覗き込んだ。

 外では、さっきコーラを噴きつけてやったセルティオがうろうろとしていた。
 何度か扉に体当たりを試みたようだが、超えることはできずにいる。
 ここは大丈夫だと思うけれど、ギシリギシリときしむ音が皆の不安をあおっていた。

 当初メルを城の外へ避難させる予定だったのに、中央廟に戻ってしまった。だから、メルを最優先で守らなければならないのは分かるけれど。

「俺はやっぱり、美緒の所に行きたい。自分の目で確かめたいんだ」
「ユースケ!」

 じっとなんてしていられなかった。メルの制止を振り切って、俺は廊下の奥へと走る。
 地下への階段の入り口には二人の兵士が立っていた。
 メルもすぐに追いついて、俺の袖口を掴む。

「ユースケ、落ち着きなさい」

 ガタイのいい男兵士たちが俺たちを眺め、そっと耳打ちを交わす。あからさまに不審者を見る目だ。

「俺を中に入れてください」
 
 無理を承知で頭を下げると、メルが「もぉ」とため息をこぼして二人の前に出た。

「許可は取っていないけれど、入れて下さい。彼はクラウ様の弟で、異世界から来たのよ」
「そうは言っても……」

 二人が再びボソボソと言葉を交わしたところで、一人が「あれ」とメルの顔に見入った。
 すぐにその状況を悟ったもう一人の兵士が、ごくりと息をのむ。

「メルーシュ様……ですか?」

 メルの赤い瞳に二人は怯んで、厳しい表情を浮かべた。俺とメルに何度も目をやると、やがて二人はもう一度顔を見合わせ、何か含んだような表情で頷いた。

「どうぞ」

 そして道が開かれる。
 急いで下りねばと思っていた階段に、俺はなぜかその瞬間不安を感じた。
 けれどそれは気のせいだと自分に言い聞かせて、彼等に礼を伝える。

「ありがとうございます」

 兵士たちはそれ以上何も言わず、黙って俺たちを通してくれた。
 引き返す選択はしない。メルを先頭に、片手で壁を抑えながら細い階段を下りていく。

「女の子たちは中枢にいるのか?」
「多分もっと奥のはずよ」

 メルは速度を弱めて振り返り、人差し指をくるりと回して見せる。

「中央廟の構造は複雑なの。さっき行ったティオナ様の居る『中枢』、そこから下へ二階層。恐らく中枢のすぐ下に女の子たちが避難しているはずよ」
「そうか。じゃあ、その下には何があるんだ?」
「一番奥は、特別な人しか入れない場所なの」
「特別?」
「そう。最下層は、聖剣の眠る場所。『せいのゆりかご』と呼ばれているわ」

 一気にファンタジーっぽくなったと思ったところで、階段が途切れた。
 そこはさっき来た『中枢』と呼ばれる場所だ。

「待ってたわ」

 部屋の中央で、そんな言葉で俺たちを迎えるティオナ。
 待ってもらった覚えはないが、青髪の『見た目だけ少女』の彼女は、

「怖い顔なんてしないで」

 と愛想のいい笑みを浮かべる。
 俺は言われるままに笑顔を作って、「お願いします」と頭を下げた。

「美緒のところに行かせて下さい」
「それは無理だよ」

 うっすらと笑んで否定するティオナ。
 俺の不安はこのセリフを案じていたのだろうか。
 けれど、俺の突っ込んだ闇はもっともっと深いものだった。
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