貧乳世界の魔王が作った巨乳ハーレムに入ってしまった幼馴染を連れ戻すために、俺は異世界へ旅立つ!

栗栖蛍

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11章 俺はその時、彼女にもう一度さよならを言いたくなった

108 彼女たちの起こした奇跡

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 つまり、セルティオと戦って大怪我をしたチェリーが、リトの懸命けんめい治癒ちゆのお陰で元通りの身体に戻った――ということらしい。

 歓迎会の時も彼は男に見えたが、今日は本当に男だった。
 反射的に伸ばした俺の手が記憶をたどってチェリーの胸を掴もうとするが、指先が空しくシャツの胸をかいた。

「もしかして、あの大きな胸は作りものだったの?」

 「そうね」と苦笑するチェリーの平らな胸を、ヒルドが食い入るように覗き込んだ。

「どういうことですか?」
「マーテルのする『修復』ってのは建物とか人工物を直す力なんだけど、リトさんみたいな『治癒』の力は、生命体を元通りにするんだよ。寿命が延びたり、死んだ人を生き返らせたりすることはできないんだけどね」

 ヒルドはそう説明すると、「分かる?」と首を傾げた。

「チェリーの身体が本来の姿に戻った、ってことなんだな?」
「そういうことらしいわ」

 重いため息をつくチェリー。
 確かにセルティオと戦って怪我したのは、胸に近い位置だった。

「髪は絡んだりして邪魔だったから、エムに切って貰ったのよ」

 「任せて」とチェリーの左隣に居た姉妹の片方が、右手でちょきちょきとハサミの真似をする。俺にはやっぱり二人の区別がつかなかったが、どうやらこっちが「エム」らしい。

 そういう魔法の仕様なら、胸の辺りはマーテルに戻してもらえば良かったのではと思ったが、俺の頭の中が今度は擬人化したおっぱいを妄想しだして、急に恥ずかしくなってしまった。
 「佑くん?」と不思議がる美緒には「何でもない」としらを切る。

「け、けど。何でチェリーがハーレム作ってんですか」

 赤いミニ丈のチャイナドレスを着るエムエル姉妹。そんな二人に男が挟まれていたら、誰だってそう思ってしまうだろう。
 「そういうのじゃないわよ」とチェリーは笑うが、「だって、かっこいいんだもの」と姉妹は楽しそうに彼の両腕にしがみついた。

「けど、どうするんですか? その身体……」
「別に、向こうに戻ったらまた考えればいいわ。生きてたんだし、胸なんて自己満足なんだから、大きくたって小さくたって私らしくいられれば問題ないのよ」

 姿は男に戻ったが、声色や仕草は夜の蝶のままだ。
 チェリーは「でしょう?」と何故か俺にウインクと投げキッスを飛ばしてきた。そんな所は確かにチェリーのままだけれど、少しだけ彼が変わった気がするのは外見の変化のせいだけではないのかもしれない。

 辺りがざわついて、中央廟ちゅうおうびょうの方へと皆の視線が集まる。
 城の前には既に大勢の観客が集まっていた。2クラス分くらいだから、100人前後だろうと思う。
 いよいよ再生の儀が始まるらしく、主役の登場に歓声が上がった。

 一列にやってくる彼女たちに道が開く。
 先頭はマーテル。その後ろにクラウがいて、他に老若男女の8人が続いた。
 前の二人はいつも通りの黒マント。後ろは赤いマントをつけている。彼らが集められた『修復師』なのだろう。

 「クラウ様ぁ!」と声を掛けるエムエル姉妹は、振り返された手にきゃあきゃあと舞い上がって、クラウが良く見える位置へと行ってしまった。残されたチェリーは俺の横で腕組みをしながら儀式の様子を見守っていた。

 黒マントの二人を中心に城の前に横並びになって、彼らは特に始まりの合図もないままに儀式を始めていく。
 庭の片隅にゼストやリトの姿はあったが、まったりと談笑しながら彼等を見物していた。

 魔法の詠唱かどうかは分からないが、修復師たちが各々に言葉を唱えている。音ははっきりと聞こえるものの、俺には何を言っているのかさっぱり分からなかった。
 これがきっと対象物の「声を聞く」という状況なのだろうが、やはり擬人化した城は出てこなかった。

 儀式が始まって数分経っても特に変化は見えなかった。辺りをきょろきょろと伺うと、ゼストの側にハイドの姿を見つけて、俺は思わず委縮してしまう。
 大分距離もあるし目が合ったわけでもないのに、ただその存在を視界に入れただけでベタベタの汗が額を伝って流れ落ちてきて、俺は制服の上着を脱いで腕にぶら下げた。

「向こうに行ったんだって?」

 ふと、チェリーが俺を見下ろして、そんなことを言ってきた。

「京也さんに、会ってきましたよ」

 それは予想外だったらしく、チェリーはぽかんと目を丸くする。

「俺の弟に会ったんですけど、奏多かなたちゃんと知り合いで、偶然店に行くことになって」
「そうなんだ。京也より私のほうがイケメンだったでしょ?」
「ま、まぁ。りんちゃんにも会いましたよ」
「へぇ。元気だった?」

 その名前を出しただけで、チェリーが嬉しそうに目を細める。

「喫茶店のカウンターで、宿題してました」
「変わらないのね。私が居る時もそうだったわ。凜はね、私と父親が一緒なのよ」

 何だか複雑な事情があるようだが、俺は深く詮索せんさくする気もなく「そうなんですか」と相槌あいづちを打った。それよりも暗がりで項垂うなだれた京也の表情が頭から離れず、俺は躊躇ためらいながらそのことを伝えた。

「京也さんが、チェリーの保管者でした」
「――そう」

 一瞬をおいて、チェリーがうなずく。

「それで、道端で凛ちゃんを見かけて声を掛けたって言ってました。奏多ちゃんが、犯罪だって言ってましたよ」
「あっはは。けど、アイツなら大丈夫ね。で、どう? アイツなんか言ってた?」
「俺たちの事情は話さなかったんですけど、京也さんが夜に一人で沈み込んでいるのを見ちゃって」
「へぇ。アイツでもそんなことあるんだ」

 遠い目を城に向けて、チェリーは向こうの世界を懐かしんでいるようだった。

「俺は、今回のことが終わったら、美緒と向こうに戻ろうと思ってます。チェリーはどうするんですか?」
「私? そうね……どうしようかしら」

 漂わせた視線を俺に落としてチェリーが吐き出した溜息の音に、「うわぁ」という誰かの歓声が重なった。
 マーテルさんが両手を振り上げ、修復師たちがそれに習う。
 「凄いわ、凄いわ」とメルやちさが両手をつかみあって興奮しだした。

 それは、光のイリュージョンを見ているようだった。
 修復師たちの手から伸びた白い光が、城を飲み込んでいく。
 そして――。





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