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11章 俺はその時、彼女にもう一度さよならを言いたくなった
109 俺はその時、彼女にもう一度さよならを言いたくなった。
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10人の修復師が放った白い光が一つの塊になって城へと降り注ぐ様子を、俺は固唾を飲んで見守っていた。
強い光に視界が一瞬霞んだかと思って何度も何度も瞬きを繰り返すが、どうやら俺の目にしているものの殆どが、今目の前で起きている現実らしい。
建物の輪郭がぼやけて、背景の色に混ざり合っていく。
そこから濃い色が主張するように湧き出て、再び城の形を形成していった。
城から離れていたと思ったが、城の壁は修復師たちの目の前までに迫っていた。
復活した建物のフォルムは俺の記憶と大して差はないが、どうやら漆黒の城は、その色を望んではいなかったらしい。
『暗黒魔王の城』とでも呼べそうな真っ黒だった外観が、「真っ白になるかも」というヒルドの予想も裏切って、たくさんの白を混ぜたグレーになってしまった。
城というよりは、向こうの世界でよく見る、コンクリートを打ち付けただけの建築物に近い。
全てが終わって、マーテルがゆっくりと両手を下ろした。
シンと静まり返った空気に「ブラボー!」と、やたらうまい発音で称賛の声を響かせたのはチェリーだ。
バラバラッと鳴った拍手が大きな喝采へと変わり、皆が修復師たちを称えた。
横並びになった彼等が観客に身体を向け大きく一礼すると、再び拍手が大きくなる。
儀式の終了を示すアナウンスはなかった。
崩れた城を一瞬で直すという偉業を遂げた後だというのに、修復師たちは尊大に構えることもなく、厳かな空気を漂わせながらマーテルを先頭に中央廟へと戻っていく。
「クラウ様」「マーテル様」「魔王様」
割れんばかりの拍手に乗せて、俺もその興奮を口にした。
「クラウ様ぁ!」と両手を振るメルやちさに気付たクラウが、ついでに俺にも小さく手を振ってきた。
「本当に俺の兄貴かよ」
今更ながらにそんなことを思ってしまう。
クラウにかけられた称賛が、まるで自分の事のように嬉しくなって、「やったわね」と俺の背を叩いたチェリーに「はい」と大きく返事を返した。
けれど、喜んでばかりいられなかった。
城が元通りになって落ち着いた空気が流れるのも束の間、修復師たちが消えた広場にはほんの少しの不穏な空気が流れた。
『クラウ様は聖剣を抜けるのか――』
そこに居るのは一般人ではなく、城に従事する者たちなのだ。
そんな身内から口々に漏れるのは、『不安』だった。
今回の事件は、クラウが聖剣を抜けないことを危惧したハイドが起こしたものだという。誰もがそのことに気付いているはずなのに、彼に詰め寄ろうとする人は誰もいなかった。
「素直に喜べないのかしらね」
チェリーがぼやくが、メルは何も言わなかった。
俺はとりあえずクラウの所へ行こうと思う。
それを切り出そうとした時に、向こうからエムエル姉妹がやってきて、美緒たち女子に声を掛けたのだ。
「儀式が終わったから、戻りましょ」
「はぁい」と返事する、ちさと美緒。メルもちさの手を取って「私も」と行ってしまった。
「じゃあ、佑くん。私もみんなの所に行くね」
「みんなと居る方が安心だな」
ちさたちを追いかける美緒に、「また後でな」と声を掛ける。
どうやらみんなで城の方へ行くらしい。
「はぁい」と振り向いた彼女の背中はどんどん小さくなっていく。
「美緒!」
その時俺は、彼女にもう一度さよならを言いたくなった。
ヒルドの絵を片手に抱えたまま、見送ったばかりの彼女を追いかけて、細い腕を握りしめる。
「えっ……佑くん?」
どうしたの、と不思議がって足を止める美緒。
けれど俺は、「またな」と声を掛けることしかできなかった。それ以上の言葉が浮かばず、触れた手を解くと、美緒は「またね」と小さく微笑む。
再び歩き出すその小さな背に、俺はあの日の別れを重ねてしまった。
よく晴れた昼下がり。
日差しに光るサラサラの黒髪が、歩に合わせてたなびく。その姿が、何故だろう苦しく感じて。
駆け出して抱き締めたくなる衝動が込み上げるが、俺はそこから動き出す事はできなかった。
強い光に視界が一瞬霞んだかと思って何度も何度も瞬きを繰り返すが、どうやら俺の目にしているものの殆どが、今目の前で起きている現実らしい。
建物の輪郭がぼやけて、背景の色に混ざり合っていく。
そこから濃い色が主張するように湧き出て、再び城の形を形成していった。
城から離れていたと思ったが、城の壁は修復師たちの目の前までに迫っていた。
復活した建物のフォルムは俺の記憶と大して差はないが、どうやら漆黒の城は、その色を望んではいなかったらしい。
『暗黒魔王の城』とでも呼べそうな真っ黒だった外観が、「真っ白になるかも」というヒルドの予想も裏切って、たくさんの白を混ぜたグレーになってしまった。
城というよりは、向こうの世界でよく見る、コンクリートを打ち付けただけの建築物に近い。
全てが終わって、マーテルがゆっくりと両手を下ろした。
シンと静まり返った空気に「ブラボー!」と、やたらうまい発音で称賛の声を響かせたのはチェリーだ。
バラバラッと鳴った拍手が大きな喝采へと変わり、皆が修復師たちを称えた。
横並びになった彼等が観客に身体を向け大きく一礼すると、再び拍手が大きくなる。
儀式の終了を示すアナウンスはなかった。
崩れた城を一瞬で直すという偉業を遂げた後だというのに、修復師たちは尊大に構えることもなく、厳かな空気を漂わせながらマーテルを先頭に中央廟へと戻っていく。
「クラウ様」「マーテル様」「魔王様」
割れんばかりの拍手に乗せて、俺もその興奮を口にした。
「クラウ様ぁ!」と両手を振るメルやちさに気付たクラウが、ついでに俺にも小さく手を振ってきた。
「本当に俺の兄貴かよ」
今更ながらにそんなことを思ってしまう。
クラウにかけられた称賛が、まるで自分の事のように嬉しくなって、「やったわね」と俺の背を叩いたチェリーに「はい」と大きく返事を返した。
けれど、喜んでばかりいられなかった。
城が元通りになって落ち着いた空気が流れるのも束の間、修復師たちが消えた広場にはほんの少しの不穏な空気が流れた。
『クラウ様は聖剣を抜けるのか――』
そこに居るのは一般人ではなく、城に従事する者たちなのだ。
そんな身内から口々に漏れるのは、『不安』だった。
今回の事件は、クラウが聖剣を抜けないことを危惧したハイドが起こしたものだという。誰もがそのことに気付いているはずなのに、彼に詰め寄ろうとする人は誰もいなかった。
「素直に喜べないのかしらね」
チェリーがぼやくが、メルは何も言わなかった。
俺はとりあえずクラウの所へ行こうと思う。
それを切り出そうとした時に、向こうからエムエル姉妹がやってきて、美緒たち女子に声を掛けたのだ。
「儀式が終わったから、戻りましょ」
「はぁい」と返事する、ちさと美緒。メルもちさの手を取って「私も」と行ってしまった。
「じゃあ、佑くん。私もみんなの所に行くね」
「みんなと居る方が安心だな」
ちさたちを追いかける美緒に、「また後でな」と声を掛ける。
どうやらみんなで城の方へ行くらしい。
「はぁい」と振り向いた彼女の背中はどんどん小さくなっていく。
「美緒!」
その時俺は、彼女にもう一度さよならを言いたくなった。
ヒルドの絵を片手に抱えたまま、見送ったばかりの彼女を追いかけて、細い腕を握りしめる。
「えっ……佑くん?」
どうしたの、と不思議がって足を止める美緒。
けれど俺は、「またな」と声を掛けることしかできなかった。それ以上の言葉が浮かばず、触れた手を解くと、美緒は「またね」と小さく微笑む。
再び歩き出すその小さな背に、俺はあの日の別れを重ねてしまった。
よく晴れた昼下がり。
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