110 / 171
11章 俺はその時、彼女にもう一度さよならを言いたくなった
110 そこに美少女(仮)が現れる
しおりを挟む
再生の儀が終わって修復師たちの姿が消えると、大勢いた見物人も波が引くように散っていった。
美緒たちハーレムメンバーの女子を見送って、俺はふと傍らのチェリーを見上げる。
「行かないんですか?」
「こんな姿になって、あそこには居られないわ」
リトの治癒で見た目がすっかり男になってしまったチェリーだが、化粧っ気のない顔から艶のある雰囲気を滲ませて「ね」と微笑んだ。本人が言っていたように、チェリーらしさは変わっていない。
「けど、もう少しここに居ようとは思うわ。ユースケと一緒に、この騒動を見届けるまではね」
「じゃあ、帰る時は一緒に」
「まぁた、帰るなんて話して! 僕を仲間外れにしないでよ」
「そうね」と答えるチェリーに、ヒルドが頬を膨らませた。
俺は再びコイツの自画像を遺影持ちにして、「いつも側に居るんだろ?」と不本意ながらも無理矢理に宥めた。
「そうだよ」と本人も納得してしまうのが、心苦しい。
「範夫」
突然掛けられたその声に、チェリーがピクリと眉をひそめた。
タキシード姿のゼストが小走りにやってくる。
「ちょっと、その呼び方は止めてくれる? 不愉快だわ」
「何だよ、俺にまでチェリーって呼ばせたいのか?」
「当たり前でしょ」
チェリーはツンとそっぽを向いてから、改めて話を続けた。
「少しコイツと居ることにしたから。行ってくるわ。夜、ユースケの部屋に行ってもいい?」
「あ、あぁ。そっか、今日は城に泊まるんだな」
「ユースケの部屋には、僕やメルも居ることを忘れないでね」
「分かってるわよ。私たち、部屋が隣同士なのよ。気付いてなかった?」
確かに美緒たちの部屋は俺の部屋の並びだ。この間美緒の所へ行った時に一通り見た気がしたが、どうやら見落としていたらしい。
「じゃあ、また夜に」と残してチェリーはゼストと城の方へと行ってしまった。体格の良い二人が並ぶと、バディのように思えてしまう。
「じゃあ、俺はクラウの所に行こうと思う」
「僕も一緒に行くからね」
本当は一人で行こうと思ったけれど、ヒルドの申し出は有難く受け入れることにした。
いつもなら「いいよ」と突っ放してしまいそうなのに、俺はここにきて自分の足が震えていることに気付いた。
「ありがとう」
素直にそう言うと、ヒルドは嬉しそうに笑って「どういたしまして」と俺の肩を叩いた。
☆
中央廟に被害はなかったらしい。周りの庭は目も当てられないほどに悲惨な状態になっていたが、建物はそのままだ。
「ご、ごめんください」
ステンドグラスの窓からは中の様子が見えず、俺は緊張を走らせながらその重い扉をゆっくりと引いた。もちろん何の許可も取っていないが、儀式を終えたクラウたちは確かにこの中へと戻っていった。
空の透けるドーム型の屋根から日光が降り注ぐエントランスは、人影もなくシンと静まり返っていた。
石造りの床に足音をコンと響かせると、急に奥が騒がしくなってバタバタと兵士がやってきた。この間、地下への階段を塞いでいたガタイの良い男たちだ。
遺影持ちしたヒルドの自画像を見て一瞬ギョッとした二人が、作者本人と見比べて更に困惑の表情をチラつかせる。
俺は、ここから引き返す気はなかった。
じろりと俺を見た兵士が、「貴方は……」と急に弱気になる。
「クラウ様の弟君か?」
「そうだよ。僕のことも知らないの?」
「ヒルド……絵師の?」
もう一人の兵士が自信なさげに正解を口にすると、ヒルドは「今は剣師だけどね」と胸を張った。
「申し訳ありません。下へ行かれるつもりですか? 誰も通すなと言われています」
「俺はクラウに会いに来たんだ」
交渉が一歩前進したかと思えば、すぐに後退させられる。
「用事があるなら、ここで待ってるけど」
「いえ、それは致しかねます」
背が高く幅のある二人の兵士は、俺たちの正面を塞いだまま頑として壁を開こうとはしない。
「じゃあ、城に戻ってたらクラウが来てくれるのか?」
「私たちには答えかねます」
強行突破しようなどとは思っていなかった。城で待てというなら、それも仕方ないと思っていた。けれど、何やら他に事情があるような態度を取られては、意地でも引き返すまいと思ってしまう。
「相手がユースケだと分かっても通せないって言うんだ。頑なになる理由は分からないけど、ここの管理はティオナだよね? あの人が誰も通すなって言ってるの?」
「いえ……」
右の兵士が否定すると、左の兵士が即座に「おい」と言葉を遮った。言い辛い相手となると、ハイド辺りだろうかと俺は予測するが、そうではなかった。
ヒルドがたまに見せる大人顔で「教えて」と詰め寄ると、左の兵士が面倒そうに溜息を吐き出した。
「クラウ様です」
「そうね」
ごくごく自然に返された返事は、俺たち以外の声だった。高く響く愛らしいその声の主を俺は知っている。
兵士二人の背後に現れた彼女は、いつからそこに居たのだろうか。
兵士が答えたその名前の衝撃を全て上塗りしてしまう程の卑猥な姿で、青髪の魔法師は俺たちに微笑んだのだ。
美緒たちハーレムメンバーの女子を見送って、俺はふと傍らのチェリーを見上げる。
「行かないんですか?」
「こんな姿になって、あそこには居られないわ」
リトの治癒で見た目がすっかり男になってしまったチェリーだが、化粧っ気のない顔から艶のある雰囲気を滲ませて「ね」と微笑んだ。本人が言っていたように、チェリーらしさは変わっていない。
「けど、もう少しここに居ようとは思うわ。ユースケと一緒に、この騒動を見届けるまではね」
「じゃあ、帰る時は一緒に」
「まぁた、帰るなんて話して! 僕を仲間外れにしないでよ」
「そうね」と答えるチェリーに、ヒルドが頬を膨らませた。
俺は再びコイツの自画像を遺影持ちにして、「いつも側に居るんだろ?」と不本意ながらも無理矢理に宥めた。
「そうだよ」と本人も納得してしまうのが、心苦しい。
「範夫」
突然掛けられたその声に、チェリーがピクリと眉をひそめた。
タキシード姿のゼストが小走りにやってくる。
「ちょっと、その呼び方は止めてくれる? 不愉快だわ」
「何だよ、俺にまでチェリーって呼ばせたいのか?」
「当たり前でしょ」
チェリーはツンとそっぽを向いてから、改めて話を続けた。
「少しコイツと居ることにしたから。行ってくるわ。夜、ユースケの部屋に行ってもいい?」
「あ、あぁ。そっか、今日は城に泊まるんだな」
「ユースケの部屋には、僕やメルも居ることを忘れないでね」
「分かってるわよ。私たち、部屋が隣同士なのよ。気付いてなかった?」
確かに美緒たちの部屋は俺の部屋の並びだ。この間美緒の所へ行った時に一通り見た気がしたが、どうやら見落としていたらしい。
「じゃあ、また夜に」と残してチェリーはゼストと城の方へと行ってしまった。体格の良い二人が並ぶと、バディのように思えてしまう。
「じゃあ、俺はクラウの所に行こうと思う」
「僕も一緒に行くからね」
本当は一人で行こうと思ったけれど、ヒルドの申し出は有難く受け入れることにした。
いつもなら「いいよ」と突っ放してしまいそうなのに、俺はここにきて自分の足が震えていることに気付いた。
「ありがとう」
素直にそう言うと、ヒルドは嬉しそうに笑って「どういたしまして」と俺の肩を叩いた。
☆
中央廟に被害はなかったらしい。周りの庭は目も当てられないほどに悲惨な状態になっていたが、建物はそのままだ。
「ご、ごめんください」
ステンドグラスの窓からは中の様子が見えず、俺は緊張を走らせながらその重い扉をゆっくりと引いた。もちろん何の許可も取っていないが、儀式を終えたクラウたちは確かにこの中へと戻っていった。
空の透けるドーム型の屋根から日光が降り注ぐエントランスは、人影もなくシンと静まり返っていた。
石造りの床に足音をコンと響かせると、急に奥が騒がしくなってバタバタと兵士がやってきた。この間、地下への階段を塞いでいたガタイの良い男たちだ。
遺影持ちしたヒルドの自画像を見て一瞬ギョッとした二人が、作者本人と見比べて更に困惑の表情をチラつかせる。
俺は、ここから引き返す気はなかった。
じろりと俺を見た兵士が、「貴方は……」と急に弱気になる。
「クラウ様の弟君か?」
「そうだよ。僕のことも知らないの?」
「ヒルド……絵師の?」
もう一人の兵士が自信なさげに正解を口にすると、ヒルドは「今は剣師だけどね」と胸を張った。
「申し訳ありません。下へ行かれるつもりですか? 誰も通すなと言われています」
「俺はクラウに会いに来たんだ」
交渉が一歩前進したかと思えば、すぐに後退させられる。
「用事があるなら、ここで待ってるけど」
「いえ、それは致しかねます」
背が高く幅のある二人の兵士は、俺たちの正面を塞いだまま頑として壁を開こうとはしない。
「じゃあ、城に戻ってたらクラウが来てくれるのか?」
「私たちには答えかねます」
強行突破しようなどとは思っていなかった。城で待てというなら、それも仕方ないと思っていた。けれど、何やら他に事情があるような態度を取られては、意地でも引き返すまいと思ってしまう。
「相手がユースケだと分かっても通せないって言うんだ。頑なになる理由は分からないけど、ここの管理はティオナだよね? あの人が誰も通すなって言ってるの?」
「いえ……」
右の兵士が否定すると、左の兵士が即座に「おい」と言葉を遮った。言い辛い相手となると、ハイド辺りだろうかと俺は予測するが、そうではなかった。
ヒルドがたまに見せる大人顔で「教えて」と詰め寄ると、左の兵士が面倒そうに溜息を吐き出した。
「クラウ様です」
「そうね」
ごくごく自然に返された返事は、俺たち以外の声だった。高く響く愛らしいその声の主を俺は知っている。
兵士二人の背後に現れた彼女は、いつからそこに居たのだろうか。
兵士が答えたその名前の衝撃を全て上塗りしてしまう程の卑猥な姿で、青髪の魔法師は俺たちに微笑んだのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる