貧乳世界の魔王が作った巨乳ハーレムに入ってしまった幼馴染を連れ戻すために、俺は異世界へ旅立つ!

栗栖蛍

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12章 ゆりかごに眠る意思

129 白いワンピース

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 トード車の扉がバタリと音を立てて閉じるのと同時に、俺の拘束こうそくが解かれた。
 突然重力に引っ張られて、数歩たたらを踏んで転倒をこらえる。
 あっという間に去っていった黒塗りのトード車を睨みながら、俺はのっそりと体を起こした。

「あの……ヤロウ」
「まぁたユースケだけ? 僕も行こうか?」

 心配する二人に、俺は「いや」と首を振る。

「アイツが一人で、って言うなら従わねぇと……」

 「分かったよ」と辺りを見やって、ヒルドが「そろそろ時間だよ」と俺を庭の奥へと促した。

「僕たちはここで待ってるから。一人で行ける?」
「あぁ。終わったら戻るよ」

 俺が全身についた砂を払うと、チェリーがほおについた血を指で拭ってくれた。
 二人に「ありがとう」と頭を下げて、俺は庭の奥へと走る。

 中央廟ちゅうおうびょうの周りは思った以上に兵が多かったが、俺はすんなりと中へ入ることができた。
 階段の上にいるいつもの二人も、今回ばかりは「どうぞ」とあっけなく道を開いてくれた。

 普段ティオナのいる『中枢ちゅうすう』を超えて、『避難部屋』を横目に、更にその下にある『聖のゆりかご』へ下りる。
 この国にとって重要な場所だというのに、俺がそこへ踏み込むのはもう二度目だ。
 一歩ごとに響く足音に身を縮めながら、俺はそっと階段を下りて行った。

 聖のゆりかごには、既に人が集まっていた。
 粛々しゅくしゅくとした空気が流れている。
 地面に突き刺さった聖剣の前に立つクラウを囲むように、ハイドとティオナが何やら会話をしていた。

 俺に気付いたクラウが一瞬だけ目を合わせて、小さく笑んだ。
 不安など見せる様子はなかったが、さっき部屋の外で聞いた、焦燥しょうそうに暮れる彼の声を思い出すと、きっとあっちが本心なのだろうと思ってしまう。

 入口の一番近い場所にゼストを見つけて、俺はそっと近付き頭を下げた。
 黙ったままうなずくゼスト。

 各国の主賓が来ているという話だが、幸いなことにこの暗い地下には俺の知っている顔ばかりが並んでいた。
 主役のクラウに、ハイドとティオナ。メルの姿はない。
 彼らをじっと見守るのは親衛隊の三人。それに揃いの白装束を着た元老院げんろういんたちだ。背後からはその詳細が良く分からないが、大柄の男たちに紛れて華奢きゃしゃな体格の少女が紛れている。

「あ……」

 髪型でミーシャだと分かったその隣に、見覚えのある後頭部を見つけた。
 一人だけ異なる、白いワンピースの後ろ姿。

「み――」

 その名前をもう一度呼ぼうとして、ゼストに腕をきつく掴まれた。
「美緒……」と口からこぼれたかすかな音は、誰の耳にも届かない。

 一瞬だけこっちを振り向いたミーシャが冷めた目で俺を見て、すぐに向こうを向いてしまう。彼女の右隣に立つボブヘアの少女が美緒だというのは明白だ。
 ただじっとクラウを見つめたままの彼女は、丈の長い真っ白なノースリーブのワンピースを着ている。
 同じ白のワンピースでも、破廉恥はれんちなデザインのティオナとは真逆で、何の飾りもない無垢むくなその姿が死に装束のようにさえ見えた。

 俺は落ち着いてなどいられなかった。
 けれど、彼女の所へ駆け寄ろうとする衝動をゼストの大きな手に阻まれる。暴れることもできず、俺は従うしかなかった。

「追い出されるぞ」

 囁くような忠告に、俺は唇を強く結んだ。折角この場所に居られる権利を手に入れたのだから、追い出されるわけにはいかない。

 彼女の無事を確認できただけでもいいだろう――?

 胸に手を当てて、何度も何度も深呼吸を繰り返す。
 そんな俺を気に掛けるやつも居なかったが、ゼストだけは心配そうに横目で俺を見下ろしていた。

 やがてハイドとティオナの二人がクラウを離れ、元老院の正面についた。
 ハイドが手を上げて左右にゆっくり振ったのを合図に、部屋を覆う土壁がドンと重々しい音を響かせる。
 長い余韻よいんが消えて、今度は鐘の音が高らかに鳴り響いたのだ。
 けれど、誰も音に反応する様子はない。前を向いたまま儀式の流れとして淡々と受け入れているだけだ。

 逆に地上が沸き立つのが分かった。部屋全体がきしむような音を立てる。
 地震かと思って天井を仰ぐと、ゼストが「大丈夫だ」と呟いて俺の背中をそっと叩いた。

「さぁ、クラウ様」

 ハイドがクラウへ呼び掛ける。
 張り詰めた空気に、俺は自分が場違いなんじゃないかと恐縮してしまった。
 正装で皆の中心にいる男が、本当に自分の兄なんだろうかとさえ疑ってしまう。
 けれど、今はクラウを一人の男として見守ることしかできない。

「クラウ……」

 念じるように呟いて、俺は腹の前で両手をきつく握りしめた。



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