147 / 171
13章 魔王
147 青髪の彼女
しおりを挟む
「死を予感しましたか? それとも、愛する者の窮地を悟って目覚めたのか。どっちなんでしょうね」
乾いた額から流れる汗。ギリリと歯を見せる彼の髪から、青みが薄れていく。
クラウの身体からワイズマンが抜けるのかと喜んだのも束の間、眼光の強さはどんどん増していった。
その苦しさに悶える様は、死に物狂いという言葉が合うのかもしれない。
彼の中でクラウの意思が影響を与えているのだろう。抵抗を振り解くように、ワイズマンは右手を高く掲げた。
「それならメルーシュ、貴女をいただきますよ」
一瞬見せた穏やかな顔に、「えっ」とメルの緊張が緩んだ。
クラウの意思を垣間見たのだろうか。けれどそれは装った笑顔だ。
ニヤリと滲んだ本性に、メルが目を剥く。彼女の腕にワイズマンの手が触れた時、凄まじい気配がそいつの身体から沸き上がった。
感じたことのない威圧感は、風とも異なる圧力で俺たちの足を踏ん張らせる。
「やめろぉぉおお!!」
轟いた叫びはクラウ自信。その身体とワイズマンの魂が分離したその瞬間に、
「ヒオルス、私を殺しなさい!」
状況を悟ったメルが叫んだのは、忠誠を誓ったヒオルスへの残酷な言葉だった。
膝からバタリと地面に倒れたクラウに駆け寄って、チェリーが口元と胸に自分の耳を近付ける。「大丈夫」と顔を上げて、クラウの身体をひょいとお姫様抱っこすると、親衛隊の二人の間へと並べた。ヒルドといい、想像の遥か上を行く怪力だ。
「気力を使い果たしたようですね」
メルの声がそんなことを言って、俺はぎょっと背中を震わせた。
「メルちゃんじゃない……」
その変化に、美緒が息を飲み込んだ。
栗色の髪は、さっきまでのクラウと同じ色になっている。喉を這う鱗模様が答え合わせのように現実を突き付けてきた。
髪が黒色に戻ったクラウは、目を閉じたまま何かにうなされたように荒い息を繰り返す。
「メルーシュ様!」
青髪の彼女を見て、ヒオルスが愕然と立ちすくんだ。
主からの返事はない。クラウの姿をしたワイズマンに向けて剣を抜いたヒオルスは、柄に手を掛けたまま硬直してしまっている。
「親衛隊がそんなものだってことは、大昔から分かっています。結局は文字通りの護衛役でしかない」
「その顔で、そんなこと言うなよ!」
ついカッとなって声を上げると、ワイズマンは勝ち誇った顔で鼻を鳴らした。
メルと同じ顔をしているのに、中身が違うだけで別人だとはっきりわかる。
ワイズマンはクラウへ視線を向けて、軽いため息を吐き出した。
「目覚めることができたのは、褒めてあげますよ。貴方がそれでも魔王に執着すなら、足掻いてみてもいい。目覚められたら、の話ですが」
その声は、クラウに届いているのだろうか。仰向けで目を閉じたまま、反応は示さない。
メルの姿をしたワイズマンは、自分の口元に指を添えた。指笛でも吹くのかと予想したところで、表情を陰らせる。
「やはり貴女は素晴らしい素質の持ち主だ」
パチリと瞬いた瞳を、うつろに漂わせる。唇から指が離れて、彼の瞳の赤が強くなった。
「思い通りにはさせないわ」
それは彼女の言葉だろうか。
「やめ……なさい!」
すぐ後に続いた声は、ワイズマンの叱責。
彼女の意思を感じて俺たちは歓声を上げるが、様子がおかしいことはすぐに分かった。
「離れなさい!」
彼女が叫んだその言葉に困惑してしまう。
「離れろって? 何するつもりだ?」
「まさか、そいつごと自爆するつもりなの?」
「はぁ?」
ヒルドの言葉に驚愕して、ヒオルスが「なりません」と両腕を広げて主に駆け寄った。
「魔王よ、よしなさい……」
ワイズマンの身体から青い光が沸くが、それは一瞬だけ紫を帯びて赤い色へと変化した。
体は小さいままなのに、それは緋色の魔女を思わせる色だった。
メルは今、ワイズマンに対して必死の抵抗をしている。それは彼女にとって最悪の結末をもたらすものかもしれない。
赤い光が増幅して視界を血の色に染める。
「メルーシュ様ぁ!!」
ヒオルスの叫びをかき消すように、足元からドンという衝撃が俺たちを突き上げた。
乾いた額から流れる汗。ギリリと歯を見せる彼の髪から、青みが薄れていく。
クラウの身体からワイズマンが抜けるのかと喜んだのも束の間、眼光の強さはどんどん増していった。
その苦しさに悶える様は、死に物狂いという言葉が合うのかもしれない。
彼の中でクラウの意思が影響を与えているのだろう。抵抗を振り解くように、ワイズマンは右手を高く掲げた。
「それならメルーシュ、貴女をいただきますよ」
一瞬見せた穏やかな顔に、「えっ」とメルの緊張が緩んだ。
クラウの意思を垣間見たのだろうか。けれどそれは装った笑顔だ。
ニヤリと滲んだ本性に、メルが目を剥く。彼女の腕にワイズマンの手が触れた時、凄まじい気配がそいつの身体から沸き上がった。
感じたことのない威圧感は、風とも異なる圧力で俺たちの足を踏ん張らせる。
「やめろぉぉおお!!」
轟いた叫びはクラウ自信。その身体とワイズマンの魂が分離したその瞬間に、
「ヒオルス、私を殺しなさい!」
状況を悟ったメルが叫んだのは、忠誠を誓ったヒオルスへの残酷な言葉だった。
膝からバタリと地面に倒れたクラウに駆け寄って、チェリーが口元と胸に自分の耳を近付ける。「大丈夫」と顔を上げて、クラウの身体をひょいとお姫様抱っこすると、親衛隊の二人の間へと並べた。ヒルドといい、想像の遥か上を行く怪力だ。
「気力を使い果たしたようですね」
メルの声がそんなことを言って、俺はぎょっと背中を震わせた。
「メルちゃんじゃない……」
その変化に、美緒が息を飲み込んだ。
栗色の髪は、さっきまでのクラウと同じ色になっている。喉を這う鱗模様が答え合わせのように現実を突き付けてきた。
髪が黒色に戻ったクラウは、目を閉じたまま何かにうなされたように荒い息を繰り返す。
「メルーシュ様!」
青髪の彼女を見て、ヒオルスが愕然と立ちすくんだ。
主からの返事はない。クラウの姿をしたワイズマンに向けて剣を抜いたヒオルスは、柄に手を掛けたまま硬直してしまっている。
「親衛隊がそんなものだってことは、大昔から分かっています。結局は文字通りの護衛役でしかない」
「その顔で、そんなこと言うなよ!」
ついカッとなって声を上げると、ワイズマンは勝ち誇った顔で鼻を鳴らした。
メルと同じ顔をしているのに、中身が違うだけで別人だとはっきりわかる。
ワイズマンはクラウへ視線を向けて、軽いため息を吐き出した。
「目覚めることができたのは、褒めてあげますよ。貴方がそれでも魔王に執着すなら、足掻いてみてもいい。目覚められたら、の話ですが」
その声は、クラウに届いているのだろうか。仰向けで目を閉じたまま、反応は示さない。
メルの姿をしたワイズマンは、自分の口元に指を添えた。指笛でも吹くのかと予想したところで、表情を陰らせる。
「やはり貴女は素晴らしい素質の持ち主だ」
パチリと瞬いた瞳を、うつろに漂わせる。唇から指が離れて、彼の瞳の赤が強くなった。
「思い通りにはさせないわ」
それは彼女の言葉だろうか。
「やめ……なさい!」
すぐ後に続いた声は、ワイズマンの叱責。
彼女の意思を感じて俺たちは歓声を上げるが、様子がおかしいことはすぐに分かった。
「離れなさい!」
彼女が叫んだその言葉に困惑してしまう。
「離れろって? 何するつもりだ?」
「まさか、そいつごと自爆するつもりなの?」
「はぁ?」
ヒルドの言葉に驚愕して、ヒオルスが「なりません」と両腕を広げて主に駆け寄った。
「魔王よ、よしなさい……」
ワイズマンの身体から青い光が沸くが、それは一瞬だけ紫を帯びて赤い色へと変化した。
体は小さいままなのに、それは緋色の魔女を思わせる色だった。
メルは今、ワイズマンに対して必死の抵抗をしている。それは彼女にとって最悪の結末をもたらすものかもしれない。
赤い光が増幅して視界を血の色に染める。
「メルーシュ様ぁ!!」
ヒオルスの叫びをかき消すように、足元からドンという衝撃が俺たちを突き上げた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる