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13章 魔王
148 サファイアの瞳
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衝撃で身体が軽くなった気がしたのは、爆風で身体ごと吹き飛ばされたのが原因らしい。
恐怖を逃れようと目を閉じた一瞬の出来事だ。
背中から地面に打ち付けられた俺は、痛みを感じる余裕もないままゴロゴロと地面を転げて、うつ伏せ状態でようやく止まることができた。
全身の感覚が麻痺して、「あぁ」と呼吸を掠れた声に逃がしながら、瞼を必死にこじ開けた。
メルはワイズマンごと自爆してしまったのだろうか。
そんな結末など見たくもなかったが、自分がとりあえず生きていることを確認すると、みんなの無事を早く知りたいと思ってしまう。
地面に貼りついた頬をゆっくり引き上げると、口の中に粉っぽい土の感触が広がった。
「み……お……」
すぐそこに彼女が居た。同じように地面に突っ伏したままだけれど。
少し離れた位置にクラウたちの姿がそのまま残っていて、その奥にはヒルドの背中が見えた。
「美緒? 美緒?」
自分の声が若干くぐもって聞こえるが、やがてそれも鮮明になる。
二度三度と呼び掛けると、彼女の頭がビクリと震えた。
手の感触を確かめて、俺は彼女に向かって右手を砂の上に滑らせる。
彼女の手が先に動いて、彼女の声が「佑くん?」と俺を呼ぶ。
魂が抜けるように安堵した俺は、美緒の手を掴んで彼女の体温をしっかりと握りしめた。
背後からの気配はチェリーだろうか。みんなが生きていると実感する。
そんな俺たちには、生温い雨が降り注いでいた。
空は抜けるような青空なのに、パシャリバシャリと水を打つ音が聞こえて、不規則な感覚で水の塊が落ちてくる。
俺は美緒と顔を見合わせると、辺りを警戒しながら膝を抱え込んだ。ゆっくりと体を起こすと、チェリーとヒルドも立ち上がる。
ゴムを弾いたような水の音は、温泉の方からだ。
「ドラゴン?」
音の方に目をやって、俺たち四人は同時にそれを理解する。
現実を逸脱したファンタジー映画のような光景だった。太陽の陽にキラキラと輝く青い鱗を、恐怖よりも先に俺は素直に奇麗だと思った。
けれど、様子がおかしい。
視界に全身を捉えることができないほどの巨体を何度も何度もくねらせて、温泉に打ち付けている。
メルは自爆したのかと思ったが、ワイズマンはまだそこにドラゴンの姿で生きていた。
「じゃあ、メルは……」
辺りを目で探すと、視界から外れた温泉の縁に栗色でフワフワの後ろ姿を見つける。
「メル」と彼女を呼んで、俺は「違う」とすぐに否定した。
「メルーシュ」
そう呼び直すと、ワイズマンに身体を向けていた彼女が、俺の声に振り向いた。
カーボ印のワンピースをパツパツに着た大人の彼女は、全身傷だらけで、それでも両足で真っすぐに立っている。
「ユースケ」
俺をそう呼んだ彼女は、サファイアの瞳をしていた。
それは緋色の魔女ではなく、この国の前魔王・メルーシュだった。
恐怖を逃れようと目を閉じた一瞬の出来事だ。
背中から地面に打ち付けられた俺は、痛みを感じる余裕もないままゴロゴロと地面を転げて、うつ伏せ状態でようやく止まることができた。
全身の感覚が麻痺して、「あぁ」と呼吸を掠れた声に逃がしながら、瞼を必死にこじ開けた。
メルはワイズマンごと自爆してしまったのだろうか。
そんな結末など見たくもなかったが、自分がとりあえず生きていることを確認すると、みんなの無事を早く知りたいと思ってしまう。
地面に貼りついた頬をゆっくり引き上げると、口の中に粉っぽい土の感触が広がった。
「み……お……」
すぐそこに彼女が居た。同じように地面に突っ伏したままだけれど。
少し離れた位置にクラウたちの姿がそのまま残っていて、その奥にはヒルドの背中が見えた。
「美緒? 美緒?」
自分の声が若干くぐもって聞こえるが、やがてそれも鮮明になる。
二度三度と呼び掛けると、彼女の頭がビクリと震えた。
手の感触を確かめて、俺は彼女に向かって右手を砂の上に滑らせる。
彼女の手が先に動いて、彼女の声が「佑くん?」と俺を呼ぶ。
魂が抜けるように安堵した俺は、美緒の手を掴んで彼女の体温をしっかりと握りしめた。
背後からの気配はチェリーだろうか。みんなが生きていると実感する。
そんな俺たちには、生温い雨が降り注いでいた。
空は抜けるような青空なのに、パシャリバシャリと水を打つ音が聞こえて、不規則な感覚で水の塊が落ちてくる。
俺は美緒と顔を見合わせると、辺りを警戒しながら膝を抱え込んだ。ゆっくりと体を起こすと、チェリーとヒルドも立ち上がる。
ゴムを弾いたような水の音は、温泉の方からだ。
「ドラゴン?」
音の方に目をやって、俺たち四人は同時にそれを理解する。
現実を逸脱したファンタジー映画のような光景だった。太陽の陽にキラキラと輝く青い鱗を、恐怖よりも先に俺は素直に奇麗だと思った。
けれど、様子がおかしい。
視界に全身を捉えることができないほどの巨体を何度も何度もくねらせて、温泉に打ち付けている。
メルは自爆したのかと思ったが、ワイズマンはまだそこにドラゴンの姿で生きていた。
「じゃあ、メルは……」
辺りを目で探すと、視界から外れた温泉の縁に栗色でフワフワの後ろ姿を見つける。
「メル」と彼女を呼んで、俺は「違う」とすぐに否定した。
「メルーシュ」
そう呼び直すと、ワイズマンに身体を向けていた彼女が、俺の声に振り向いた。
カーボ印のワンピースをパツパツに着た大人の彼女は、全身傷だらけで、それでも両足で真っすぐに立っている。
「ユースケ」
俺をそう呼んだ彼女は、サファイアの瞳をしていた。
それは緋色の魔女ではなく、この国の前魔王・メルーシュだった。
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