貧乳世界の魔王が作った巨乳ハーレムに入ってしまった幼馴染を連れ戻すために、俺は異世界へ旅立つ!

栗栖蛍

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13章 魔王

152 危機を伝える獣

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 ワイズマンが起こした炎でチャーチ香の匂いは消えてしまったが、彼の叫びに引き寄せられた山中のモンスターが、闘争心を掻き立てられている。

 メルに残った魔力を引き継いだクラウは、今どれほどの力を潜めているのだろうか。

「緊急時と、ワイズマンを見つけた時にこれを鳴らせ。場所を示してくれたら飛んでいくから」

 ゼストがタキシードの胸元から皮の袋を取り出して、魔法を使う事の出来ない俺たちに茶色の筒を一本ずつ配った。
 一つ一つの先端に導火線のような紐が付いている。その見た目から俺はダイナマイトを想像してしまうが、ゼストが「こうだぞ」と別のをもう一つ取り出してクラッカーのように紐を引くジェスチャーをして見せた。
 どうやら発煙筒のようなものらしい。
 チェリーが前にゼストを呼んだ時は文字入りの紙を燃やしていたが、それだと特定の一人にしか伝えることができないらしい。

「いいか、何度だって言うが無茶はするなよ」
「はい」

 俺達はそれぞれに頷いて、モンスターの影を追うように辺りを見回した。
 まず俺たちのすることは、ワイズマンを見つけることだ。そこへ辿り着くまでに戦闘は不可避だろう。
 
 「二手に別れましょうか」とクラウに提案するメルに、俺はポケットに突っ込んであった髪飾りを取り出して、ちぎれたゴムを結び直した。俺たちが海で買ったカーボのマスコットが付いた髪ゴムで、彼女が大人の姿になった衝撃で外れてしまったものだ。
 ワイズマンが降らせた温泉のせいでずぶ濡れになってしまったが、気温の上昇とともに服も髪飾りも殆ど乾いてしまった。

「戦うなら縛っておけよ」
「そうよね。ありがとう、ユースケ」

 ゴムを受け取ったメルは、手早く髪をまとめてポニーテールを作った。クラウは「うん」と満足そうに頷くと、その視線を離れた木々の奥へと投げる。

 素人の俺でさえ、奴らの気配をびんびんに感じ取れる。というか、木の陰に奴らの姿がはっきりと見えているのだ。
 こうしている間にも、奴らは俺たちを見つけてタイミングを計っている。

 そして俺の心の準備などお構いなしに、戦闘は始まった。
 メルが背中の剣を鞘から滑り出した音を合図に、クラウが手中に雷鳴を鳴らした。

「ゼスト、頼む」
「任せて下さいよ」

 クラウの横に並んで、ゼストは剣を抜いた。左手を刃に滑らせると光がその色を付着させていく。酒場でジーマを倒した時はメルの剣にゼストの魔法を合体させていたが、今度は自らの剣で『雷剣』を生成した。

 他の魔法師たちは動かない。必要がないと判断したのだろうか。
 俺にはそうは見えないけれど。
 木陰からジリジリと間を詰めてくるモンスターは10匹。全部カーボだ。
 奴らは群れる習性があるのだろうか。その長い牙と獰猛どうもうさに、女子に好かれるカワイイキャラクターの要素を見出すことができないまま、俺は鞘に入れたままの剣を握りしめて足を震わせた。

 クラウが腕を横に振り払うと、光が彼の掌を離れる。
 同時にガオオンと一匹のカーボが吠えたのが、奴らにとっての出撃の合図だ。地面を蹴りつけた後ろ脚をバネに、想像よりも速い速度で俺たちに近付いてくる。

 美緒を背中に追いやって、俺は恐怖に叫びたくなる衝動を必死に押さえつけた。邪魔だと判断されたら、すぐにでも城へ強制送還させられてしまいそうだったからだ。

 生温い空気を甲高い雷鳴が切り裂いていく。空中にその痕を刻みつけるように、稲妻がカーボを一匹ずつなぎ倒していった。

 「1,2,3,4……」とヒルドが小声でカウントしていく。それが10に到達したところで、ゼストとメルが奴らに剣でとどめを刺していった。
 ほんの十数秒のことだ。血の気が多く勢い付いたカーボ達は、10体の黒い塊と化して絶命する。

「凄いね、魔王。中型のカーボでもあっという間だ」

 余裕の表情で感心しているヒルドは、構えすら取っていなかった。彼が言うように、確かにカーボのサイズは大きめだ。

 クラウをまとった雷が、パリパリと音を立てて消えていく。
 剣を収めながら戻ってきた二人にクラウが「ありがとう」と礼を言うと、ゼストが「いやいや」と手をふった。

「俺たちの出る幕じゃなかったですよ。とどめを刺すまでもなかった」
「即死だったわ」
「そうか」

 クラウは自分の掌を見つめて、増幅した力を確認するようにぎゅっと握りしめた。
 俺にはその変化が分からなかったが、とにかく大きめのカーボ10匹に取り囲まれても、他のメンバーが棒立ちで見守れる余裕があるという事だ。

「けど、まだまだ来るからね。敵もカーボやジーマだけじゃない」

 警戒を促すクラウ。
 ゼストが「ん?」と何か気配を感じ取って、顔を上げた。
 正面に突然モクモクと沸きだした白い煙に、俺は「あれ」と記憶を垣間見る。

 熱のないその煙を、俺は前にも見たことがある。酒場で戦った俺たちの治療のためにリトが現れた時と同じものだ。
 「誰だ」と眉をひそめるゼストに、俺は緊張を走らせた。

 ポン! と煙を割って、まず黒いシルエットが浮かんだ。
 頭についた三角の耳と尻尾という姿に、俺はモンスターを予感して剣を握るが、相手が直立していることに気付いて「えっ」と眉間に皺を寄せた。

 そして姿が現れるよりも先に聞こえた「大変です!」と興奮した声に、相手が誰であるか理解する。

「シーラ!」
 
 ゼストがその名前を呼ぶと、彼女は慌てふためきながら「大変です!」と何度も繰り返しながら姿を現した。
 ゼストに着せられた猫のコスプレのままだ。

「モンスターが山を下りようとしているにゃん!」

 彼女は主の言いつけを忠実に守って、その危機を俺たちに伝えたのだ。
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