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13章 魔王
153 隊長命令
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ゴンドラの乗り口にいたオーナーがその異変に気付いて、城へ連絡を入れたという。
「私はハイド様から直々に連絡をいただいたのですにゃん。元老院の魔法師や城の兵もこっちに向かっていますにゃん!」
彼女はハイドの命令で、それを伝えるためにここへ来たらしい。
剣もない猫のコスプレは戦場へ乗り込む装備には心許ない気がするが、彼女は魔法師の中では貴重な獣師だ。その能力を見込んで、同じ獣師のハイドが声を掛けたのだろう。
「私もすぐに向かいますにゃん!」
くるりと長いしっぽを回して勢いのままに戦場へ向かおうとするシーラを、ゼストが「待てよ」と彼女の細い二の腕を掴んで呼び止めた。
「慌てるな。お前は戦師じゃねぇだろ。一人で突っ込もうとするなよ」
「ゼスト様」
ゼストはクラウと顔を見合わせて、慰霊碑の方へ駆けだした。不穏な空気を噛み締めながら、俺たちもその後に続く。
慰霊碑の手前にある分岐まで来ると、ゴンドラの乗り口までの緩い坂を見渡すことができる。
「あれって……」
その光景を目にして、俺たちは言葉を失った。
ワイズマンの叫びに反響したモンスターたちの気配をそこら中に感じているのに、それ以上の数の敵が坂の麓に密集しているのが分かった。腹に響く低い爆音は魔法師が戦っている音のようだ。
ここからだとモンスターの形をはっきりと捉えることはできないが、黒い塊がうじゃうじゃと不気味に動き回っている。まさに今交戦中で、奴ら目掛けて青や赤の光があちこちに沸き上がった。
「どうしてモンスターは山を下りようとする?」
「クラウ様、ゴンドラの下を!」
マーテルが悲鳴に近い声を上げて遠くを指差した。ゴンドラを下った更にその先には町へと通じる草原が広がっていて、そこにまで光が立ち上るのが見えた。
慌てて俺たちは目を凝らすが、遠すぎて針で刺したような点が無数にあるようにしか見えない。
「あれが全部モンスターだって言うのか?」
「速く行かないと、町に被害が出てしまいますにゃん」
シーラは俺達の前に走り出て、大きく両手を広げ魔法師たちを急かした。
クラウが「そうだね」と表情を険しくする。
「けど、ここを空けるわけにもいかないよ。僕たちが下へ行ってしまえば、ワイズマンが回復するまでの時間稼ぎにもなりかねないからね。シーラ、下にドラゴンの姿はなかっただろう?」
「それは聞いていませんにゃ」
「なら別れようか。ユースケたちはワイズマンを探してくれる? モンスターが下に向かっているなら、奴らの攻撃も少しは手薄になってるかもしれない。何かあったら、さっきゼストに渡された照明弾を使って」
「わ、分かりました」
それが照明弾だという事を知って、俺は緊張を走らせながら腰のポケットを確認した。
ゼストは「よし」と答えると、背中の向こうにある慰霊碑を肩越しに振り返る。
「見守っていてくれよ、ハーネット婆さん」
彼に続いて、魔法師たちがそこに眠る彼女への祈りを口にした。
クラウは神妙な面持ちで唇を噛んだメルの背中にそっと触れて、「終わらせよう」と声を掛ける。
「ここをまた戦場にしようだなんて許さない。僕は単独でワイズマンを探してみるよ。アイツを見つけなければ、この流れを止めることはできないからね。他のみんなは下へ向かって、モンスターと戦ってほしい」
クラウはそう指示して、俺たち剣師組を振り返った。
「この山は広い。危険だと言い切れる。けど、君たちを頼ってもいいか?」
そう言って頭を下げた魔王を、俺は心の中で馬鹿野郎と思った。
俺たちに遠慮なんてするから、ワイズマンに見くびられるのだと。
けれど、そんな奴だから国民はクラウを認めているのかもしれない。
「当たり前だろ? っていうか、俺たちは来たくて勝手にここに居るんだからな?」
「そうだったな」
申し訳なさそうに笑って、クラウは改めて全員に向いた。
「みんな頼んだよ。どうか無事に生き残ってくれ」
「はい」と魔法師たちが主の激励に答えて、その場から消えていった。
クラウが「僕も行くよ」と姿を消す。
最後にヒオルスとマーロイを従えたメルが忘れ物をしたかのように足を止め、俺たちを振り返った。
「貴方たち、絶対に死んじゃだめよ! これは隊長命令です! 隊長の命令は絶対なんだから!」
ビシイっと指を俺たちに突きつけてふんと小さな胸を張ったメルは、懐かしいセリフを残して戦場へと向かった。
魔法師たちが戦闘に加わり、その音が激しさを増す。
「ワイズマンは、この国を守りたかったんじゃないのか?」
そんな疑問を抱きながらあちこちで立ち上る光に皆の無事を祈って、俺たちは剣を抜いた。
「私はハイド様から直々に連絡をいただいたのですにゃん。元老院の魔法師や城の兵もこっちに向かっていますにゃん!」
彼女はハイドの命令で、それを伝えるためにここへ来たらしい。
剣もない猫のコスプレは戦場へ乗り込む装備には心許ない気がするが、彼女は魔法師の中では貴重な獣師だ。その能力を見込んで、同じ獣師のハイドが声を掛けたのだろう。
「私もすぐに向かいますにゃん!」
くるりと長いしっぽを回して勢いのままに戦場へ向かおうとするシーラを、ゼストが「待てよ」と彼女の細い二の腕を掴んで呼び止めた。
「慌てるな。お前は戦師じゃねぇだろ。一人で突っ込もうとするなよ」
「ゼスト様」
ゼストはクラウと顔を見合わせて、慰霊碑の方へ駆けだした。不穏な空気を噛み締めながら、俺たちもその後に続く。
慰霊碑の手前にある分岐まで来ると、ゴンドラの乗り口までの緩い坂を見渡すことができる。
「あれって……」
その光景を目にして、俺たちは言葉を失った。
ワイズマンの叫びに反響したモンスターたちの気配をそこら中に感じているのに、それ以上の数の敵が坂の麓に密集しているのが分かった。腹に響く低い爆音は魔法師が戦っている音のようだ。
ここからだとモンスターの形をはっきりと捉えることはできないが、黒い塊がうじゃうじゃと不気味に動き回っている。まさに今交戦中で、奴ら目掛けて青や赤の光があちこちに沸き上がった。
「どうしてモンスターは山を下りようとする?」
「クラウ様、ゴンドラの下を!」
マーテルが悲鳴に近い声を上げて遠くを指差した。ゴンドラを下った更にその先には町へと通じる草原が広がっていて、そこにまで光が立ち上るのが見えた。
慌てて俺たちは目を凝らすが、遠すぎて針で刺したような点が無数にあるようにしか見えない。
「あれが全部モンスターだって言うのか?」
「速く行かないと、町に被害が出てしまいますにゃん」
シーラは俺達の前に走り出て、大きく両手を広げ魔法師たちを急かした。
クラウが「そうだね」と表情を険しくする。
「けど、ここを空けるわけにもいかないよ。僕たちが下へ行ってしまえば、ワイズマンが回復するまでの時間稼ぎにもなりかねないからね。シーラ、下にドラゴンの姿はなかっただろう?」
「それは聞いていませんにゃ」
「なら別れようか。ユースケたちはワイズマンを探してくれる? モンスターが下に向かっているなら、奴らの攻撃も少しは手薄になってるかもしれない。何かあったら、さっきゼストに渡された照明弾を使って」
「わ、分かりました」
それが照明弾だという事を知って、俺は緊張を走らせながら腰のポケットを確認した。
ゼストは「よし」と答えると、背中の向こうにある慰霊碑を肩越しに振り返る。
「見守っていてくれよ、ハーネット婆さん」
彼に続いて、魔法師たちがそこに眠る彼女への祈りを口にした。
クラウは神妙な面持ちで唇を噛んだメルの背中にそっと触れて、「終わらせよう」と声を掛ける。
「ここをまた戦場にしようだなんて許さない。僕は単独でワイズマンを探してみるよ。アイツを見つけなければ、この流れを止めることはできないからね。他のみんなは下へ向かって、モンスターと戦ってほしい」
クラウはそう指示して、俺たち剣師組を振り返った。
「この山は広い。危険だと言い切れる。けど、君たちを頼ってもいいか?」
そう言って頭を下げた魔王を、俺は心の中で馬鹿野郎と思った。
俺たちに遠慮なんてするから、ワイズマンに見くびられるのだと。
けれど、そんな奴だから国民はクラウを認めているのかもしれない。
「当たり前だろ? っていうか、俺たちは来たくて勝手にここに居るんだからな?」
「そうだったな」
申し訳なさそうに笑って、クラウは改めて全員に向いた。
「みんな頼んだよ。どうか無事に生き残ってくれ」
「はい」と魔法師たちが主の激励に答えて、その場から消えていった。
クラウが「僕も行くよ」と姿を消す。
最後にヒオルスとマーロイを従えたメルが忘れ物をしたかのように足を止め、俺たちを振り返った。
「貴方たち、絶対に死んじゃだめよ! これは隊長命令です! 隊長の命令は絶対なんだから!」
ビシイっと指を俺たちに突きつけてふんと小さな胸を張ったメルは、懐かしいセリフを残して戦場へと向かった。
魔法師たちが戦闘に加わり、その音が激しさを増す。
「ワイズマンは、この国を守りたかったんじゃないのか?」
そんな疑問を抱きながらあちこちで立ち上る光に皆の無事を祈って、俺たちは剣を抜いた。
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