貧乳世界の魔王が作った巨乳ハーレムに入ってしまった幼馴染を連れ戻すために、俺は異世界へ旅立つ!

栗栖蛍

文字の大きさ
154 / 171
13章 魔王

154 空を覆う闇の色

しおりを挟む
 あれだけのモンスターがふもとへ向かっていったというのに、奴らの気配が薄くなった実感は沸かない。クラウはモンスターの大移動でこっちが手薄になっているかもと言ったが、そんなことは全くなかった。

 ヒルドとチェリー、そして俺と美緒という魔法が使えないパーティで、どれだけ戦うことができるのだろうか。
 剣を握りしめたやる気満々の美緒を、俺はなるべく戦闘に加えたくなかった。カーボレベルの敵が一匹ずつなら男だけでもどうにか戦えるはずだ。
 ボス級のモンスターにだけは遭遇しませんようにと祈りながら、俺たちはグラニカ自然公園の敷地を超えて山道の奥の奥へと進んでいった。

 ワイズマンの手掛かりはなく、進んでいくしか術はない。
 カーボを倒して、セルティオを仕留めた。魔法しか効かないジーマにも遭遇したけれど、チェリーが力ずくで胴体を真っ二つにしてくれたお陰で戦闘不能状態にすることができた。
 初めて遭遇した敵も含めてそれなりの数のモンスターと戦ったが、それぞれが俺の願った通り単体だったのは奇跡かもしれない。

 この世界で生まれて兵学校にも行っていたヒルドが俺よりも戦闘に慣れているのは認める。けれど、俺と同じ向こうの世界から来たチェリーは、俺どころかヒルドよりもモンスターと対等に戦っていた。
 俺はこの世界に来て何度かモンスターと戦う事があったけれど、どれも運で乗り切っている感が否めない。きちんと訓練を受けようとしたこともなく、暇があればゼストと剣を交えていたチェリーが積み上げた経験値に、心構えも実力も雲泥うんでいの差がついてしまったようだ。

「凄いね、チェリー。これもお願い!」

 ヒルドがモンスターにダメージを与えつつ、チェリーの前へと誘導する。その途中で俺が少しだけ剣を加えて、最後にチェリーでとどめを刺すというパターンが数をこなすうちに出来上がっていた。

 けれど、運が良い状況がひるがえるのは一瞬だ。
 バタバタバタと羽音がして、一羽二羽と姿を現した敵があっという間に空を黒色に塞いでしまう。
 ジーマではなくシーモスだ。
 木々の立ち並ぶ山道さんどうを囲む高い木々の葉を突き抜けて、何十何百という数が一斉に俺たちを敵だと定める。

 「うわぁ」という悲鳴も、鼓膜を塞ぐような羽の爆音に掻き消えてしまう。
 単体ならば大したことはないけれど、その数に驚愕したヒルドは「これは無理だよ」とゼストに渡された照明弾を早々と取り出した。
 しかしチェリーがそれを止める。

「まだ戦えるでしょう? ジーマじゃないのよ?」
「こんなにいるのに? これは僕らの危機と言って過言じゃないよ」

 慌てふためきながら空に構えた筒を、チェリーが力づくで奪ってヒルドの胸に突き返した。

「まだ別れてそんなに時間は経っていないでしょう? 下はもっと過酷なはずよ。私たちがこれくらいで助けを求めてどうするのよ」
「このぐらい、って」
「貴方は剣師なんでしょ? 自分で言ったんじゃないの? 絵の描ける剣師だって」
「そ、そりゃ言ったよ。本当のことだからね」

 チェリーにたしなめられて、ヒルドは「もぅ」と照明弾をふところにしまった。
 ヒルドの中の意識が少しだけ燻ぶられて、構え治した剣がシーモスに向く。

「僕が死にそうになったら、ちゃんとリトさんの所に届けてよ」
「もちろん」

 薄く笑みを浮かべてチェリーが剣を振り上げると、間合いを測っていたシーモスたちが一斉に鳴いて襲い掛かってきた。

 これが現実の戦いだと実感させられる。
 覚悟を決める余裕は与えられず、アニメのような前振りも激しいBGMが鳴り出すこともなく、淡々と敵を倒していくのが今俺たちに与えられた使命だ。

 「うわぁあああ」と闇雲に突進するヒルドと、一体ずつ確実に切り落としていくチェリー。
 そんな二人の後ろで、俺は鋭く突き付けてくるシーモスの口ばしから逃れることが精一杯だった。
 美緒は少し離れた位置で待機している。そこに攻撃が及んでいないのは幸いだ。

「この野郎!」

 ブン、と俺は剣を振り回す。数が多いせいでまぐれ当たりすることもあるが、それだけで敵の数は減らなかった。
 肉を切る感触も血生臭さも、気付くとすっかり慣れてしまった。

「これ全部倒したら、盛大にパーティができるわね」

 チェリーはそんなことを言う余裕さえ見せる。
 シーモスの肉が美味いことは俺も知っている。けれど今俺を口ばしで刺し殺そうとしている敵は、きっと俺のことも食料に見えているのだろう。

「ヒルド?」

 ふとその姿がないことに気付いてチェリーが辺りを探すと、ヒルドは俺たちから大分離れた位置でシーモスに囲まれていた。
 接近戦を仕掛けるシーモスの群れに間合いを空けて、どんどん距離を広げてしまったようだ。

「ヒルド、もっと回って!」

 チェリーが張り上げた声も、羽音の中で一心不乱に剣を振るヒルドの耳には届いていない。
 そんな二人のやりとりに目をやった俺の右肩を、一匹のシーモスの口ばしがかすめた。
 「ぐわぁ」と短く叫んで患部を左手で押さえると、てのひらにねっとりと血の感触がにじむ。

 俺の負傷が美緒を戦闘に引きずり込むことを懸念して、俺は必死に痛みをこらえたが、片手で剣を振る腕が一打ごとに悲鳴を上げた。

 本当にこの戦いは終わるのだろうか。
 一体ずつ倒していったところで、減るどころか仲間を呼び寄せて増えているような気さえする。

 魔法師がいたら視界の敵を一発で消すことができるのだろうか。
 これは俺たちの危機だと思えるのに、戦い続けるチェリーに遠慮して照明弾の紐を引くことを躊躇ためらってしまう。

 そんな油断が致命的だった。
 シーモスが勢いよく俺の右腕に体当たりしてきて、剣が弧を描いて地面に落下してしまったのだ。しゃがみ込んでそれを拾う余裕はない。

 「佑くん!」と美緒が悲鳴を上げた。
 駆け寄る姿が目に飛び込んで、俺は「ダメだ!」と大声で叫ぶ。

 俺は限界だった。
 照明弾を取り出して、片手で紐を握りしめる。ふと思いついた作戦は、自分でも良いアイデアだと思う。 
 雷ではないけれど、これが照明弾だというなら威嚇いかくできるかもしれない。
 これがダメならきっと死ぬ。

「うわぁぁああ!」

 俺はわらにもすがる思いで、筒の先端をシーモスの群れへ向けて紐を引っ張った。
 ヒュウ! とロケット花火よろしく、キンと高い音が羽音を突き抜ける。
 
 ドン、と俺に衝撃をよこして、白い閃光が黒い闇を切り裂くように真横へ駆け抜けていった。
 ギャアと鳴いたシーモスたちは、一斉に羽を大きく羽ばたかせて空へと舞い上がる。

「やった」

 攻撃がやんでシーモスたちを仰ぐ。
 勝利を確信した俺は、ホッと気が抜けてしまったらしい。肩に負った怪我のせいか、ふと眩暈めまいが起きて、ふらついた身体が数歩後退する。立て直そうと最後の一歩を踏み込んだところで、急に低くなった地面に足を取られた。

 自分の生を実感した数秒後のことだ。
 仰向けにかしいだ身体を支え切れず、俺は再び全身で死を予感した。

「佑くん!」

 遠くに聞こえた美緒の叫び。
 斜面に打ち付けられた背中。痛みも感じられない程一瞬で俺の意識は途切れてしまった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...