貧乳世界の魔王が作った巨乳ハーレムに入ってしまった幼馴染を連れ戻すために、俺は異世界へ旅立つ!

栗栖蛍

文字の大きさ
156 / 171
13章 魔王

156 元老院の意向

しおりを挟む
 鋭く光る青色の瞳は、俺を見て笑ったような気がした。
 俺の身長より少し高い木がふもとへの景色をさえぎるように並んでいて、ふと途切れた50センチ程の隙間からバスケットボールサイズの大きな目が俺を覗いていたのだ。

 悲鳴を上げることも逃げ出すこともできずに、俺は寝ころんだ姿勢のまま恐怖に飲まれて硬直していた。
 詰まりそうになって無理矢理飲み込んだ息を、ゆっくりと吐きだしながら相手の名前を口にする。

「ワイズマン」

 そのかすかな音を拾って、青色の竜は「ウォォン」と低い唸り声を響かせた。
 葉の隙間からヤツの青い鱗が覗いている。

「偽りの王の弟か」

 エコーをかけたように響く声。
 彼はドラゴンのまま人間の言葉を話すことができるらしい。クラウやメルを取り込んでいた時はその相手の声を出していたが、ドラゴンの姿に戻ったワイズマンの声は、どこかの映画俳優を彷彿ほうふつとさせるダンディで渋いものだった。

 またズルズルと腹を土に滑らせて、ワイズマンは少しの沈黙を見せた。
 細められた瞳は弱々しい光をまとっていたが、俺を離れようとはしない。
 やがて、

「お前は死ぬのか?」

 そんな事を言って再び目をこじ開けたのだ。
 彼はメルを取り込んだ時に、彼女の力ずくの脱出で負傷している。
 治癒効果があるという温泉水を浴びて逃げ出すことができたものの、ここで力尽きてしまった感じだ。
 だから俺たちは同じ状態にあるのかもしれない。

 さっき照明弾が空に放たれてからどれだけ経っただろうか。助けは速攻来るものだと思っていたのに、空しいくらいに反応が起きない。
 よくよく考えると、戦闘中の魔法師がすぐに駆け付けられるとも思わなかった。

「俺は、絶対に死なない」

 声を強めて訴えると肺の辺りにズンと響いた。手足は動かないのに、臓物ぞうもつの痛みは分かりやすく単純だ。

「うわぁぁっ」

 悲鳴さえもか細い。
 けれど窮地きゅうちに陥った俺に手を差し伸べるように、目の前で煙がボンと大きく弾けたのだ。
 魔法師の現れる合図に俺は勝機を掴んだ気になって喜ぶが、ワイズマンはチラと横目に煙幕を見据えただけで警戒する様子もなかった。
 俺はリトか彼女の父親のマーロイを期待した。とりあえず自力で動けるようにしてほしかったからだ。

 まず足元のモヤが晴れてリトの黒タイツの足を予想したが、そこに現れたのは白い着物の裾だった。
 白装束は元老院が着ているものだ。
 まさかのハイド登場かと緊張が走ったところで、すぐにその人物が正体を示す。

 太い三つ編みを胸の前に垂らした少女が、茶色の目を俺に向けて鬱陶うっとうしそうに溜息をついた。

「ミーシャ」

 虫の息で彼女を呼ぶと、ミーシャはいつものように仁王立ちのポーズをとって、ワイズマンと俺を交互に見つめた。

無様ぶざまね」

 ボソリと言い捨てた彼女に苛立ちを覚えたが、どうすることもできない。

「他の魔法師たちはモンスターと交戦中よ。照明弾が上がって、私がハイド様に指名されたの」

 やはりそういうことらしい。

「照明弾を撃ったのは貴方ではないようね。位置がずれているもの。けど、途絶えそうな意識を拾ってこっちに来たのよ、感謝しなさい」

 態度は悪魔のようだが、今は女神に見えなくもない。

「みんなは……無事なのか?」
「みんな? 貴方がどう思ってるのかは知らないけど、貴方の周りにいる魔法師は、この世界じゃ最高峰の魔力の持ち主たちなのよ? 親衛隊の三人も、クラウ様もね。あれくらいのモンスター相手に、そんなに簡単に殺られる人たちじゃないのよ」

 今目の前にいるドラゴンが親衛隊の二人を一瞬で倒したのは例外だろうか。
 セルティオの猛攻でゼストが負傷したのも記憶に新しいが、今は彼女の言葉を信じるしかなかった。

「なら、良かった」

 俺が微かに息を吐き出して安堵すると、ワイズマンが不機嫌なミーシャに「お前は誰だ」と尋ねた。

「貴方に説明が要るかしら」

 元老院はワイズマンの功績を汲み取って、彼との戦いに加わらないと聞いた気がするが、ミーシャの態度を見ているとその意思を疑ってしまう程だ。
 冷たく言い放った彼女は、ワイズマンの顔の前まで詰め寄って再び偉そうに腕を組む。

「貴方はまだクラウ様を認めようとはしないんですか? あまり頑固なことを言うのなら、このまま私の手で葬ることだってできるんですよ」

 大分上から目線で言い切った彼女は、「けど」と呟いて俺とワイズマンのちょうど真ん中へ移動した。
 彼女のからの右手が、頭上へと高く掲げられる。
 その掌から強い放射状の光が四方に放たれて、周りの風景が一変した。
 背景が光に吸い取られて、視界には俺たち二人とワイズマンの身体だけが残った。遮っていた木々も消え、ワイズマンの身体が尾の先まではっきりと露出する。

「何する気だ?」

 俺が問うと、茶色の瞳がキリリとワイズマンを睨んだ。

「ワイズマン、貴方にはきちんとクラウ様を理解して、納得してもらわねばなりません」

 その言葉の意味を彼女ははっきりと口にはしなかったが、俺は鉛のように重かった身体が少しずつ軽くなっていることを実感して、「ちょっと」と慌てて目を見開いた。

「やめろよ!」

 思い切り叫んだが、もう全身に痛みは感じなかった。
 光を浴びることで傷がえていくのが分かった。
 彼女にこんな力があるのは意外だが、元老院の奴らの力が底知れないものであることは知っている。
 いやそれよりも俺は、今目の前で起きていることが信じられなかった。

「なんで、そいつを助けるんだよ」
「これは元老院の意向よ」

 手中の光を空にそっと投げて、ミーシャはまた腕を組んで淡々と言い放つ。
 つまり、彼女の放った光で回復したのは俺だけじゃなかったという事だ。
 土の上にべったりと落ちていたドラゴンの顔がゆっくりと持ち上がり、青い瞳が生気を宿して俺を睨んだ。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...