貧乳世界の魔王が作った巨乳ハーレムに入ってしまった幼馴染を連れ戻すために、俺は異世界へ旅立つ!

栗栖蛍

文字の大きさ
168 / 171
最終章 別れ

168 赤い光

しおりを挟む
「ダメよユースケ!!」

 背中にメルの声が聞こえたけれど、俺は注意を無視して戦闘中の二人へ突進していった。

『即死さえ免れれば、治癒師の力で復活できる』

 頭の隅にゼストの言葉が蘇る。
 けれど俺ははっきり言って死ぬかもしれない。親衛隊ですら瀕死に追いやったワイズマン相手に、ド素人の俺が即死を免れようなんて考えは甘い気がした。

 こっちを振り向いたワイズマンの手が、俺を狙ってまっすぐに伸びた。広げられた掌に青い光が浮かび上がる。
 俺が咄嗟とっさに構えた剣など、魔法相手に意味はない。
 容赦なく放たれた光は、俺の良く手を阻むように濃い青で視界を塞いだ。

 全力で走っていた俺には、目前に迫った光を避ける余裕なんてなかった。
 あまりにも一瞬の出来事で、自分の状況をはっきりと自覚できたわけじゃない。ただ、青い光に包まれた瞬間、クラウが俺を呼んだ気がした。

 痛みなど感じなかった。
 一瞬で世界は暗転し、激しく轟いていた戦闘音が耳から遠ざかっていく。

「ユースケ! ユースケ!」

 ただその声だけはぼんやりとした音で俺を呼び続ける。
 俺はまた死んでしまったのだろうか。
 緋色の魔女にやられた時と同じ感じがする。あの時はコーラと引き換えにクラウから事前に掛けてもらった魔法で生き返ることができたが、今回それはない。

 大した考えもなしに戦場へ飛び出した俺は、二人に辿り着く前に終わってしまったらしい。
 あまりにも呆気あっけない最期に、乾いた笑いを吐きたくなる。

 俺がこんな目に遭う事で、クラウが赤く変身してくれればいいと思う。
 そうなるために飛び出してきたのだから。
 諦めと希望の両方を同時に味わって深い闇へと沈もうとすると、俺の思考を逆らってふと視界が開けた。

「えっ……」

 青い空が見えて、次に涙いっぱいのメルが逆光に顔を陰らせて俺を覗き込んでくる。

「ユースケ、死なないで」
「メル……」

 俺はまだ死んでいないようだ。けど、身体の感覚は消えていた。
 まだ生きてはいるけれど、そこにはまだ治癒師の姿はない。

 すぐ側にメルがいて、その向こう側には悲しみの叫び声を上げて泣くヒルドがいた。
 頭の下が柔らかいのは、小さなメルが膝枕をしてくれているかららしい。どうせなら泣き顔じゃなく、お互い笑顔でそうしていたかった。

「ユースケは俺が治す」

 そう言って近付いてきたクラウを、俺は「やめろ」と拒否した。

「こんなことに魔力を消費させるなよ。怒れよ。暴走したらアイツに勝てるだろう?」

 クラウはまだ元のままの姿だった。かろうじて瞳の色が赤く色付いたように見えるが、髪は黒いままだった。

「泣いてるのか?」
「そうじゃないよ」

 クラウははっきりと否定するのに、頬を伝った涙は隠せない。
 最初魔王に会った時に思った、その肩書とは真逆の優男っぷりはまだまだ健在だ。
 この世界を知る前に俺が思い描いていた魔王は、もっと冷徹で極悪人みたいなやつだった。
 
「泣くなよ、兄貴。怒ってアイツをぶっ倒せよ」

 そういえば、初めて兄と呼んだ気がする。
 再び暗くなる視界の隅に、赤い光が見えた気がした。
 けれど、もうそれを確認することはできない。

「美緒を頼む」

 俺が死ねば美緒が向こうの世界へ帰れなくなる。それは一番の心残りだけれど、この世界にならと思えてしまう。

 どうかこの世界が救われますように。
 俺は祈りながら、混沌とした闇へと意識を委ねた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...