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Episode4 京子

149 私が犯人です

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 モニターの向こうに現れたのは、桃也とうやだった。
 見慣れぬスーツ姿で演台に立つ彼に、四人があっと息を呑む。
 今から会見があると言われて待っていたが、彼の登場は予想外だ。

「これってライブですよね? って事は海外って事ですか?」
「桃也さん今カナダだった筈だよ。一般の人は見れない内部的な放送だとは思うけど……」

 答える綾斗あやとに、京子はぎこちなく相槌あいづちを打つ。
 数日前に共有のスケジュールを見て、向こうに居るのは知っていた。

 彼の背後に並ぶ面々は外国人ばかりで、国籍はバラバラに見える。

「うわ、すげぇ美人!」

 右端に立つ金髪女子に修司がテンションを上げて、美弦みつる肘鉄ひじてつが容赦なくみぞおちを狙った。クリティカルヒットに「ぐはぁ」と地面へうずくまるが、この間の握手会の後では擁護する言葉も見つからない。

「修司は何でも口に出し過ぎなんだよ。自業自得」

 止めを刺す京子に「そうよ」と同意して、美弦は不機嫌にそっぽを向いた。

「美弦も大変だね」

 なだめる綾斗の声にモニターからマイクのキンと言う音が重なって、四人は再び桃也に目を向ける。

 桃也は少し緊張しているように見えた。彼の着ている服は制服のようだが、京子たちキーダーの物とは形が少し違っている。
 桃也は周りと幾何いくばくかのアイコンタクトを交わし、軽く目を伏せた後カメラに向かって話を始めた。

「ちょ……」

 4台のパソコンから流れた彼の言葉に京子が戸惑ってしまったのは、それが英語だったからだ。「綾斗ぉ」と向かいの席の彼に助けを求める。英会話が苦手な事は、綾斗も承知だ。

「まだ挨拶ですよ。難しい事は言ってないと思いますけど……」
「じゃあ私が通訳します!」

 美弦が張り切って手を上げる。東黄とうおう大1年の彼女は「英語得意なんです」と胸を張った。

「京子さん、英語苦手なんですか? 高校は二人と同じ東黄なんですよね? 俺より頭良いのに」
「紙のテストならまぁまぁできるんだけど、ヒアリングになると全然駄目なんだよ。理解が追い付かなくて」

 「そこかぁ」と苦笑する修司。
 京子が「美弦、お願い」と手を合わせると、彼女は早速自信あり気な顔で桃也の声に耳を傾けた。

「えっと……うん、うん……」

 同時通訳ではなく、彼女なりに頭の中で言葉をまとめているらしい。

「……この発表を以て、日本のpresident……え、長官……ってこと? 桃也さんが?」

 けれど急に美弦が声を詰まらせた。修司も驚いているのが分かるが、京子には分からず「どうしたの?」と首を傾げる。

「えっと、サポートってことなんで、つまり……桃也さんが宇波うなみ長官の仕事を手伝うって事なんだと思います。そしていずれは桃也さんへ引き継ぐ、って」
「桃也さんが長官になるって事で良いんですか? キーダーなのに?」
「凄い、桃也さん!」

 興奮する二人を前に、京子は胸を押さえた。誠からまだ漏らさないようにと言われたのは、まだ彼が一般のキーダーで監察員だった頃だ。
 修司が言うように、アルガスのトップはノーマルだと思っている人が多いだろう。しかも桃也はバスク上がりだ。『大晦日の白雪しらゆき』で暴走を起こしたのが彼自身だという事実は、まだ公にはなっていない。
 
「知ってました?」
「うん、知ってたよ」

 綾斗に聞かれて、正直に答える。
 桃也がいずれは長官になると聞いて、彼に付いて行く事ができなかった。

「そうだったんだ」

 綾斗は眉を上げるが、発表自体に驚いている様子は見えない。彼もこの事を知っていたのだろうか。

「けど。桃也さんの事、上は隠し通すつもりなんですかね」
「私も同じこと思ってた。どうするんだろう」

 綾斗は眉をひそめた。
 『大晦日の白雪』の被害者である桃也が能力者だと知れ渡った今、当時バスクだった彼が暴走を起こしたと繋げるのは難しい事じゃない。

「あれ、けど桃也さん言ってませんか?」

 桃也のスピーチは続いている。顔はカメラに向いたままだが、視線が虚ろに漂っていた。
修司が美弦から引き継いで彼の話を訳す。

 それは『大晦日の白雪』の詳細だった。
 雪の夜に帰宅すると家族が血まみれで絶命していた事、そこに犯人が残っていた事──片言で呟いていく修司の声が震えている。
 桃也にとっての辛い告白に、京子は手の汗を握り締めた。

「家族を殺した犯人がナイフを振り翳してきて、私は暴走……って事ですよね?」

 確認する修司に、綾斗が「うん」と頷く。

「桃也さん……」

 美弦が祈るように手を合わせると、モニターの向こうの桃也はその真実をはっきりと告げたのだ。

『I am the culprit』
「私が、犯人です……」

 修司の声の後に沈黙が起きて、そこで映像は途絶えた。





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