かいせん(line)

たくひあい@あい生成

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relational concept

sound 2

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『ああ、何』
しばらくしてそいつが電話に出た。
昨日とは違い、淡白な態度。素っ気ない応対だが安心する。
「頼む、迎えに来てくれ」
俺は思い切って言う。
『なに、急に』
「此処、うるさくて、怖くて。いつも誤魔化すように聞いてた音楽も、機械がつかえなくて聞けないから……」
でも、一人でそれに耐えるよりはマシな気がした。
『また……』と呟くと彼は了承する。
『じゃ、そこに居てね』
駐車場の近くで待ち合わせ。なんかデートみたいだなと思いつつ
しばらく待って居るとやって来た。
黒いカーディガンを身につけていて、なんだか大人びている。


「よぉ」
軽く挨拶すると、彼はふわっと微笑んだ。
「ん」
軽く寝ぐせがついているのも、普段より皺の寄っているシャツも、急いで来てくれたんだろうと思うと何故か愛しい。

「今日、休みだよな。寝てた?」
「うーん、曲、探してて」
彼は曖昧に答える。
「何の曲?」
「洋楽?だと思う」
曰く、ある事件当時の曲で、そのときの真理が現れている可能性があるので、俺にも聴いて貰おうと思ったのだがいかんせん日本では流通しているところが少なく、手間取っているという。

「捜し方が分からないってだけの人結構いるし、本当にそういう場とか日本に欲しいよね。大体日本語タイトルだから、タイトルを英語で検索する人もあんまりいない印象だし」

「成程……」

さ、帰ろう。
彼が言い、俺も手を伸ばしたのだが、上手く身体が動かない。
「どうした?」
「だから。動くの、怖い。病院、苦手なんだよ……」
ときどき、どれが自分の心か分からないというか、
いろんな意識が頭の中で巡って、重くなってしまって、緊張と言うか、硬直してしまう。

ここから動きたくない、と言うとそいつはわかったと言って、少し距離を開けた。
「それなら。歯は、食いしばれよ」
「え?」

頭上に蹴りが飛んできて、とっさにしゃがんだ。
「ちょ、ここびょーいん!」
綺麗に伸びた足が、俺の腹部に向かうのを、身体を逸らしてかわす。

「だから?」
だからとは。
「手伝ってる。痛い間は、怖くないだろ?」

あ。本当だ。
意識が分散して、怖くないかも。

ひょいひょいとかわしながら、ここの客にはなりたくねぇと気合いを入れる。
やがて空気がざわついて、はっと我に帰った。
無意味に二人とも汗だくだった。

「帰るか」












真っ青な空の下、平日の昼間に歩いていると、あんまり人に出会わなくて
不思議な感じがする。
騒がしさの中に自分たちの平穏もあって、なんだか子どもの頃を思い出した。



「朝起きたら居なくてびっくりした。今日は、なにしてたんだ?」
歩いていると、色がニヤニヤしながら聞いてくる。
「軽いカウンセリング、みたいな?」
「あっそう」
あんまり興味が無かったのか、あっさりした答えだ。


すぐ目の前をグレーの髪の老夫婦が通りかかる。
品の良さそうな二人。寄り添い合いながら歩いている。
俺は思わずそちらを見た。
「どうかしたか?」
色が聞いてくる。
「いや……」
これは、俺にしか聞こえなかったのだろうか。
「なんでもないよ」
横に頭をふる。
そいつは、特に動じもせずに、ちらりとその二人の歩いていった後方を見つめ
た。

「今の人……」

色もまさか、気付いたのだろうか。そんなはずはと思いながら様子を窺う。
「仲良さそうで、いいな」
うっとりとそう言うだけだった。
羨望。なのだろう、何処か夢見心地な響きで二人の背中を見送っていた。





 それを見ていると、ふと昨夜の事を思い出した。
熱に浮かされたような表情で自分を見上げていた色の姿が
目に焼き付いて離れない。
 (あのままだったら……どうなっていただろう)
『触れられない』ということは――こんなにも苦しいものなのか。







 サイコメトリー能力を持つ俺にとって、相手との距離は命綱のようなものだ。
肉体的な接触が心の安定につながるのは事実だが……
反面、感情の多くを吸収してしまうかもしれない。
どんな感情であっても、それが強くなるほどにきっと俺は苦しくなる。
だから、昨日だって怖気づいてしまった。



「界瀬?何か考えごと?」
突然色が振り返る。
「いや」慌てて目を逸らす。「次の捜査案件のことだよ」

「ふうん?」
色が覗き込んできた。
ほんの一歩分だけ離れた肩の距離。
昨夜までならこの距離さえも我慢できなかったはずなのに――
今は何故か安心できる自分がいる。



「なあ、色」
「ん?」
「昨日は……悪かった」
色は目を見開いた。「何が?」
その柔らかな笑顔が胸を締め付ける。
病院の白い建物が後方に遠ざかる中で、俺の中で何かが破裂しそうになった。
突然足を止めると、色も驚いて立ち止まった。

「どうしたの?」
その。と言いよどむ。

 言いかけて気付いたが、こんな町中で、流石に言えない。気がした。
ほんの少し腕を伸ばせば届く距離で立ち尽くしていると

「そういえば、デートって最近してない」
少し拗ねたようにそいつは言った。
助け舟なのだろう。
「俺も、遊びたいけど……暇がないだろ」
「分解もさせてもらえないし。ストレスがたまる一方」
「暇が出来たらな」

「うん……おれの予知では、まだ、少しやることがありそうだ」
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