かいせん(line)

たくひあい@あい生成

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KAISEN

飯島? もちもち

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『貴方が好きだから!って、基本的にメンヘラの台詞だよ』

金持ちと好き持ちは似ていて、持てるだけ幸せという発想になる下層がある事に至りもしない。


■■■■

「だから『誰かの為に』、なんて理由で何かしてるやつとか見るとさぁ、こう、すごい腹立ってくるんだよ」
仁棟さくら。

彼女の言葉はいつも単純で、明快だ。
「そーいうの、めちゃくちゃにぶち壊してやりたくならない?
なんかこう、些細な、ちっちゃな親切を後悔するまで台無しにして、歪んだ顔を見たくてたまらなくなる。
それで『あたちの優しさをなんだと思ってるの?』とか馬鹿に批難されるとすごく気持ちいいんだろうなぁ。あぁ、気付かなかった!って言って」

「そうなの?」

「そりゃあ。なに言ってんだ、てめーはてめーの為に生きるんだろうが、なに人様を代弁した気になってんだよって。善行をすれば免罪符になるって思ってるのと一緒で、厚かましいっていうの? 
『ちょっと優しくした程度で罪は償えないよっ!ヴァーカ死ね』って教えてあげたくなるっていうの? やさしさ自慢?」


 ――――結局のところ、彼女は何物にも縛られる気が無いのだ。
自分自身にすら。
そもそも、自分自身なんかあったのだろうか?
あったのかもしれない。あったらなんだというのか。
あの時代、あの場所に『それを大事にする必要があると教わった子どもがどれほど居たのか?』


あの年で、あの環境でそんな事を自覚したら俺たちは死んでしまう。

「飯島もさぁ、そう思わない?」
彼女は、俺を見つめて笑う。
全てが道具。心、身体、世界。
何もかもが道具の世界で、俺のこともまた、
「……飯島?」

飯島? 
俺は、そんな名前だっただろうか。





2000年代初頭、掲示板を中心に深夜に現れる飯島という男がいる。
彼は、oku-raというIDで元々はオクラと呼ばれていた。


様々なコミュニティに現れ、『自分を煽っている』と感じた書き込み主に実際に会いに行っては夜な夜な殺害しているらしい――というもの。 
この事件が大きな反響を持って広まった背景の一つに遺体画像の添付がある。

なんとこの飯島、殺した相手の写真を撮っては、毎回スレ立てしていくという趣味を持っていたのだ。
街の写真、殺害相手の後ろ姿、血の滴る床の写真。遺体の一部と思われる指や足の切断写真。
しかし、そのネタでスレが5つくらい立てられた後に、収束。
フェイク画像だ、ホンモノだと議論は何年も続いて、結局真相は定かになっていない。
(飯島……まさか、アレじゃないよな?)


「なにボケッとしてるの、血塗れなんだからシャワー浴びて、着替えて来たら?」

飯島、と彼女は俺を呼ぶ。
何故?と問いたいところだが、服は確かに血塗れで汚れていて、指先にも力を入れた後のような、血の気が少しずつ引いて戻って行くあの感覚が残っている。

「あ、お腹空いてる? 冷蔵庫に餅が入ってた気するよ。どっかのお土産。ギャハハハ」

餅の発音がツボに入ったのか、ベッドの上で笑い転げている声が、虚しく反響する。もちもち、もちもち、もちもち……


「シャワー浴びてくる」

俺はそれだけ答えて、シャワールームに向かう。













 



蛇口を捻りながら、ぐちゃぐちゃした思考を遠くに投げる。

もちもち、もちもち。
 ドアの向こうから、もちもちソングが流れて来る。
お湯を浴びながら目を閉じて、それを聞き流す。

(はははっ……)

こんな状態じゃなきゃ、思いもしない。

自分を大事にしよう、好かれよう、なんて時間の無駄。考えても無意味。
此処に居るのは
部品なんて何かを目指す意思ある物にすらなれない、志向性すら定まらない。ただ漂っているだけの、名前の無い何か。

それでも、捕まりたくないから風呂に入ろうと考える程度の知恵はあって、奴もそうなんだと。
(好き持ち……か)




 よく発達障害者が、主語の無い会話を読み取るのが苦手と言う話があるけれど、健常であっても幼少期に正しい知識や感覚を身に着けていない場合に
感受性の欠如、遅れなどの近い状態の症状が現れるという話がある。

(結局のところ、これもただ毎日、主語の無い言う事を聞かされているという責め苦のようなものなのかもしれない)

好きという透明な感情を一方的に理由として指示され、
「具体的に何なのか?」 「どうしてその感情が重要なのか」を考えても、
そこにはただ、自分達が独自に持つ事だけは許されないという、圧倒的な事実だけが残っている。

言い換えるなら、自力でその問いを考える環境すら残っていないから、
こうやって酷使しているのかもしれないが。



『―――て言うか自分っていう敬われるべき存在!が、あえて感情をさらけ出すことで相手をコントロールしてやろって感じ?
承認欲求?キモ。そんなだから自力で動けないんだよ』

殺しなんて簡単なのにね、と彼女は笑う。
俺は何も返さない。
何か言えばいいのか、わからなかった。


いや、そうじゃない。

(俺は、此方側だったのか?)
確かに身体中から、血の匂いがしている。
でも、記憶が無い。覚えていない。
……いや、少し、そうだった気もする。

此処から出てドアを開けて、平静で居られるだろうか?










「もちもち、って言えばね、まどかがこの前、事件を盗撮してた中に居たらしいんだけど、
その分際で最低な事を言っていたのよ。仲間に入れて貰えないから自分を傷つけるんだろうーとか。ばっかじゃないの? アハハハハ!! 
そんなわけ無いのに。悪口だよね。ウケる。

てかさ、まどかって社不の癖になんで現場盗撮して流す役を平然としてんだろ? あれ訴えられないのかな」


2026年2月8日4時12分
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