70 / 349
Skeletal structure
Skeletal structure
しおりを挟むまだ肌寒い日。
「あーあー。ストーブ。どうすんだよ……」
部品たちの真ん中に座り込んでいると、背後で、嘆きの声が聞こえた。
いつの間にか、仕事から帰ったらしい界瀬がドアの向こうに立っている。
このアパートは玄関を開けてすぐ部屋に直結するのだから、ふすまを開けて居ればすぐに中の様子が見渡せてしまう。あまり隠し事には向かない。
「俺が買った。問題ない」
「あるにはあるよ……」
また買えば良い。特に趣味も無いし、給料はまだ残っている。
そう主張すると、彼は「愛着って、知ってるか?」と謎の質問をした。
「知ってるけど?」
もういいよ、と、彼はあきらめたように部品を纏め始める。
「……? おかえり」
座り込んだまま、とりあえず、帰宅をねぎらう。
「はい。ただいま」
彼は彼で、苦笑しながら返事をする。
「なぁ、どうして、こんな狭いところに住んでるんだ? 界瀬の――――」
「実家のこと? やだやだ、この能力もあるし、あそこに居たら神様の生まれ変わりだか、妖怪の生まれ変わりだか言われる」
界瀬の家は、霊能力を使った占い師をしている大きな家だ。
資産もあるらしい。
だけど、彼は好んでこのアパートに暮らしていた。
「カッコイイじゃん」
「バーカ。そんなもんに人生を縛られるのはごめんだ、俺は俺のやりたいことを、俺の意思でやりたいんだよ。それは生まれ変わりだので、変な商売することじゃない。生きている証は自分で見つけなきゃ。あと職場に近いからだよ」
生きている証。
生まれ変わり、という称号は、彼にとっては、俺にとっての雪だったのだろう。ビリビリに引き裂かれて、幾度となく否定され続ける自分の存在の証。
「なんかそういうこと、あったの?」
「あったあった。生まれ変わりなんだから暴力は駄目! とか、殺生は駄目!とか、好き嫌いは駄目!とか、段々後半馬鹿みたいになってくるの。俺は俺だっつの。蚊も殺せないとか無理」
「ふうん……」
「卑怯な手口だよな。勝手に期待して、勝手に背負わせて、そいつの人生を認めてくれない。そりゃ、理不尽に死んだ人は可哀想だと思うし、遺族も可哀想だけど。
生まれ変わりなんていくら信仰したって、死人にしがみついてるだけだろ。気色悪い。何が解決するんだよ。そもそも遺伝子が違ってるんだから、真面目に考えて生まれ変わりなんて存在しない。
生きてる奴がそうやって他人を使って、死者を貶めて、恥ずかしいと思う」
生まれ変わりが存在するなら、もう誰も生まれなくていい。
「宗教家は、騒ぐだろうけど」
「わかってるよ。それでも、生まれ変わりに人生を奪われたくない」
「そっか」
界瀬の言葉が途切れると、また足元を向いた。
辺りにはストーブや、もはや原型が何かもわからない部品が転がっている。
それらに埋もれていると、再び良い気分が沸き上がってきた。
これらを見下ろしていると、イライラがどこかに消えていく。片付けなきゃいけないのはわかっているけど、片付けたらまたイライラしないといけない。
ありとあらゆるものが、バラバラになるのを見て、粉々になっているのを見て、世界は所詮、集合体で、人間なんかほんとは何処にも居なくて、みんな、何も、何処にもなくて、そんな空想を、よくする。
人間もタンポポの花のようなものなのだろう。何人かが旅立って、でもどこかでまた集合体になる。
何もかもが部品になり、ただの存在になる世界があったら、きっとすごく落ち着くのだろうと考えて、頬が緩む。
「ふふふふ……あはははは」
『あの人』の、あの笑顔が、俺を見降ろし続ける。
ずっと、見降ろし続ける。
雪はどんなに強く握り締めて形作ったって、焼き払えばただの水。
ただの、一片に過ぎない。人間の体内のほとんどが水だというのだから、結局のところ、これと似たようなものなんだろう。
「アハハハハ!!!!! アーーハハハハハハ!!!!」
誰かが、自分自身を呼んでくれたことなど無い。
たった一片の紙切れすら、残らない。
欠片でも、ほんの少しでも良かった。
俺のものである何かが、一滴でも、残るなら。
奪って、全部取り上げて廃棄されてしまうか、
奪って晒して、全部利用されてしまうかの違いしかない。
「色」
0が残るまで、続ける。
0は唯一の存在なんだ。
「いーろちゃん! おーい!」
――――それは、誰なんだろうな。
2022年6月18日2時26分
0
あなたにおすすめの小説
守り守られ
ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師
患者 瀬咲朔
腸疾患・排泄障害・下肢不自由
看護師
ベテラン山添さん
準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん
木島 尚久 真幌の恋人同棲中
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※この物語はフィクションです。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。
■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とスタッフ達とBL営業をして腐女子や腐男子たまに普通のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ/Ⅱ
MITARASI_
BL
I
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。
揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。
不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。
すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。
切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。
Ⅱ
高校を卒業し、同じ大学へ進学した陸と颯馬。
別々の学部に進みながらも支え合い、やがて同棲を始めた二人は、通学の疲れや家事の分担といった小さな現実に向き合いながら、少しずつ【これから】を形にしていく。
未来の旅行を計画し、バイトを始め、日常を重ねていく日々。
恋人として選び合った関係は、穏やかに、けれど確かに深まっていく。
そんな中、陸の前に思いがけない再会をする。
過去と現在が交差するその瞬間が、二人の日常に小さな影を落としていく。
不安も、すれ違いも、言葉にできない想いも抱えながら。
それでも陸と颯馬は、互いの手を離さずに進もうとする。
高校編のその先を描く大学生活編。
選び続けることの意味を問いかける、二人の新たな物語。
続編執筆中
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
「普通を探した彼の二年間の物語」
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる