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kangaroo court
宿り木
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「そこまで、わかっていて何故……」
皐さんは言う。
手元には数枚の書類がある。
内容は……簡単に言えば人身売買に関わるものだ。
裏で実権を握っている医療機関からのもので、研究に協力してほしいと書かれている。
違法な戦争開発の噂もあって――たぶん、碌なことにならないだろう。
「失敗してほしかったから」
俺は、短く答える。
どんなに探して、求めても手に入らない、取り返しのつかない失敗をしてほしかった。
一生苦しめられる悪夢を、彼等にも見せてあげたくなった。
「何度やったって、彼らの実験は失敗するよ。だって、気付いてないんだ」
「気付いてない?」
「意識は生体の中にしかないし……
ーー俺の身体も宿り木に過ぎない」
2024/12/1317:00
◆■◆
ゆき……
雪……
しろい……
廊下の奥で悲鳴が上がった。
ヨーちゃんのものらしい。
「おさかなが!」
慌ただしく走る音がして、ヨーちゃんが向かってくる。
しばらく隣で黙っていた瀬戸さんが立ち上がり、どうしたのか尋ねると、ヨーちゃんが拙い言葉で語った。
台所で飼っているおさかなが、急にぐるぐると回り始めた。見ていると、大きく口を開けて藻掻き出した。
その動きがまるで人間が喋るようにも見えて、あまりの不気味さ、異質さから思わず悲鳴を上げたという。
「え、酸素かな? ひれが引っかかったか……? とりあえず、見に行くか」
瀬戸さんが立ち上がった時だ。
バチン、と重たい音がして、部屋中の電気が落ちる。
「停電かよ……」
懐中電灯を、と各々が探す間に今度は廊下の途中にある戸棚がガタガタと大きく揺れだした。
「な、なんだ?」
誰かが不思議そうに声を上げる。
誰かがブレーカーを見に行き、或いは誰かは台所へ向かう。
俺は、その場で暗闇の中に目を凝らしてみた。
廊下に積み重なって置いてあるダンボール箱『愛媛みかん』『靴のラキ』のすぐ横に人のような何かがぼんやりと視えている。
(あれは……)
少年のような少女のようなそれは、角などは無く、俺たちと同じ人間の形をしていて、俺を静かにじっと見つめているようで――――
電気はついていない筈なのに、不思議とそれが感じ取れた。
「……こんにちは」
俺は何処かに向かって挨拶する。
返事は無い。
けれどなんとなく、何か喋っているようでもある。
「――心配、してくれてありがとう」
「さて、と」
と廊下の奥を見つめる。
日が暮れて来てるのもあってほとんど暗い。
感覚を頼りに、ヨーちゃんが曲がった方へと歩く。
何事も無ければ良いのだが。
(確か、おさかな……と言っていたっけ)
状態にもよるが、熱帯魚は繊細だ。
酸素は勿論、ヒレが絡まったり病気でちぎれたりした場合、その多くが長く持たずに弱って死んでしまう。泳げなくなることが命に直結する為だ。
――――もし魚が死んだりしたらなんて言おうか。と思ってみる。
死んでいるね、と思うと思う。
「いや……寄り添った方が良いのかな」
だけど、悲しいねと言われて、世間一般的には悲しいという事にびっくりしてしまう、というのもあり得る。
俺にもよくあった。
その言葉自体が理解の範疇を超えて居て、悲しいの定義が独自で習得出来ず恐怖から叫びだしたのだが――――
その言葉が、感情の刺激が受け止められない事が更にあの人の怒りを呼ぶ。
『なぜちゃんと聞かないのか』と言った。聞かせようとした。
受け皿の無い、昇華した事の無い感情が
ただひたすら重くて、理解が出来なくて
ベビーシッターをやっているわけじゃ無いのだと悲しませてしまった。
「……受け止める、か」
家の中、というのは気が籠りがちだからなのか、こうしていてもどことなく嫌な事を思い出すなと、こうして時間が経っていくうちに考えてしまう。
あの紙が残って居れば、何冊分になったんだろう。
どれだけの重みだっただろう。
俺は何か、漠然と感情のようなものを習得していたかもしいれない。
「とりあえず……様子を見て、何か言っても良さそうだったらそうしよう」
皐さんは言う。
手元には数枚の書類がある。
内容は……簡単に言えば人身売買に関わるものだ。
裏で実権を握っている医療機関からのもので、研究に協力してほしいと書かれている。
違法な戦争開発の噂もあって――たぶん、碌なことにならないだろう。
「失敗してほしかったから」
俺は、短く答える。
どんなに探して、求めても手に入らない、取り返しのつかない失敗をしてほしかった。
一生苦しめられる悪夢を、彼等にも見せてあげたくなった。
「何度やったって、彼らの実験は失敗するよ。だって、気付いてないんだ」
「気付いてない?」
「意識は生体の中にしかないし……
ーー俺の身体も宿り木に過ぎない」
2024/12/1317:00
◆■◆
ゆき……
雪……
しろい……
廊下の奥で悲鳴が上がった。
ヨーちゃんのものらしい。
「おさかなが!」
慌ただしく走る音がして、ヨーちゃんが向かってくる。
しばらく隣で黙っていた瀬戸さんが立ち上がり、どうしたのか尋ねると、ヨーちゃんが拙い言葉で語った。
台所で飼っているおさかなが、急にぐるぐると回り始めた。見ていると、大きく口を開けて藻掻き出した。
その動きがまるで人間が喋るようにも見えて、あまりの不気味さ、異質さから思わず悲鳴を上げたという。
「え、酸素かな? ひれが引っかかったか……? とりあえず、見に行くか」
瀬戸さんが立ち上がった時だ。
バチン、と重たい音がして、部屋中の電気が落ちる。
「停電かよ……」
懐中電灯を、と各々が探す間に今度は廊下の途中にある戸棚がガタガタと大きく揺れだした。
「な、なんだ?」
誰かが不思議そうに声を上げる。
誰かがブレーカーを見に行き、或いは誰かは台所へ向かう。
俺は、その場で暗闇の中に目を凝らしてみた。
廊下に積み重なって置いてあるダンボール箱『愛媛みかん』『靴のラキ』のすぐ横に人のような何かがぼんやりと視えている。
(あれは……)
少年のような少女のようなそれは、角などは無く、俺たちと同じ人間の形をしていて、俺を静かにじっと見つめているようで――――
電気はついていない筈なのに、不思議とそれが感じ取れた。
「……こんにちは」
俺は何処かに向かって挨拶する。
返事は無い。
けれどなんとなく、何か喋っているようでもある。
「――心配、してくれてありがとう」
「さて、と」
と廊下の奥を見つめる。
日が暮れて来てるのもあってほとんど暗い。
感覚を頼りに、ヨーちゃんが曲がった方へと歩く。
何事も無ければ良いのだが。
(確か、おさかな……と言っていたっけ)
状態にもよるが、熱帯魚は繊細だ。
酸素は勿論、ヒレが絡まったり病気でちぎれたりした場合、その多くが長く持たずに弱って死んでしまう。泳げなくなることが命に直結する為だ。
――――もし魚が死んだりしたらなんて言おうか。と思ってみる。
死んでいるね、と思うと思う。
「いや……寄り添った方が良いのかな」
だけど、悲しいねと言われて、世間一般的には悲しいという事にびっくりしてしまう、というのもあり得る。
俺にもよくあった。
その言葉自体が理解の範疇を超えて居て、悲しいの定義が独自で習得出来ず恐怖から叫びだしたのだが――――
その言葉が、感情の刺激が受け止められない事が更にあの人の怒りを呼ぶ。
『なぜちゃんと聞かないのか』と言った。聞かせようとした。
受け皿の無い、昇華した事の無い感情が
ただひたすら重くて、理解が出来なくて
ベビーシッターをやっているわけじゃ無いのだと悲しませてしまった。
「……受け止める、か」
家の中、というのは気が籠りがちだからなのか、こうしていてもどことなく嫌な事を思い出すなと、こうして時間が経っていくうちに考えてしまう。
あの紙が残って居れば、何冊分になったんだろう。
どれだけの重みだっただろう。
俺は何か、漠然と感情のようなものを習得していたかもしいれない。
「とりあえず……様子を見て、何か言っても良さそうだったらそうしよう」
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