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Messiah complex
桜の疑惑
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――此処は人気の無い山の中。
尚且つ、当時から不審がられた新興宗教が管理する土地となると、むやみに近付きたい人などいない。
こういった場所でなら、あの日、色が採取したあの瓶、あの中身を使えるんじゃないか。
匂いや、物質を溶かしていく酸にもとらわれず……
「桜が、どうかしたのか」
菊さんに聞かれてハッと我に返る。
「いえ。昔の事件のことで、もしかしたら、と思う事があって」
「もしかしたら、って?」
「ほら、あの、2000年代に入るかどうかくらいのときにあった、
女子高生行方不明」
菊さんが目を丸くする。
自分で言っていてなんだか寒気がしてきた。
「あの頃、やたらとバラバラ殺人が起きてるんですよ」
感情移入だとかそんなもんじゃない。
陰湿でグロテスクな感覚。
「関係がある、と?」
頷く。
「これまで俺の担当って基本的に、死体や情報の隠蔽に関するもの多かったんですよ」
特にサイコメトリの需要としては基本的にそういう目的が多い。
だからこそ日々正気を保つ術が必要だった。
そして、こんな考えに至ったのも――――
「……ウ」
手袋をつけて、近くの土を採集している菊さんが呟く。
「え?」
「カゲロウ……の話を、色が前にしていた事がある」
「カゲロウ……って、作家の?」
俺は恐る恐る口にする。
確か、女子高生行方不明事件の後話題になった作家の筈だ。
「あぁ。そして能力者にも作家は多い。界瀬の母親みたいな占い師とかな」
「……」
嫌な事を思い出した。頭を振る。
「昔、よくあの事務所にも来ていたらしい」
「……」
「――で、それと関係する話だ。数年前から特に近年。人種差別、障害者をネタにするビジネスが熱くなっているんだ」
彼は言う。
転売やスパイ行為への対策を考えつかなくなってきたクリエイターたちが新たな根城をかまえたのがマイノリティな市場だが……
そもそもその辺りは整備が追いつかず、国すらも触れようとしない部分だということを、『転売に使われないから』などと安易に捉える者があとを絶たないという現状もある。そして、その彼らが再び戦場を作り出す。
「お願い! 軌道に乗ったらやめるから」
などという問い合わせも数知れない。
そしてその軌道、とは差別の助長に他ならない……そんな日々が繰り返されてきた。
「その流れはうちにもきた。当時……まだ10年前は霊感商法なんてのも流行っていたから……超能力者の肩身は狭いなんてものではなかったから、かなりセンシティブな空間だったよ」
「だけど先輩たちや、藍鶴色が頑張って、能力者の居場所になるようにってモデレーター、慈善活動、情報収集……毎日動いてた。
表の世界に線を引いて通常の人の社会を優先しながらも、能力を持った彼らが動きやすいように、力を受け入れて社会に出てもやっていけるようにって」
「その時期、そこに、ちょうど便乗して現れていたのが、カゲロウなんだよ」
『人が居ないから』とかありきたりな理由を付けて、能力人種の差別に目を付けた。
最初は救いたいとか、体のいい事を言っていたんだが、能力者の社会進出の話には頼んでもないのに割って入って来て拒んだ。
――ごめんね、外に出してあげれないよ。
「そんな感じで常に先回りして仕事を妨害したり、残業してまで奪ったりと、まるで存在証明を奪っているみたいだった」
最初からそうするつもりだったかのように、謝るところから始まるのか、となんだかモヤモヤする。
「まぁ、そもそも別にあいつに権限は無いが、何故わざわざ伝えに来たのかは分からない」
「どころか、社会側は、表向き好意的に捉えている……という感じだな。それで本部側と断絶して……折り合いがつかなくなった」
俺の、知らない話だ。なのに、なんだか想像に難くない。
「色は曖昧な事を言ってたよ。プロモーションになるならいいのかなぁ、とか、内部へは入れない方がいい。妨害は許せないとか」
あいつもあいつで思う事はあったんだろう。
能力、超感覚的知覚に対する社会不安やアイデンティティへの不安が俺たちにどれだけ重要な事なのかも判らずに、ただ何度も、内部に来てまで、直に罵倒し続けてひっかきまわしていった……
その上に、社会に出す訳には行かないと言って止めに来たのか。
たまたま言ったことが常に当たっていて怒られた事。
何も悪くないのに触らないように言われる事も、生まれつき自由に創作活動が出来ない事も、事件の日に体調が悪い事。
理由のわからない感覚に支配されて、確かにある現実を見せられる事も。
何一つ本当にあるとは思ってない、そっち側の人間が――――まるで此方の立場を考えずに皆の前で「その為に」晒し上げた。
「奴らはその20年を平然と否定した。「助けを求めるような声を出して人々をおびき寄せているだけだ」と、自分達の行いを隠蔽する為に、無かったかのように」
――――皆の前で本を読めないんだ。
――――俺も。
「女子高生が行方不明になったのは、界瀬が来るよりちょっと前だ。色は、あいつが関わっていると思うと言っていたよ」
カゲロウが?
菊さんの話す横で、俺はふと思いつき、端末を手にする。
そして知り合いに電話をかけた。
「うん……うん。今山に居るんだけど……うん」
「聞いてた?」
菊さんの珍しく呆れた声。
通話を切りながら俺は言う。
「夏々都君。テレビにカゲロウが出ていた頃の事件、毒物や山に関連したものについて聞いてみたんだ」
夏々都君は知り合いの高校生。
自伝的な記憶を長期間忘れられない体質を持つ。彼自身も苦しんで居る事が、テレビなどを席巻したせいで間接的に晒されるような思いをしたという。
『宗教が関連しているかは分かりませんが……あの。その辺は事件っていうか、権利を所有してるわけでもない道路で他の車を立ち退きさせた、追いかけて近付かせないようにする話は結構聞きますね……
近くで生き物が不自然に中毒死してて、毒物でも製造してるのかなって話題にはなったかと』
2025年2月17日17
――此処は人気の無い山の中。
尚且つ、当時から不審がられた新興宗教が管理する土地となると、むやみに近付きたい人などいない。
こういった場所でなら、あの日、色が採取したあの瓶、あの中身を使えるんじゃないか。
匂いや、物質を溶かしていく酸にもとらわれず……
「桜が、どうかしたのか」
菊さんに聞かれてハッと我に返る。
「いえ。昔の事件のことで、もしかしたら、と思う事があって」
「もしかしたら、って?」
「ほら、あの、2000年代に入るかどうかくらいのときにあった、
女子高生行方不明」
菊さんが目を丸くする。
自分で言っていてなんだか寒気がしてきた。
「あの頃、やたらとバラバラ殺人が起きてるんですよ」
感情移入だとかそんなもんじゃない。
陰湿でグロテスクな感覚。
「関係がある、と?」
頷く。
「これまで俺の担当って基本的に、死体や情報の隠蔽に関するもの多かったんですよ」
特にサイコメトリの需要としては基本的にそういう目的が多い。
だからこそ日々正気を保つ術が必要だった。
そして、こんな考えに至ったのも――――
「……ウ」
手袋をつけて、近くの土を採集している菊さんが呟く。
「え?」
「カゲロウ……の話を、色が前にしていた事がある」
「カゲロウ……って、作家の?」
俺は恐る恐る口にする。
確か、女子高生行方不明事件の後話題になった作家の筈だ。
「あぁ。そして能力者にも作家は多い。界瀬の母親みたいな占い師とかな」
「……」
嫌な事を思い出した。頭を振る。
「昔、よくあの事務所にも来ていたらしい」
「……」
「――で、それと関係する話だ。数年前から特に近年。人種差別、障害者をネタにするビジネスが熱くなっているんだ」
彼は言う。
転売やスパイ行為への対策を考えつかなくなってきたクリエイターたちが新たな根城をかまえたのがマイノリティな市場だが……
そもそもその辺りは整備が追いつかず、国すらも触れようとしない部分だということを、『転売に使われないから』などと安易に捉える者があとを絶たないという現状もある。そして、その彼らが再び戦場を作り出す。
「お願い! 軌道に乗ったらやめるから」
などという問い合わせも数知れない。
そしてその軌道、とは差別の助長に他ならない……そんな日々が繰り返されてきた。
「その流れはうちにもきた。当時……まだ10年前は霊感商法なんてのも流行っていたから……超能力者の肩身は狭いなんてものではなかったから、かなりセンシティブな空間だったよ」
「だけど先輩たちや、藍鶴色が頑張って、能力者の居場所になるようにってモデレーター、慈善活動、情報収集……毎日動いてた。
表の世界に線を引いて通常の人の社会を優先しながらも、能力を持った彼らが動きやすいように、力を受け入れて社会に出てもやっていけるようにって」
「その時期、そこに、ちょうど便乗して現れていたのが、カゲロウなんだよ」
『人が居ないから』とかありきたりな理由を付けて、能力人種の差別に目を付けた。
最初は救いたいとか、体のいい事を言っていたんだが、能力者の社会進出の話には頼んでもないのに割って入って来て拒んだ。
――ごめんね、外に出してあげれないよ。
「そんな感じで常に先回りして仕事を妨害したり、残業してまで奪ったりと、まるで存在証明を奪っているみたいだった」
最初からそうするつもりだったかのように、謝るところから始まるのか、となんだかモヤモヤする。
「まぁ、そもそも別にあいつに権限は無いが、何故わざわざ伝えに来たのかは分からない」
「どころか、社会側は、表向き好意的に捉えている……という感じだな。それで本部側と断絶して……折り合いがつかなくなった」
俺の、知らない話だ。なのに、なんだか想像に難くない。
「色は曖昧な事を言ってたよ。プロモーションになるならいいのかなぁ、とか、内部へは入れない方がいい。妨害は許せないとか」
あいつもあいつで思う事はあったんだろう。
能力、超感覚的知覚に対する社会不安やアイデンティティへの不安が俺たちにどれだけ重要な事なのかも判らずに、ただ何度も、内部に来てまで、直に罵倒し続けてひっかきまわしていった……
その上に、社会に出す訳には行かないと言って止めに来たのか。
たまたま言ったことが常に当たっていて怒られた事。
何も悪くないのに触らないように言われる事も、生まれつき自由に創作活動が出来ない事も、事件の日に体調が悪い事。
理由のわからない感覚に支配されて、確かにある現実を見せられる事も。
何一つ本当にあるとは思ってない、そっち側の人間が――――まるで此方の立場を考えずに皆の前で「その為に」晒し上げた。
「奴らはその20年を平然と否定した。「助けを求めるような声を出して人々をおびき寄せているだけだ」と、自分達の行いを隠蔽する為に、無かったかのように」
――――皆の前で本を読めないんだ。
――――俺も。
「女子高生が行方不明になったのは、界瀬が来るよりちょっと前だ。色は、あいつが関わっていると思うと言っていたよ」
カゲロウが?
菊さんの話す横で、俺はふと思いつき、端末を手にする。
そして知り合いに電話をかけた。
「うん……うん。今山に居るんだけど……うん」
「聞いてた?」
菊さんの珍しく呆れた声。
通話を切りながら俺は言う。
「夏々都君。テレビにカゲロウが出ていた頃の事件、毒物や山に関連したものについて聞いてみたんだ」
夏々都君は知り合いの高校生。
自伝的な記憶を長期間忘れられない体質を持つ。彼自身も苦しんで居る事が、テレビなどを席巻したせいで間接的に晒されるような思いをしたという。
『宗教が関連しているかは分かりませんが……あの。その辺は事件っていうか、権利を所有してるわけでもない道路で他の車を立ち退きさせた、追いかけて近付かせないようにする話は結構聞きますね……
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2025年2月17日17
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