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Commentary
初代
しおりを挟む久々に見た、賑やかな光景。
藍鶴色が、楽しそうに笑う。
やがて猫を外に出した橋引が戻ってきたとき。
肩に珍しく鞄を下げていたのに気付いた俺は、ふと、何処かに行くのかと尋ねた。
「だってこれから、出かけるんでしょ?」
「え」
出掛ける?
俺は、なんとも答えず色を見る。
「初代レゥトリシェ・カイセンのところ?」
色は無表情で答える。なぜ疑問形。
「その名前!」
聞き覚えがある、と俺は思わず叫んだ。
俺の母親がその経典を元につけたのがこの名前なのだから。
「どうして……そんな、マイナー宗教の名前なんて」
大樹の元に集い、石の声を聴く。
確かそんな感じの、遠い国の部族のものだ。
その初代が、救世主の意味を持つカイセだったと、母はよく言っていた。
もちろん何百年も前に死んでいる。
そんなマイナーな話を色がしている事に、俺自身も驚きだ。
色は首を横に振る。
「宗教はその後に囃し立てる為に出来た。
彼女は初代の超能力者だ。死者と自然の声を聴くことが出来たけど、それ故に王権者に利用されてしまった。
審判で呪力の強い方を主軸の宗教にし、国王の正統者にすることになったときに、彼女達の派が競り勝っている」
「……それをどうして、色が」
「俺の家の血筋は半分が異国の魔女だと聞いている。よくわからないけど、その関係で聞いた事がある。昔あった呪術とか、なんかの石を家に置いていたとか」
いつの間に撮ったのか、スマホの画面――木の写真を見せて来る。
あの山の木だ。
「最近。実は未来、なのか過去なのか、何度も木の、大樹の夢を見るんだ」
無表情だけど、少し苦しそうにも見える。
「木の夢と、彼女には何か?」
頷く。
「俺は、超能力者は、多くは古来の血をひいていて、自然の声を聴くものだ。と考えて居る。
彼女の特性は俺たちに似ている。自分の生まれた意味を知るのに良いと思った」
「なるほど。ルーツを探すのはいい手かもしれないな」
色が、こんな話をするなんて初めてだ。
と思ったけれど、一度外に出て神様に対する受け止め方が彼の中で変わったことで、
ちゃんと向き合う覚悟が出来たのだろう。
だから前から考えていた話をしている。
「考えるきっかけになったのがあの場所だったけど、元々はあんな呪符を見つける為じゃなかったよ」
なんだか色の考えは、俺が思っていたよりずっと深く、多岐に渡っていたらしい。
外に出ていた間にもそれらを思い詰めていたんだろうか。
「なんでこれなんだ、って考えて、何度も考えて。調べていたら、あの呪いの成り立ちと、彼女の事と年代か何かで近いつながりがあるんじゃないかって気づいて……うまく言えないけど、夢のこともあって、何か胸騒ぎがするんだ」
胸騒ぎ、予感。
藍鶴色の考えて居るもの。
もしかしたらかつての争いを示唆しているのではないか。
つまり、対勢力……
「超能力者、いや、自然の声を聴く、か」
考えてみる。
どうだろう。
物に残る思念。壁や石、本や手紙に残る思念。
遠くの声。景色。
それらは人の私欲には関係が無く、声として、風景として世界に記録される。
世界が覚えているものを見せられている?
「俺にも、ほんの少しだけ聞こえる。死者が空気になった後も、きっと残っている。少しだけ先の景色が見える。
だけどそれらはいつだって世界の繋がりと、地球の生命の息吹そのものだった。
――――界瀬はそうじゃない?」
要は藍鶴色は、本当に原初代の巫女と佳ノ宮家の繋がりについて考えて居た、という事なのか。
古来、自然の事を神と呼ぶこともあった。それを浴びて最も巨大で長く生きる木や石を讃える事もあった。
そういったものから声を感じる共感覚。
それがそのときの巫女や神職であったのだと言っている。
「それが祝詞、世界の意志そのものの自動筆記だと思う」
やっとわかった。
だから、祝詞は明確にそのときの血を継いでいる者である必要があるのだ。
世界の声を聴き、その意思を継いでいる彼女たちからのみ、本当の祝福が生まれる。
だからこそ世界に広く聞し召せるような言葉が残るのだと言っている。
「その声を祝詞と呼び、祀った」
まつりが――――佳ノ宮まつりが立っている。
「かつては精霊とか妖精とか言ってたね」
「みたいだね」
行七夏々都がまつりの方を見ている。
色が以前記憶力に優れている、と言っていたと思うが、たぶんそれだけではないような気がする。
「魔女も、神と同一視され、自然と対話するものだった。つまり初代というのは役目の為にそれらを身に着けていた者の事なんだ」
色が言いかけ、佳ノ宮まつりが続けた。
「まぁ難しいことは良いよ。うちもあの文献? の解析を手伝ったんだ。それで某国の遺跡の名前があってさ。
当時の人達が何を考えて居たのかまつりも興味あるし」
ちらり、とまつりは事務所の方を向く。
「現存の勢力のおかげで無関係な勢力争いを仕込まれそうだからね。その前に
ちょっと下見に行って来ようかなという事になったりして」
「私も行く」
橋引が色の腕を掴む。
「『晶たちが色ちゃんを否定してまで行っていたプロジェクト』なんて、絶対碌なものじゃないんだから。証明したいの」
「なんかわからないけど、俺も行くよ」
生きがい、生きる術、目的、夢。
全て繋げられ、奪われ続けて来て、それでも他者に強いられる事、操られる事を拒み続けて、それもこうして一つの道になりつつある。
隠して居るなら誰も触れられない。
誰も触れられないなら、残っている。
2025/07/0214:11
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