新生月姫

宇奈月希月

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新月の運命

沈んだ糸・2

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 広間に集められた人々は、頭を垂らしていた。
 その先には、キールが足を組みながら椅子に座り、彼らを見下ろしている。
 薄ら笑みを浮かべ、尊大な態度ではあるが、誰もがキールに従っていた。
「先日のサリアの件は既に聞いているな?」
 キールが口を開くと、その場に集められた幹部クラスの人々は重く、頷いた。
「私としては、将軍職の彼女が、あんなみっともない負け方をするとは……残念でならない」
 そう言うが、口元は笑っており、別に何とも思っていないのが見て取れる。
「スタイ。ユウキ」
「はっ」
「当面は、将軍職は貴様らだけになる。仕事が増えるが、頼んだぞ」
「かしこまりました」
 スタイとユウキが頭を下げれば、キールは笑みを浮かべた。
「と言う訳で、他の面々も将軍職が目指して、頑張ってくれ」
 キールのその言葉に、周囲が色めき立つ。
 その様子を、キールの隣に控えていたメサイアとガルラがじっと見つめていた。
 メサイアは、『皆、キール様に踊らされていますね。彼は、別に何とも思っていないのに』と冷静に見ているし、ガルラも『昇格に喜んでる奴ら、本気でキールのこと何もわかってないんだな』と鼻で笑っていた。
 それを知ってか知らずか、キールはメサイアに視線を送った。
 メサイアはそれを見て、資料を捲りながら口を開いた。
「では、今回、皆様に集まっていただいたお話を致します。現在キール様は、月界の第二王女であらせられるナギサ=ルシード様との婚姻を望んでおります。しかし、彼女は既に婚約者がいる身。正攻法を用いたところで、無理なのは理解できますね。では、何をすべきかは……わかりますね?」
 メサイアの言葉に、集められた人々はごくりと唾を呑んだ。
「サリアの件はさ、ナギサ誘拐に失敗したから、今罰を受けてるんだよねー。一緒に行った男も、捕まって冥界にいるらしいから、今頃情報吐いてるだろうし、キールはめっちゃ怒ってるんだよな」
 止めを刺すように、ガルラはニヤニヤ笑いながら、メサイアの話を続ける。
「ナギサ様のいらっしゃる聖界は結界を強化したようなので、こちらから攻撃をしかけるのは一筋縄ではいかないでしょう。ただ、ナギサ様は大神代理人の仕事をしているため、冥界にいらっしゃることも多々あります」
「あのオヒメサマ、アグレッシブだから魔界に行くこともあるみたいだし……お前ら全員にチャンスがあるってこと」
 メサイアとガルラが一気に畳み掛けることで、彼らの熱量は一気に高まった。
 しかし、将軍職であるスタイとユウキはその熱気に呑まれずに、冷静な態度でいる。
 そこへ、キールが声をかけた。
「スタイ。ユウキ。貴様らの采配を期待している」
 キールの言葉に二人は、「承知いたしました」「ご期待に添えるように最善を尽くします」と答えると、キールは満足そうな笑みを浮かべ、先に部屋を出て行った。
 その瞬間、周囲はやる気に満ちてぞろぞろと部屋を後にする。中には、スタイやユウキに「次の任務、同行させてくれ」と頼む者もいたが。
 やがて、部屋にはメサイアとガルラ、そしてスタイとユウキの四人が残った。
 ガルラは我慢できなくなったのか、ぷっと笑い出す。
「はははっ!あいつら、マジでバカだな。キールにけしかけられたなんて、誰も思ってねーんじゃねーの?そもそもあいつらの力で、あのオヒメサマに勝てると思ってるのかよ」
「女性だからと甘くみているのでは?彼女が、月界の王女であると同時に、次期大神なのすら忘れているのでしょう?」
 ガルラに答えるように、メサイアも呆れながら言うと、ユウキは口を開いた。
「その、ナギサ姫って言うのは強い、のか?」
「まあ、あのサリアを剣術で負かせていますからね」
 スタイもそう言いつつも、気になるようでメサイアとガルラに視線を送ると、目が合ったガルラがにやりと笑った。
「あのオヒメサマ、めちゃくちゃ強いぜ。そもそも、剣術が強い。オレに対しても、剣で立ち向かってくるしな。しかも、動きも早いから、さすがのオレでも翻弄されるし」
 ガルラが頭を掻きながら言えば、スタイとユウキは難しい顔をした。
 ガルラの強さはよく知っている。『金の悪魔』という異名通り、常識も何もない彼の戦い方を知っているからこそ、そのガルラにここまで言わせるとは何者なのかと思う。
「わかっていると思いますが、ナギサ様は次期大神であり、“光の神”の力を擁しているため、本来は聖法術を扱います。ただ、あまりにも聖力が膨大で、本人がまだ上手くコントロールをできないため、剣術を使用しているようですね」
 メサイアがそう言えば、ユウキは首を傾げた。
「では、剣術を封じれば勝てるのでは?」
「はっ!本当にバカだな、お前ら。コントロールできないだけで使えないだけじゃない。むしろ、使われたら逆に危ないってことだよ」
「それに、彼女の剣の強さは、その膨大な聖力で肉体をカバーしていることで、トリッキーな動きができる、というのもありますね」
 メサイアがガルラの言葉に続いた。
 事情を知ったスタイとユウキは、思わず背筋が冷たくなる。
「……それでは、サリアが勝てないのも無理がないですね。我々も自信がないのですが」
 スタイが一つ息を吐きながら言う。
「でもよ、キールは出て行ったあいつらにはまっっったく期待なんてしてないけど、お前らには多少也とも期待してると思うぜ?まっ、必要ならオレの部下貸してやるよ」
 ガルラはそう言いながら部屋を出て行った。
 ユウキは苦笑いを零した。ガルラの部下とはつまり、錬金術士の集まりなのだが、ガルラ同様、不作法な者が多く、束ねる自信なんて全くないのだ。
「まあ、ガルラの部下は置いておいて……サリアが責任を取らされている今、サリアの部下たちは暇を持て余しているので、そちらを連れて行くのも手ですね。確か、ダイが代わりに纏めている状態なので、彼に話をしてみてください」
 メサイアはそう言うと、部屋を後にした。
 ユウキは大きな溜め息を一つ吐くと、「はあ……何とか作戦練らないとな」と部屋を後にする。
 スタイは、ぼんやりとしたが、すぐにメサイアの後を追った。

「お嬢様!」
 スタイの呼びかけに、メサイアは振り向くが、冷たい視線でスタイを見た。
「今は、リズールの名を継いでいますので」
 その言葉に、スタイは「すみません」と謝りつつも、話を続けた。
「お嬢……メサイア様が戦場に赴くことはあるのでしょうか?」
「今のところありませんが、キール様の命があれば動きます」
「では!その時は、私が同行しても」
「お断りします。先程も言いましたが、私はキール様の側近であり、リズール家の人間です。戦えない訳ではありませんので……見縊らないでください」
 メサイアはぴしゃりと言い放つと、その場を後にした。
 スタイは佇むことしかできなかった。

 その様子を遠くからキールが見ていた。
 勝手に熱を上げて去って行った部下たち。将軍職の人間ですら、キールから言わせればただの捨て駒にすぎない。
 その彼が、自分の右腕でもあるメサイアに絡んでいるのを、キールは冷たい目で見ていた。
「彼とは……親戚です。とは言え、昔の話ですし、私は既にリズール家の人間ですから」
 いつかにメサイアがそう言いきったのを、キールは思い出していた。
 実際、メサイアは何度もスタイに伝えているが、彼は退く気がないようだ。再びメサイアに、家督を継がせたいのだろう。メサイアにとっては、暗い記憶の残る家に縛り付けたいのだ。
「未練がましい男だな」
 キールはそう呟くと、口角を上げた。
 それは、楽しいことを思いついた子供のようで、彼は軽い足取りで執務室へと向かった。
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