新生月姫

宇奈月希月

文字の大きさ
70 / 75
新月の運命

邂逅・1

しおりを挟む
「ねえ、ナギサ!聞いたよー!変な男に付き纏われてるんだって!?大丈夫だよ!俺が守るから!」
「……あんたが言える義理じゃないでしょ」
 ナギサは鬱陶しそうに男を見、盛大に溜め息を吐いた。

 事の発端は数時間前、ナギサは冥殿で魔王――ルシフに遭遇した。
「おや?ナギサ。聞いたよ。花祭り大変だったんだって?」
 ルシフはそう問うが、既に冥王――リキから一部始終を聞いているので、ただの確認でしかない。
 ナギサもそれを理解していたから、多くは語らなかった。
「それで?ナギサはそんな状況なのに、なんで冥界にいるのかな?」
 突然声のトーンを下げたルシフに、ナギサは「え?」と顔を見るが、目が笑ってないルシフに、ナギサはすーっと背筋を凍らせた。
「あ、いや……冥王に、進捗を聞きに……」
「へえ?連絡取ればいいのに?」
「えっと……気晴らし?」
 ナギサはひたすら目を泳がせながら言うが、ルシフはニコニコと追い詰めていく。
 そのうち、ナギサは思いっきり走った。
「私っ!私のパフェが待ってるのー!」
 そう叫びながら去るナギサに、ルシフは「はあ?」と声を上げた。
「パフェって何を言って……っ、まさか!」
 ルシフはハッとして、ナギサを止めようとするが、凄い速さで行ってしまい、ぽつんと立ち尽くした。
 スイーツ大好きなナギサのことだ。たぶん、またカフェでパフェを頬張るつもりなのだろう。
 そして、ここは冥殿で、わざわざそれを言うということは、冥界の一般居住区のカフェに行くつもりなのだ。先日、キールと遭遇したとわかったばかりなのに。
 ルシフは頭を抱え、大きな溜め息を吐いた。
「念のため、リキに伝えておくか。問題は……あいつだな。何もやらかすなよ、レイガ」
 そう呟きながら、リキの元へと急いだ。

 ナギサはカフェに向かって歩いていた。
「魔王は心配しすぎなのよ。子供じゃないんだし、ある程度のことは一人でできるわ」
 ナギサはそうぶつぶつ言いながら歩いていると、「ナギサ?」と声を掛けられた。
 驚いたナギサが振り向くと、そこには会いたくないイケメンが立っていた。
「……なんでいるのよ?」
 ナギサが嫌そうな顔を隠しもせず問うと、レイガは満面の笑みで近寄って来た。
「冥王に用があったんだけど……抜け出してきた!それよりさ、聞いたよ!変な男に付き纏われてるんだって!?大丈夫だよ!俺が守るから!」
「……あんたが言える義理じゃないでしょ」
 ナギサが悪態をついても、レイガは気にせずへらへらと笑う。
「で、これからどこ行くの?俺もついて行っていい?」
「いや。ぜっっったいにいや!!」
「やだぁ。ナギサってば、天邪鬼なんだからー」
 レイガは眉尻を下げ、一人でうっとりしている。
 ナギサは鳥肌を立たせながら、頭を抱えた。
「……私の言葉聞こえてる?ってか、理解できてる?」
「うんうん、わかってるよ。ナギサが恥ずかしがり屋って話でしょ?」
「一言もそんなこと言ってないわ」
 うんざりした顔で言うナギサだが、レイガはきょとんとした。
「あ!話さないけど、理解して、ってこと?ごめんね。俺の理解が足りなかったみたい。俺、ナギサの考えてること全て理解できるように頑張るから」
 レイガの言葉に、ナギサは「話が通じない」と頭を抱えた。このまま続けても平行線のままだと理解し、ナギサはくるんと向きを変えると、無視して歩き始めた。
「ナギサ!どこ行くの?俺も行くから」
「来なくていい。ってか、ついて来ないで」
 ずんずん歩くナギサの後ろを、レイガがひょこひょことついて来る。
「ねえねえ、ナギサ」
 レイガが声をかけるが、ナギサは無視を決め込んでいる。というか、早足で歩いている。
 しかし、その速さにしっかりついてくるレイガ。
「一人じゃ危ないだろ?俺がついていれば、もう大丈夫だからさ」
 レイガは一人でずっと喋っている。全く同じ速度で。
 ついに、ナギサは駆け出した。
「ついてこないでよ!!」
「なんで!?なんで逃げるの?ねえ、一緒にお茶しようよー」
「だからっ、ついてこないでー!!」
 全速力で駆け抜けながら、路地裏を曲がり曲がりで進み、撒こうと必死のナギサ。
 レイガの声が遠くなったところで、ナギサは立ち止まった。
「はあ……はあ……何とか撒けたかしら」
 と、周囲を見て眉を顰めた。
 ぐるぐる走ったせいで、完全に迷子になったのだ。
「あー!もうっ!あの変態のせいだわ!」
 そう悪態を吐きながら、歩き始める。

 レイガはずっとナギサを探していた。
「どこ行っちゃったんだろう。変な男に付き纏われてるって言うし、心配だから側にいてあげないと!」
 が、撒かれた以上、探しようがなく、レイガはうーんと考えた。
「ナギサのことだから、どこかのカフェにいると思うんだけどなー。さすがに店多すぎるし……。あ、そうだ!」
 レイガは路地裏に入ると、足元を見た。
 そのまま、靴でコンコンと地面を打つ。ざわりと影が揺らぐ。
「ナギサの……月界の第二王女を探して」
 ぽつりと呟けば、揺らいだ影はそのままざわざわと遠くへと動いて行った。
 レイガは、王位継承権を失くしたとはいえ、魔界の第一王子であることは変わりがない。そして、魔界の守護神である“闇の神”と契約をできなかったとはいえ、力を借りているのは事実で、ましてや兄妹の中では一番魔力の保有量が高いため、闇属性の魔法が使えない訳ではないのだ。
 この場にガイトがいれば、「そんなことで闇魔法を使用するな!」と怒るだろうが、そのストッパーであるガイトはここにいないのだ。
 少しして、再びレイガの足元の影がざわりと動くと、にゅっと動きだし、気付くとそこに真っ黒の豆鹿が現れた。レイガの使い魔でもあるその鹿はちらりとレイガを見ると歩きだし、レイガはその後を追った。

 ナギサはやっと目的のカフェに着いた。
「やっと着いたわ。はあ。あの変態が邪魔して来なければ、もっと早く着いたのにな」
 そう文句を言いながら、カフェの扉を開ける。
 中は落ち着いた空間で、ナギサは奥の席に腰をかける。
 店員に特大パフェを頼み、ナギサは店内を見回した。店内は混みあってなく、静かな時間が流れている。他の客たちものんびりお茶をしていたり、お茶をしながら読書をしていたりと、各々が自分時間を満喫しているようだった。
「お待たせ致しました」とテーブルに、大きなパフェと、紅茶の入ったポットとカップが置かれる。
 ナギサは「ありがとう」と軽く言うと、目の前の大きなパフェに目をキラキラさせた。
 たくさん乗ったフルーツにカラメルソースが絡み合う。パフェの途中にはプリンやムースも入っており、ナギサは期待いっぱいで食べ始めた。

 キールは目深にフードを被り、冥界を歩いていた。
 先日の一件で、冥界でも正体がバレていることを見据えていたが、それどころではないと言わんばかりに、ずんずんと歩いている。
 やっと目的地に着き、キールはちらりと見た。そこには、特大パフェのチラシが貼ってある。
 最近、仕事を詰め込みすぎたことを自覚していたが、さすがに糖分を入れないと死にそうだった。
 カフェの扉を開け、何となく店内を見回す。
「え?」
 キールは思わず声を上げた。
 店内の奥の席で、ナギサが特大パフェを頬張っていたのだから。
 今までの糖分を欲していた気持ちはどこへやら、キールは一気に楽しそうに笑みを浮かべると、ナギサの元へと向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─

あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」 没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。 しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。 瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。 「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」 絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。 嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。

勝手にしろと言われたので、勝手にさせていただきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
子爵家の私は自分よりも身分の高い婚約者に、いつもいいように顎でこき使われていた。ある日、突然婚約者に呼び出されて一方的に婚約破棄を告げられてしまう。二人の婚約は家同士が決めたこと。当然受け入れられるはずもないので拒絶すると「婚約破棄は絶対する。後のことなどしるものか。お前の方で勝手にしろ」と言い切られてしまう。 いいでしょう……そこまで言うのなら、勝手にさせていただきます。 ただし、後のことはどうなっても知りませんよ? * 他サイトでも投稿 * ショートショートです。あっさり終わります

聖女の力は使いたくありません!

三谷朱花
恋愛
目の前に並ぶ、婚約者と、気弱そうに隣に立つ義理の姉の姿に、私はめまいを覚えた。 ここは、私がヒロインの舞台じゃなかったの? 昨日までは、これまでの人生を逆転させて、ヒロインになりあがった自分を自分で褒めていたのに! どうしてこうなったのか、誰か教えて! ※アルファポリスのみの公開です。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

この度娘が結婚する事になりました。女手一つ、なんとか親としての務めを果たし終えたと思っていたら騎士上がりの年下侯爵様に見初められました。

毒島かすみ
恋愛
真実の愛を見つけたと、夫に離婚を突きつけられた主人公エミリアは娘と共に貧しい生活を強いられながらも、自分達の幸せの為に道を切り開き、幸せを掴んでいく物語です。

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

処理中です...