新生月姫

宇奈月希月

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出会いと雪解け

未来へ続く現在

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 母である女王に呼ばれ、話が終わったフウが重々しいドアをゆっくりと閉じた。
 その閉じきったドアに寄りかかるようにして、にんまりと口角を上げた。
 足取り軽く廊下を歩く姿に、擦れ違う使用人達が頭を垂らす。その足で向かったのは実の妹であるナギサの自室だった。
 ナギサの自室のドアをノックしながら、「ナギサ、少しいい?」と声をかければ、ナギサが顔を出した。
「姉貴?どうかした?」
 今日はオフだったナギサは、シンプルなワンピース姿で現れたが、上機嫌なフウを見て、訝しげな表情を浮かべた。
「ふふっ。ナギサに一番に報告したくて。とーってもいい報告よ!」
 楽しそうに笑うフウを見て、ナギサは話が長くなりそうだと判断し、「入って」と部屋に通した。
 フウは勝手知ったる部屋と言わんばかりに入ると、そのままソファへと腰かけた。ナギサも特に何も言わず、紅茶を用意している。
「それで?報告って何?」
 ナギサもソファへ腰かけると、訝しげな表情のまま問う。
 フウは用意された紅茶に口をつけつつも、口角を上げた。
「来週、何の日だか覚えてる?」
 その問いに、ナギサは「はあ?」と声を荒げそうになったが、ぐっと我慢をして、ジト目でフウのことを見る。
「あれだけ準備で忙しくしてるのに、忘れたと思ってるの?姉貴の誕生日でしょ?当日は式典もパーティーもあるって、準備させられてるもの」
 大きな溜め息を吐きながら言うナギサだが、フウは更に楽しそうに笑みを浮かべた。
「ふふっ、そうね。わたくしの十八の誕生日。そして、成人の式典が行われるわね」
 フウはそこまで言うと、もったいぶる様に唇を閉じた。
 この世界では、十八歳を成人としており、フウは王族として成人を迎えるため、盛大な式典が予定されていた。
「そう、成人を迎えるのよ。ついに、結婚できる年齢になったというわけね」
 フウの言葉に、ナギサは思わず飲んでいた紅茶を、咽て出しそうになった。
「え?ま、まさか……」
 ナギサの言葉に、フウはどこか蠱惑的な笑みを浮かべる。
「ええ。式典の日に、クロスとの婚約を正式に発表、及び来年の早い時期に婚姻の発表も行うわ」
 フウが満足そうに言えば、ナギサはぽかんとしながら紅茶を置いた。
 フウとクロスの婚約は、月界の仕来りに法って、親同士が決めた婚約であり、お互い成人後に正式に認められるものである。フウの場合、クロスと四つ歳が離れていたため、フウが成人するのを待っていた状態になっていた。とは言え、当の本人たちは常にラブラブカップル全開ではあったし、ナギサたちはもちろん、民から見ても今更感がすごいのだが。
「でも、来年の早い時期に婚姻って、忙しくない?」
 ナギサが問えば、フウは今までの笑顔を消し、溜め息を吐いた。
「あら、仕方ないじゃない。来年は来年で、今度はナギサが成人を迎えるのよ?ナギサの場合、成人と共に正式な婚約だけじゃなく、王位継承も待っているのだから、わたくしの方を早めにやってしまわないと、タイミングを逃してしまうんだから」
 そう言われ、プレッシャーを感じたナギサは、気まずそうに紅茶に口をつける。
「でもね、わたくしとしては、クロスのお嫁さんになるっていう、絶対的な地位を手に入れるのだから、もう婚約とかすっ飛ばして、さっさと婚姻してしまいたいわ」
 フウはうっとりした表情をしながら、完全に自分の世界に入ってしまったようだった。
 ナギサはその様子を見ながら、当分忙しい日が続くのか、とフウにバレないように気持ちを沈めた。

 誕生日当日、王都にある神殿で成人を迎えた式典を行うため、王城から神殿までのパレードが催された。
 成人を迎える誕生式典ということもあり、王族全員が出席しているため、随分と華やかなパレードが行われ、王都はとんでもない賑やかさであった。
 神殿内の式典は王族と、一部の高官のみの出席であったが、神殿の外では民たちも一緒にフウの成人の祝いを祈っていた。
 その後、式典を終えて出てきたフウたちだが、そこで女王によってフウとクロスの正式な婚約が発表され、更に熱を上げたようにお祝いムード一色になった。フウとクロスが腕を組み、幸せそうに手を振る姿は大々的に報道された。
 その日の夕方から、フウの成人を祝うパーティーが催された。こちらは式典と違い、誰でも参加できるため、再び大きな賑わいを見せていた。とは言え、フウたち主役や王族がいるのは城内に設けられた会場であり、誰でも参加できるのは庭園が会場になっていたので、それぞれが違う賑わいではあったのだが。
 フウとクロスは、多くの人から祝福を受け、挨拶回りで忙しそうではあるが、仲睦まじく腕を組み歩く姿は、年頃の女性たちの憧れの的でもあった。
 その姿を、ナギサは完全に壁の花になりながら見ている。隣には、カスリも立っているため、客人たちは気を利かせてナギサに声をかけないで、遠くから見ているだけなので誰も気付かないが、ナギサはうんざりした表情で会場を見ていた。
「はあ……姉貴たち、またやってるよ」
 二人のイチャイチャを見ながら言うナギサに、カスリも同じように頭を抱える。
「もう、あの二人のアレには慣れたと思ってたけど……そうか、結婚したら、うちで暮らすんだよな。毎日アレを見せられるのか」
 そう言いながら、カスリとナギサが肩を落としたが、突然二人は肩をぎゅっと掴まれ、驚いたように振り向く。
「えっ!親父!?」
「おじ様!?」
 カスリとナギサが声を合わせるように叫ぶと、肩を掴んだ人物はにこりと笑った。
 月王家の分家である月聖家の現当主、キセイ=サガラ。六年前の事件後、ナギサやカスリ、サーラ、リナを連れて、混界へ行った人物だ。ちなみに、クロス、カスリの黒髪と緑の瞳は、この父親譲りだった。
「カスリってば、そんな風に言っちゃダメだよ。それに……君たちの結婚も早々に決まるはずだから、そうなったらカスリがこっちに来るんだし、そんなに長い間実家で一緒に暮らすことないからね」
 キセイがそう言えば、カスリは「はっ!?」と上擦った声を上げる。が、すぐにナギサが咳払いをした。
「もう、おじ様ってば意地悪ね。おじ様こそ、クロスお兄さんたちのところへ行った方がいいわ」
 そう言って、伯父であるキセイを追い出すと、カスリが現実逃避をするように遠い目をしつつも、「助かった」とぼやいた。それに対してナギサは、正直その話を今一番聞きたくなかった自分のエゴではあるので、笑顔しか出て来なかった。

「あ、いたいた!ナギサ!」
 壁の花をしているナギサの元に、フウが駆け寄ってくる。
「姉貴?挨拶は終わったの?」
「まあ、一通りはね。それより、ほら!カスリと一緒に踊ってきたら?絶対、この会場の主人公になれるわ」
 フウが楽しそうにそう言えば、ナギサはハッとした表情で思わずカスリの方を見た。カスリはカスリで、クロスに説教を受けていた。
「何言ってるのよ。今日の主役は姉貴たちでしょ?私たちは大丈夫だから」
 そうやんわりと断りを入れるナギサだったが、フウはすっと目を細めると、ナギサの腕を掴んだ。
「……あなた、この前からおかしいわよ?まさか、わたくしが気付いてないとでも思ってるのかしら?」
 フウがそう言えば、ナギサが驚いたような表情でフウを見た。が、すぐに視線を逸らす。
「あ、姉貴たちが仲良いのは良いことだわ。ただ、私たちはそういうイチャイチャを求めている訳じゃないし」
「……ちょっと来なさいな、ナギサ」
 フウはそう言うと、ナギサの返事を待たずに、腕を引っ張って裏へと下がった。
「まさか、わたくしたちの結婚で、逆にプレッシャーになってるのかしら?」
「そ、それはっ」
 言葉を止めるナギサだったが、フウが「はっきり言いなさいな」とぎゅっとナギサの頬を抓る。
「いたっ!強引じゃない!?プレッシャーって言うか……王位を継ぐ覚悟はできてるけど、結婚する覚悟はできてないだけ。なのに、周りが勝手に進めているから」
 ムスッとした態度で言うナギサに、フウは大きな溜め息を吐いた。
「やだ、呆れた。お母様に話せば、少しは延期ぐらいできるでしょう?王位継承は変えられないだろうけど、結婚をある程度なら遅らせることは可能なはずよ。そこは、カスリとちゃんと話して、お母様に真剣に話せばわかってもらえるわ。わたくしだって協力できるもの」
 フウの真面目な返答に、ナギサは「うん、そうだよね」と肩を落とすが、フウはナギサの背中を思いっきり叩いた。
「だから、そんな湿気た顔をしないでよ!わたくしの晴れ舞台よ?妹のあなたがそんな顔してるなんて、許さないから」
 そう叱ると、「戻るわよ」と再びナギサの手を引くフウだったが、ナギサだけに聞こえる声量で呟いた。
「わたくしは、結婚したら城を出るんだから、もう少ししっかりしてちょうだい。今みたいに、毎日のように顔を合わす訳じゃないのよ。何かあったらすぐに話は聞いてあげるけど……その時は、あなたがわたくしのところに来なさいな」
 フウなりのエールの言葉であり、ナギサは思わず苦笑いを零しつつも、「ありがとう、姉貴」とフウに聞こえるか聞こえないか程度に呟いた。
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