列車居酒屋異聞 〜旅が好き〜

夢彩姐

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3.山本 皐月 故郷は遠きにありて

3.山本 皐月 故郷は遠きにありて③

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 雨という天候のせいか開店直後という時間帯のせいか…その両方が理由なのか……まではわからないが車内に他のお客はいなかった。
 お陰で他人の目を気にする事なく食事ができるのは幸運だと思う。
 いや、もし他にお客がいたとしてもこの客席の並びなら他人の目など気にならないだろう。

 コンパクトな座席とテーブルが食事に集中できる空間になっている。

 私は早速骨付きカルビを食べてみた。
 …うん、美味しい!
 期待どおりの味だ。柔らかさもちょうどいい。
 ……でも、お父さんにはちょっと塩分が多いかな。


 居酒屋さんだから料理は基本お酒のおつまみだ。
 味が濃いめなのは当たり前と言えば当たり前。
 なので私は肉を骨から切り離しできるだけ表面の肉を削いでタレを落とせるだけ落としてから父の皿に盛り付ける。

「お父さん、焼いたお肉よ。よく噛んで食べてね」
 父は無言で肉を口に運ぶ。
 しばらく様子を観察したが喉に詰める様子もなく食べていたので、私も安心してお料理を楽しんだ。

 やがてワゴンが近づいてきた。
 なんか…本格的!

「丼物…麺類…ピザ…お好み焼きはいかがですか……」
「すみません」
「はい」
「ご飯物って何が有ります?」

 店員さんはメニューを広げて説明してくれた。
「親子丼やカツ丼、鉄火丼やにぎり寿司、雑炊やお茶漬けも有ります」

 この中で父が食べられそうなのは……
「雑炊2つお願いします」
「かしこまりました」

 小さなお椀に雑炊が盛られて供される。
 鶏肉と卵の根菜たっぷりな『親子野菜雑炊』だった。

 普通の大人だと少し足りないぐらいの量だったが問題はない。何故なら父は年齢のせいもあって小食だし私もそんなに食べる方ではない。つまり丁度良い量の雑炊だった。

 そもそもがお酒を飲む人が対象の料理。
 サイズが小さいのも当たり前なのだ。

 お父さんが食べられそうな物……。
 他に何かあるかな…難しいな……。

 座席前のポケットに入っていたメニューをめくる。
 どれも美味しそうだが塩分も多そうだ。
 父は特に塩分制限を受けている訳ではないが年齢が年齢だから気をつけるに越した事はないと医者からも言われている。
 なので日頃から塩分には気をつけているのだ。

 「魚料理です。焼き魚…煮魚…お造り…フライは如何ですか…」

…味つけ…調整できるかしら……。

「すみません。『鰆の西京味噌焼き』をお願いします」
「かしこまりました」

 供された料理には案の定味噌がたっぷりかかっている。
 父に渡す分の料理はその味噌を刮げ取ってから渡した。
 うん、これなら塩分減らせたかな?

「はい、お父さん。お魚」
「あぁ…」


 父は短く答えると焼き魚に箸をつけた。
 様子を観察しつつ自分も食べる。
 うん、私もお味噌は控えめにしよう。
 お味噌たっぷりの方が美味しいけど、私も塩分には気をつけなきゃ。

 もう少し食べたいけどそろそろお腹がいっぱいだ。
 食べるか…食べないか……
 メニューとにらめっこしながら考える。

 ……そう言えば、こんなふうに外食して考えるのは久しぶりな気がした。
 ふふふ……
 何だか楽しい!

『間もなく【フォーマルクラフト駅】に到着します。お降りの方はお手周り品を充分ご確認のうえ……』

 降車アナウンスが流れてきた。
 私はメニューの【駅限定・名物料理】をなんとなく確認する。

 フォーマルクラフト駅の駅限定・名物料理…は……
【鰹のタタキ】だ!
 しかも期間限定だという。

 買わなくちゃ!

 私はフォーマルクラフト駅に着くや否やホーム側の窓を開け売り子さんを呼び止めた。
「すみませ~ん! フォーマルクラフト駅限定メニューの【鰹のタタキ】お願いします」
「かしこまりましたぁ」

 私は無事、鰹のタタキを購入できた。
 そして、父に渡す前に父の分の皿は念のため鰹を更に小さく切った。
 タレを加減して少なめにかける。

「はい、お父さん。【鰹のタタキ】よ」
 空いた皿をトレイから外し落ちないようにジョイントさせた。
「おぅ…ご馳走だな」
 父は嬉しそうにつぶやく。
 私もなんだか嬉しくなった。

 ワゴンが回ってきたので『根野菜炊き合わせ』も買った。
 煮汁から野菜だけ取り出して空いた小鉢に盛り父に渡す。
 そんなに煮汁にたっぷり浸かっている訳でも無かったがやはり気にしてしまう。

「はい、お父さん。野菜も食べてね」
「わかってるよ、母さん」

 おやおや…。
 どうやら父に取って今の私は母親らしい。

 喉につかえないかとか…塩分量が多すぎないかとか……やってる事は母親と一緒か。
 90近い息子?を持つ事になるとは思わなかった。

 長い人生、何があるかわからないもんだねぇ……。

「そう言えば…裏山で猫が集会してたのを見たんだよ」

 どうやら今日の父は機嫌がかなり良いようだ。
 機嫌が良いと必ず話す『裏山で猫が集会をしていた話』だ。
 子供の頃、たまたま夜中に目が覚めた時、家で飼っていた猫が家を抜け出して裏山に登っていくのに気がついた父はその猫の後をつけてみたんだそうだ。
 山(というか大きさ的には丘?)の頂上近くの開けた場所に何匹もの猫がうじゃうじゃと集まっていたという。
 近隣の猫という猫が居たんじゃないかと子供の父は思ったとか……。
 ケンカをしたりじゃれあったりしている猫もいたけれどほとんどの猫は大人しく座って月の光を浴びていた。

 幻想的な光景だったと父は話す。

 ……あと何回、父の口から直接この話を聞けるだろう……。
 子供の頃から耳にタコができるほど聞かされた。
 話の内容なんか始まりから落ちまで全部わかっている。知っている。

 それでも私は父から『裏山で猫が集会していた話』を聞きたい。
 何度でも聞きたいと思う。
 何度でも聞きたいと…願う……。
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