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魔王と魔女
しおりを挟むあれから、私は陛下の命令通り部屋に篭るか、魔物討伐へ出向くだけの日々を送っている。
私の護衛も次の日には第二騎士団から第五騎士団へと変更され、陛下の意向なのか、彼らが私と必要以上にコミュニケーションを図ることは無かった。
嬉しい誤算は、何故か以前よりも魔物の数が減っていること。
どうしてかはわからないが、こんなこと初めての経験だった。
それでも討伐が以前より難航を極めたのは、私と第五騎士団の信頼関係が成り立っていないことや、彼らの戦力が魔物討伐を目的として編成された第二騎士団よりもずっと低かったことが原因だろう。
魔物に傷つけられることも増えてきた。
私がどれだけ第二騎士団の皆に守ってもらってきたのか嫌というほど実感する。
…レイに会いたい。
彼はあれからどうしているのだろうか。
第五騎士団の団員にレイの安否を尋ねても、彼らが私に明確な答えを与えてくれることはなかった。
処刑は取り消しになったはずだけど、やはり彼が元気にしているのか気がかりだった。
魔物討伐で負った傷なんかよりも、彼の安否を思う胸の痛みの方がずっとずっとつらい。
明日こそきっと、レイについて少しでも情報が得られるといいのだが。
毛布を頭まで被ってぎゅっと瞳を閉じる。
眠れない。
不安ばかりが脳内をぐるぐると回って、なかなか寝付けない日が続いていた。
セシルさん達はあの人の元へ辿り着けただろうか。
「ウルちび」
草木も眠る深夜、悶々と頭を抱えていた私の耳にそんな小さな声が届いた。
私をこう呼ぶのは、彼だけだ。
「っ、ディオ様…?」
「久しぶりだなウルちび」
ベッドの脇にあるランプをつけると、暗闇の中に端正な顔立ちの青年が立っている。
闇と同化するような漆黒の髪に、赤い瞳だけが神々しく光って見えた。
「ええ、なんでいるのディオ様…」
私はセシルさん達を保護して欲しかっただけなのに、まさかご本人がここにやって来るとは思いもよらなかった。
だけど…彼がここに来たということは、彼女達は魔王城に辿り着けたのね。
良かった。
「あいつらからウルちびの話を聞いてたらウルちびに会いたくなった」
「王宮には宮廷魔道士の結界もはってあったと思うんだけど…」
「あんなちゃちなもの俺に破れないわけないだろ。大丈夫だ、気づかれないようにちょっと頑張ったから」
少しだけ得意気に口角を上げた彼に、なんだか安心感を覚えてしまう。
無敵の彼がそばに居てくれたら、もうどんなことがあっても大丈夫な気さえしてくる。
「ウルちび、それ怪我してるのか?」
ディオ様が目敏く私の左腕の切り傷を見つけ、思いっきり顔をしかめた。
今日の討伐でやられた傷だった。
「痛い?」
「そうでもありませんよ」
そう答えると彼は眉間に皺を寄せて、自身の手を私の左腕の傷にあてる。
ほんわかと温かな熱に包まれた。
「…相変わらず、すっごい力」
一瞬で治ってしまった元々傷があった部分を見つめ、呆れ顔で呟く。
聖女の能力すら簡単に凌駕してしまう規格外の力だった。
「ウルちびを怪我させて、この国も魔物も全部まとめて塵にしてやろうか」
「はぁ、また魔王っぽいこと言って。そんなことしなくていいから」
「でも、ウルちびが…」
拗ねたように唇をとがらせるディオ様は、魔王のくせに優しい男の子なのだ。
「聖女の力が失われた今、誰かがやらなきゃいけない事ではあるんだと思う」
「ウルちびが犠牲になる必要ない。やっぱこの国燃やす」
…うん、本当に、優しい男の子なんだよ?
「燃やしちゃったら今までやって来たことも無意味になっちゃう。ディオ様は私の努力を無下にするんだ…」
「ちがっ、俺はウルちびがつらい目にあってると思って…」
「わかってるよ。ありがとう、ディオ様。でも、国に何かをするなんて悲しいことはやめよう?」
ディオ様は少し眉を下げてこくりと頷いた。
「なら、とりあえずここを出るぞウルちび」
「ええ、それはまた突然ですね」
思いがけない提案に軽く目を見張ってしまう。
ディオ様はこれだけは絶対に譲らないというような強い瞳で私をじっと見つめた。
「ごめんなさい、ディオ様。私行けない」
「なんでだ!?」
「私が行くと、レイが処刑されちゃうから」
レイを残して私だけ助かるなんて絶対に有り得なかった。
「レイ?誰だそれ?よくわからないが一緒に連れて行けばいいんじゃないか?」
「ディオ様…!」
なんて素敵なご提案をなさるのですか!
…でも、やっぱりダメだ。
「魔物の被害を防げるのは、私しかいないから」
「それなら俺が今なんとかしてるぞ?ウルちびは安心して俺の城に来るといい!」
……神ですか?
こんな魔王様がいていいのか。
いや、彼は本当に魔王様なのだろうか。
ただの英雄でしょうこんなの。
「じゃあそのレイってやつ迎えに行ってこんなところさっさと出るぞ」
「うん、ありがとうディオ様!」
近寄ってきたディオ様が私を抱き上げる。
浮遊感に目を閉じると、次の瞬間そこは元いた部屋ではなく、冷たい空気を感じる王宮の外だった。
…浮いてる。
昔もこんな風にディオ様に抱かれて空中を散歩してたっけ?
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そしてできれば…国王にざまぁを…。
続きも楽しみにしています。頑張って下さい。
コメントありがとうございます!
おっしゃる通り割と重めな作品となっております。国王もクソです(;▽;)
この作品は自分の中で筋書きが固まっているのに全く進んでいない不思議な作品で…ゆるーく放置していましたがコメントすごく励みになりました!
頑張って更新していきます(;▽;)