魔女は駆け落ちした聖女の身代わりに魔物討伐を命じられました。

ゆき

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辿り着いた先

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Side セシル

■□▪▫■□▫▪■□▪▫


険しい山道を、ルード様と共に進む。


ウルティアさん達のお陰で牢から出られたのはいいが、その後二人が私達の逃亡に協力したことで罰を受けていないかが気がかりだった。


「二人は、大丈夫でしょうか…」

「今は信じることしかできない。俺達はとにかくウルティア殿のおっしゃっていた場所を目指そう…時期に追手がくる」

「…陛下ですら干渉できない場所など、この国に本当にあるのでしょうか」


ルード様は、それこそ信じるしかないと一言もらして、私の手をひく。


…私達には迷っている暇なんてないのだ。



険しい道のりの中、何度も魔物と遭遇した。

どうしてか進むにつれてその数や強さも増している気がする。


ウルティアさんから力を与えてもらったとは言え、ルード様がいなければ到底太刀打ちできなかっただろう。

出発前によく手入れされた剣を授けてくれたレイさんにも感謝しかない。



「大丈夫か?セシル」

「は、はい…はぁ、はぁ…ルード様の方こそ」

「俺は鍛えてるから平気だ」


…そうですか。


「それより、前を見てみろ」

「え…っ!?」


そこには先程までは見えていなかった、怖いくらい威厳を感じる、真っ黒な城がそびえ立っているのだった。


「えぇ、さっきまでは何も…」

「恐らく結界魔法でもかけられていたのだろう。ここまでの規模の魔力、ここの城主は只者ではないらしい」


ウルティアさんが紹介してくれるだけに、敵ではないはずだが…正直不安だ。

そんな私に気づいたのか、ルード様が私と繋いでいる手に力をこめるのがわかった。


その時


「人間がここに足を踏み入れるのも久しいな」

背後からそんな声が聞こえた。


「何者だ!」

ルード様ですら気配を察知することができなかったようで、彼は私を庇いながら驚いたように背後を振り返る。


「我は主の忠実なる僕!主から賜った名は、フェニックスだ!!!」


堂々と名前を言う姿は誇らしげで、主を心底慕っているのが一目でわかった。



「……フェニックス……そうか……とてもいい名前だ」

「かっこいい名前ですね」


私達は目の前にぽつんと存在している小さなすずめを見ながらそんなことを言った。

フェニックスって確か、伝説の不死鳥だった気がする。


すずめにつけるには大層すぎる気がするが、気に入っているのならそれでいいのだろう。



「あの、あなたの主というのはもしかして…あのお城に住んでいる方ですか?」

「そうだ。主はお前達を呼んでいる。我に着いてくるが良い」


そう言ってすずめはパタパタと翼をはためかせて宙を翔けていく。



「着いていってもよいのでしょうか…」

「…きっと、ウルティア殿の言っていた場所はあの城だ。彼女に、賭けてみよう」

「そうですね…」


私達は顔を見合わせて頷くとすずめを追った。



辿り着いた城には門番などおらず、勝手に出入りできる様な状態だった。

結界が張ってあるから平気なのかもしれない。

私達がすんなり入ることができたことに不思議に思ったが、このすずめちゃんと一緒だからなのだろうか。



「セシルは俺が守る」

城の門を通る瞬間、彼は小さくそう呟いた。


やっぱり私は彼と共に生きていきたい、改めてそう強く思った。


すずめが案内したのは一つの大広間だった。

奥に見える玉座には男性が一人座っている。


漆黒の髪に赤い瞳、肌は褐色で恐怖を象ったような容貌だが、当の本人はちらりと私達を視界に入れるとどこかがっかりしたような残念そうな面持ちに変わってしまった。



「なんだ…ウルチビじゃないのか」


ウルチビ、とは?


「あいつの魔力を感じたから迎えを寄越してみたら、他人だった。しんどい。つらい。眠い」

あいつの魔力というのは、きっとウルティアさんのことなのだと思う。


「ウルティア殿から、ここに行くよう言われて来たのですが…あなたはいったい…」

いかにも高貴そうな彼に、ルード様は恐る恐るという様にそう口を開いた。


「……魔王だが?」

平然とそう言ってのけた彼は最早私達には興味を抱いていないという風に視線を外して窓の外を見つめていた。

私達なんかより外に見える枯れ木の方が気になる様です。



「魔王、様…ですか?」

「そうだと言っている。最近の人間は物分りが悪いのだろうか。いや、ウルチビはそうでもなかったはず。…ウルチビは元気だろうか」

魔王と自称する彼は、どこか寂しそうにそんなことを言う。


「ウルティア殿は、国の命により魔女の力を使い魔物を討伐しています」

「…それは本当か?」


彼は顔を酷く歪めてこちらを見つめる。

恐怖を覚えるようなその表情は、きっとウルティアさんを心配してのものだ。

魔王様というのはもっと残酷で非道なイメージだったが、彼は違うらしい。


ウルティアさんに対してはかなり友好的であるとともに、それ以外にはさして関心がないように思えた。


「はっ、腐っていることは知っていたが…いつになってもこの国は変わらんな。よもやウルチビにまで手を出すとは。いい加減お仕置が必要か?」

魔王様はそんなことを口にし、顎に手をあて何やら考え込んでいる様子だ。


「いやでも、ウルチビは世界征服には反対してたっけ?世界滅亡だったらいいのか?うーん、わからん。人間のことはわからん。国王を蹴散らすくらいなら大丈夫か?…おい人間、ウルチビが喜ぶことを教えろ」

彼は考えがまとまらないのか、私達にそう問いかけた。


「…えっと、ウルティアさんが魔物討伐の役目から解放されるように動かれてはどうでしょうか?」

「解放…?」


魔王様が私に聞き返す。


「世界を滅亡させるよりは、魔物が悪さをしない世界を作る方が簡単なのではないですか?」

「なるほど、ウルチビの力が必要ないくらい国を平和にするといいってことか。俺にとっては殺すより生かすことの方が難しいが…別にどちらも大差はない。面倒くさいけど、ウルチビのためならやってやらんこともない」


魔王様…すっごく話がわかる!!!

驚いてルード様に視線をやると、彼も信じられないと言った風に目を見張っていた。



なんだかうまくいきそうな予感に、どうしようもなく胸が震えた。


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