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魔女と聖女
しおりを挟む日が暮れて随分時間が経った頃、控えめに扉をノックする音が聞こえてきた。
「どうぞ」
相手はわかっていた。
「ティア、聖女様に面会する手筈が整った」
息を切らしてやって来た彼の焦りが伝わってくるようだった。
「ふぁ~、遅いよレイ。もう来ないかと思ってすっかりおやすみモードだったからね?」
「ごめんティア…」
ぷくりと頬をふくらませてリアムに苦言を呈すると、彼はしょんぼりと眉を下げて謝罪する。
「嘘だよ…こんな時間でも会える様に取り計らってくれたレイには感謝してる。大変だったでしょ?」
「や、まあ…少しは」
「お疲れ様」
背伸びをして彼の頭をぽんぽん撫でると、レイはその真っ赤な髪と同じくらい頬を染めて照れていた。
なんかこの人って、たまにすっごく可愛いんだよね本当。
照れ隠しのようにムッと突き出された唇にきゅんと来ない女の子はいるのだろうか。
狙ってやっていないところがすごい。
「ティア?」
「…なんでもないよ」
誤魔化す様に笑うとレイは怪訝そうな顔をしていたが、構わず足を進めた。
たどり着いたのは離れにある一つの獄舎だった。
どうして王宮にこんなところが…
駆け落ちしたとは言え聖女として尽力してきた彼女を牢屋に閉じ込めるという発想が理解できなかった。
レイが手を回したのか見張りはおらずなんなく聖女の牢まで辿り着くことができた。
「…誰?」
鈴を転がすような綺麗な声だった。
輝くような真っ白な髪に金色の瞳はひどく幻想的で、顔立ちの端正さから神々しいものまで感じられる。
これが聖女…
改めて彼女が天から与えられたものの大きさがわかるようだった。
これは…必要以上に崇められ、不自由な思いをしてしまうことも頷けるな…
認めるわけではないが。
「はじめまして、聖女様」
「私はもう、聖女なんかじゃ…」
ひどく辛そうな表情で彼女が否定する。
そりゃあ自分が捨てたものでいつまでも呼ばれ続けるなんて嫌に決まってるか。
私の配慮が足りなかった。
「では、お名前を伺っても?」
そう言うと、彼女は驚いたように目を見開く。
「セシル…セシルと言います。私の名前を気にしてくれた人なんて彼とあなただけだわ」
彼が誰を指すのかなんて考えなくてもわかる。
きっと前騎士団長様なんだろうなぁ。
「セシルさん、よろしくお願いします。私は魔女のウルティアです」
「…魔女様?」
セシルさんはもう一度目を見開いて驚いたように口元に手を当てる。
そして、
「本当にごめんなさい…!」
勢いよく私に謝罪の言葉を述べるのだった。
「私が聖女の役割を放り出したせいで、あなたが今度は王宮に囚われることになってしまった…あなたは私よりもっと危険で大変なことを課されているのでしょう?本当に、謝って許されることではないけれど…ごめんなさい」
「許します」
あっさりとそう言って笑みを浮かべた私をセシルさんは信じられないと言った瞳で見つめていた。
「と言うか、誰もあなたを責める権利なんてありません。だってセシルさんは悪いことなんてしてないですもん」
「でも、私は…」
「聖女の前に女の子でしょう?」
一人のか弱い女の子が自分の境遇を憂えて、勇気を出して外の世界に飛び出した。
ただそれだけ。
その選択により誰かが苦しもうともそれは彼女の責任だと言えるのだろうか。
彼女が無償で人々を守り続けなくてはいけない理由はどこにもない。
それは私に対しても特大ブーメランだが、一介の魔女の私に国から逃れ続ける術はないから無理な話だ。
国そのものが手出しを出来ない領域まで行けばあるいは…
あれ…?
私、知ってる。国王ですら介入できないもの。
「ありがとう、ウルティアさん。そう言ってくれる人がいるだけで、私は救われました。聖女の力を無くした私にはもうどうすることもできません。大人しく運命に…」
「湿っぽいお別れの挨拶みたいなセリフ言ってる暇はありませんよ!」
得意げな笑みを浮かべて私は高らかに宣言する。
「きっとあなたも、あなたの愛する人も助かります!」
「ええっ?」
「ティア…?」
半信半疑で私を見つめる二人。
「セシルさん、手、出してください」
牢屋越しに彼女はおずおずとその綺麗な白い腕を差し出す。
「今から私の力をあなたに移します。はい、せーのっ」
「ちょっと、まっ…!」
私は彼女の制止も聞かずにありったけの闇の魔力を彼女にぶち込んだのだった。
「なんか、モヤモヤします…」
「聖女時代のあなたの魔力とは対極のような魔力ですから…しかた、あり…ません」
「ティア?」
「ごめん、ちょっと力あげすぎた…」
これは回復するまでしんどいかもなぁ。
「レイ、なんとかしてセシルさんと、ついでに、前騎士団長も…牢屋、から、出せる…?」
「頑張れば、なんとか…?」
なんとかできるんだ。
さすが第二騎士団副団長様。
「ありがと…セシル、さん…王宮から、出たら…今から言う場所に向かって…そこに、無事に辿り着けるくらいの…魔力は渡しました」
私はなんとかその場所と尋ねて欲しい彼の特徴を言い終えると、後はレイに任せて深い眠りに着くのだった。
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