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ふわふわして可愛らしいもの
しおりを挟む「私はふわふわして可愛らしいものが大好きなんだ!!!」
体格の良い体に、少し目つきの悪い赤い瞳でそんなことを言う公爵様に思わず耳を疑ってしまった。
怪物なんて称される彼にこんな一面があったなんて誰が思うだろうか。
「それはつまり、公爵様のお眼鏡に適ったのがうちの妹だったということでよろしいでしょうか…?」
「ああ、そうだ。一目惚れだ」
確かにふわふわして可愛らしいと言えばホーリィの代名詞と言っても過言ではない。
「でしたら、婚約を申し込んだらよろしいのでは?」
「それだと本当の意味で彼女を手に入れることなんて到底叶わないだろ」
「ホーリィと心を通わせたいと?」
私がそう尋ねると公爵様はこくりと頷く。
確かに私達は一介の伯爵家で、公爵様からそんな申し込みがあれば両親は喜んで受け入れてしまうだろう。
ホーリィはよく知らない公爵様(しかも社交界の悪魔)と無理やり結婚させられることになる。
そんな状況で常人が心を開き、公爵様に想いを寄せることなんて到底不可能だ。
「そうですね、懸命な判断だと思います」
問題はどうやってホーリィに公爵様を好きになってもらうかだ。
か弱くて華奢な彼女は少し臆病なところがあるから…
「ホーリィの好きなタイプは優しくて面白い人です。ですが、大前提として公爵様はもう少しコミュニケーション能力を上げた方が良いのでは?」
「コミュニケーション、能力?」
私がそう言うと彼は不思議そうに首を傾げていた。
自覚がないタイプは面倒くさい。
「公爵様が悪魔なんて呼ばれてしまう原因はその容姿だけのせいではありません」
「っ、そうなのか!?」
「容姿から連想される人柄を否定できない対人能力の無さです」
「…君は随分はっきりとものを言うのだな」
はっきり言わなければ気づかないでしょう?
公爵様が不器用で鈍感だということは少し話しただけで理解できた。
「どうしてこの場ではそこそこ会話も成り立つのに、社交界に出ると途端に無口になってしまうのですか?」
「…緊張するだろ」
「そんなものは初めだけです。慣れる努力をしないからそうなるんですよ?」
緊張なんて言ってられる場合ではないのだ。
いくら社交は女の役割が多いと言っても、このままでは伴侶すら怪しい。
勿論彼がどこかの家に婚約を申し込めば無理な話ではないけど、彼自身にそんな気がなさそうだから仕方ない。
「いくら人は見た目じゃないと言ってもやはり容姿が与える影響は大きいんです。それは私やあなたが一番理解しているはずでしょう?」
「ああ、そうだな」
しゅんとした顔で下を向いてしまう公爵様。
こんなあどけない一面を見たら一気に悪魔なんて印象飛んでいっちゃいそうなのに、気の毒な人。
社交界での噂もあながち否定できないような気の強さを持つ私よりも、きっと彼はつらい思いをしてきたのだと思った。
「だから、まずはたくさん話をして本当の公爵様を知ってもらいましょう。そうしたらきっとみんな本当の公爵様がどんな人か気づいてくれますから」
不安そうに手遊びする公爵様をじっと見つめて言葉を続ける。
「私はこんなに短い時間で、公爵様が本当は優しくて素敵な心を持った人だとちゃんと理解することができました。同じことです。本当の公爵様を曝け出すことができたら、きっとホーリィだって貴方の魅力に気づいてくれますよ」
「…っ、そうか」
公爵様は照れたように頬を赤らめ、それから少し嬉しそうに口角を上げるのだった。
…可愛い人だ。
こんな公爵様の一面を見る事が出来てなんだか得したような、くすぐったいような不思議な気持ちになる。
「私も、ちゃんと気づいたぞ。毒華と呼ばれる君がこんな悪魔の話を真剣に聞いて、考えを巡らしてくれるようなお人好しだって」
彼は蠱惑的な笑みを浮かべてそんなことを言う。
「公爵様からの相談を無下にできる程私は肝が据わっていませんから」
「憎まれ口は癖なのか?君は私にコミュニケーション能力がどうこうなんて言えないんじゃないか?」
この人、私の事をからかってる…!
「どうして私の前ではそんなにペラペラと口が回るのに、一度社交界に出ると驚くほど口下手になってしまうのですか」
「さあな、私にもわからん。ただ、ハンナ嬢は言葉に嘘がないから、ズバズバとものを言う君にはこちらも遠慮なく話が出来る」
なるほど、貴族社会では相手の腹を読んでこちらの有利に物事を進めることが常だ。
公爵様は良くも悪くも真っ直ぐな人間のようだからそういう社会そのものが苦手なのかもしれない。
「つくづくこの世界に向いていない人ですねあなたは」
「失礼だな」
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