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悪魔からの招待
しおりを挟むその日私は緊張した面持ちでその屋敷に足を踏み入れた。
そこは社交界でも悪い意味で噂に事欠かないカイゼル・ハディソン公爵の邸宅だった。
通称、社交界の悪魔
公爵様はその見慣れない漆黒の髪や赤い瞳のおかげでそんな不本意なニックネームを付けられてしまった不憫な方である。
なんだか気になって一時期観察してしまったことがあるので彼のことは少しだけ知っている。
彼は人とコミュニケーションをとることが苦手なのだと思う。
誰かから声をかけられることはもちろん、自分から声をかけることすら滅多にしない公爵様に私が勝手にそんな印象を持っているだけかもしれないが。
それでもやはりたまに社交界で目にする彼はどことなくそわそわしているように見えて、本当は人と話したいのではないかと予想している。
だから、彼からいきなり手紙をもらって、屋敷に招待された時は緊張したが、怖いなんてことは一度も思わなかった。
いや本当に緊張はしているが。
どうして私なんかを呼び出したのだろうかと、不思議には思う。
自慢ではないが、私だって公爵様に負けず劣らずの評判の悪さを誇っているのだ。
社交界の毒華、それが私、ハンナ・ルーベルの不本意な汚名だった。
これは公爵様と同じく、私の容姿から受けたイメージなのだろう。
私のツンとした印象を受ける少しつり目がちな瞳と、何もしなくても目鼻立ちがくっきりしている派手な顔面は、傍から見れば気の強い傲慢な令嬢といった風貌だ。
それに加えて私は昔から歯に衣着せぬもの言いをしてしまうこともあり、今では毒華とまて呼ばれる令嬢としては事故物件。
だけどきっと我が伯爵家は私とは違ってそれはもう可愛らしい妹が素敵な旦那様を見つけて継いでくれるから平気だ。
人間諦めが肝心な時もある。
「ようこそおいでくださいました、ハンナ・ルーベル伯爵令嬢様」
執事らしき初老の男性に案内され、応接間に通される。
扉が開くと、公爵様はソファに腰掛けじっとこちらを見つめていた。
「お初にお目にかかります、ルーベル伯爵家の長女、ハンナ・ルーベルです。今日はお招きいただきありがとうございます」
「ああ、わざわざ足を運んでもらい申し訳ない。どうぞこちらにかけてくれ」
対面するソファにと促されてそそくさと腰を下ろすと、彼は一呼吸置いて口を開いた。
「今日は折り入って君に相談があるんだ」
「相談?公爵様が、私なんかに?」
「君の妹であるホーリィ嬢についてだ」
少し頬を染めてそう言う公爵様に首を傾げる。
「あの、うちの妹が公爵様に何か粗相でもしてしまいましたか…?」
「いや、そうではない」
目の前の彼が首を横に振るのでますますわからなくなってしまう。
いったいどういった用件なんだ。
「これは姉の君にしか相談できないことなのだが、聞いてくれるだろうか」
「…まあ、その、内容によりますね」
「そうだな、何も言わずに了承を得ようとするなんて私が卑怯だった」
あっさりと謝罪の言葉を述べる彼に驚いてしまう。
彼は私が思っている以上に素直な人だ。
「私は…その、なんだ…つまり…」
どうしてか彼は、いきなりコミュニケーション能力が百くらい下がってしまったようだ。
その後ももごもごと声にならない声を発する公爵様。
しばらくすると、彼は決心したように口を開いた。
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